第31話 ヒューイの勘
ヒューイはひとまず安心して、山の麓の事務所で昼まで寝ていたところをルミに起こされた。
「殿下、王妃様からカトリーヌ様を護衛するようご指示を受け、参りました」
「お、おう。ルミか。えらい早いなって、もうこんな時間か」
ヒューイはベッドから起きて、時計を見て驚いた。もう昼の十二時近くだった。
「カトリーヌ様の居場所は殿下に聞けと仰せつかっております。カトリーヌ様はどちらに?」
「トーマス中尉に保護されている。ここから四時間ほどかかる山の中の陸軍の秘密施設にいる」
ヒューイはトーマスのニヤケ顔を思い出し、また少し腹が立って来た。
「保護……ですか? カトリーヌ様がじっとされているとは思えないのですが……」
ルミに指摘され、ヒューイは胸がざわめき始めた。
「テンタウルス山の攻略方法を考えているとトーマスは言っていたが……」
(カトリーヌのことだ。すぐに妙案を思い付き、実行に移すに違いない。俺としたことが、無事だと知って、気を緩めてしまった)
「まずい、今から行くぞ」
「どちらにでしょうか」
ヒューイはカトリーヌが思い付きそうな策を幾つか考えた。
「カトリーヌのことだ。ゾルゲに会いに行ったに違いない。恐らくインシュランの娼館だ」
「殿下が動くのはまずいです」
「変装して出ればよい」
「なるほど。では私にお任せ下さい」
ルミは化粧道具を取り出した。
「まさか、お前……」
「カトリーヌ様をお助けするためです。さあ、化粧しましょう」
***
「さすが殿下、怖いぐらいの美人になってしまわれた。クノイチで一番の美女と言われる私が、かすんでしまう美しさではありませんか」
「お前、楽しんでいるな。でも、クノイチで一番とか言っているとリリアに怒られるぞ」
「武技ではリリアに一歩譲りますが、容姿は胸の大きさで、リリアよりは少し上回っております。ほら、カトリーヌ様にも胸の大きさでは勝っております」
「お前、カトリーヌの胸の美しさを知らないのか。大きさも大事だが、形、張り、色、弾力、手触りなどの……」
「殿下! 殿下のイメージが崩れます。早く行きましょう!」
「そうだった。俺は何を言っているんだ。よし行くぞっ」
「ちょっとお待ちを。こちらは背の高い殿下でも大丈夫です。こちらをお召しになってください」
ルミはバッグから黒いゆったりとした服を取り出した。
「修道女の服か? なんでそんなものを持っている。そういえば、お前も修道女の格好ではないか。まさか最初から俺に女装させるつもりだったなっ」
「そんなことはどうでもいいではありませんか。修道女の服は喉仏が隠れるので女装にはもってこいなのです。早く着替えてください。って、私の目の前で脱がないで下さい。私もうら若き乙女なのですよっ。少し胸が大きいですが」
「うるさやつだ。ちょっと後ろを向いていろ。いや、待て、どうやって着るんだ、これは?」
ヒューイは結局ルミに手伝ってもらって、修道女に化けた。
「ちくしょう、カトリーヌのためとはいえ、なんて格好だ。そうだ、ルミ、軍の動きは知っているか?」
「はい。ランバラル大将が兵二十万を率いて進行中です。明日の夜遅くには国境に到着する予定です」
「二十万!? 陛下はこの機会に一気に王国を潰すおつもりかっ。だが、ランバラルが率いて来ているなら、俺は動いても大丈夫だな」
ルミは女装して真面目に戦争のことを語っている殿下がおかしくてたまらない。
「お前、何を笑っている?」
ルミは真面目な顔を作った。
「いえ、シスター・ヒューコ、なんでもありません」
「なんだその名前は?」
「殿下の変装をより完璧にするためです。私のことはシスター・ルミとお呼び下さい。それから、人の前では女言葉を使ってください。ちょっと練習してみて下さい」
「わ、分かったわ、シスター・ルミ、これでいいかしら?」
(殿下はこういうところが真面目で可愛いわね。世界一いい男にこんなことをさせるなんて、カトリーヌ様には本当に参っちゃうわ)
ルミはにっこり笑ってサムアップした。
「合格です。シスター・ヒューコ、行きましょう」
二人のシスターは馬に乗り、インシュランに向かった。インシュランまでは、馬でとばせば三時間弱で着くはずだ。
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