第32話 絶体絶命のピンチ

 私とリリアは、娼館街にある食事処でお昼を済ませて、娼館に戻ってきた。


 おかみがすぐに出て来て、ゾルゲと話がついたという。


 詳しい話を娼館の中でしたいということで、おかみに連れられて、リリアといっしょに娼館の二階に上がって行った。


 階段を上がると、右手に長い廊下があった。


「ここが二階の個室です。廊下を挟んで左右に十室ずつ二十室あります。娼婦の暮らす部屋を兼ねておりまして、殿方を女性の一人暮らしのお部屋にご招待する、をコンセプトにしております」


 おかみはなんだか得意そうだが、殿方の下りはどうでもよかった。娼婦が二十人二階に住んでいるというポイントだけ頭に入れておこう。


「一室空いておりまして、本日、ゾルゲさんはそちらに来られるそうです」


「あら、こっちに来るのね」


「なじみになるまでは呼ばないそうです。お部屋をお見せします。こちらにどうぞ」


 私とリリアはおかみの後に続いて廊下を進んだ。


 住んでいるというが、全く生活音のようなものが聞こえて来ない。


「こちらのお部屋になります」


 ちょうど廊下の真ん中辺りの部屋だった。


 おかみがドアを開けた。


 それが合図だったのだろう。


 廊下に面していた個室のドアが一斉に開いて、それぞれの部屋から剣を持った男たちが出て来た。


 おかみは部屋に逃げ込んで中から鍵をかけた。


 リリアが後ろのドアから出て来ようとした男にタックルしながら、部屋の中に男と一緒に転がり込んだ。


 男の脇腹にナイフが刺さっているのが見えた。


 私は左から切りかかって来た男を半身でかわし、胸から取り出したナイフで男の頸動脈を切った。


 切られた男は血飛沫をあげながら右の男たちに向かって行き、いい障害物になってくれた。


 もう一人の男が剣を振りかぶって来た。


 この男たちは素人に近い。踏み込みも甘いし、剣の振りも大きい。


 私は難なく男の剣をかわし、剣を振り下ろした状態の男に踏み込んで近づき、腰の入った膝蹴りを男の股にきめた。


 ぐにゃりという嫌な感触が膝に伝わるが我慢する。


 うめきながら前のめりになって倒れていく男の後ろ首に短刀を刺し、倒れた男から剣を奪った。


 あっという間に二人を倒した私に、男たちはビビったのか、慎重になったのか、動きが止まった。


 男たちの剣の構えは非常に固く、腰が引けている。


 リリアが剣を携えて部屋から出て来た。


 私とリリアは背中合わせになって、男たちと対峙した。


 男たちがじりっ、じりっと間合いを詰めてくる。


 私は小声でリリアに話した。


「部屋はどうだった?」


「窓がありましたので、ロープを下ろしておきました。窓の下には誰もいないようです」


「じゃあ、私から降りるわね。すぐについて来て」


「かしこまりました」


 私とリリアは素早く部屋に入って、鍵をかけた。


 男たちがドアを破壊する間に、私は剣を窓から投げて、窓をくぐってロープを持ち、壁をつたって地上に降りた。


 地上から部屋を見上げると、リリアがすぐに窓から出て来て、ロープを伝ってあっという間に地上に降りて来た。


 私たちはすぐに娼館を走り出て、酒場の方に向かって逃げた。


 通行人が剣を持って走る私たちを見て驚いている。


 どうやら追いかけては来ないようだ。


 私たちはお茶屋に入った。リリアがお茶とお団子を注文してくれた。


「リリア、今度、ロープで降りる技を教えてね。二日連続でしょ。覚えておいた方がいいみたい」

 

「かしこまりました。でも、いったいどうなっているのでしょうか」


「恐らくゾルゲを使って私を殺そうとした黒幕の仕業ね。私たちの行動が読まれているみたいだから、かなり頭がいいと思うのだけど、あんなチンピラを送り込んで来るなんて、リリアと私の腕前のことを全く分かってないみたい」


「誰なんでしょうか?」


「分からないけど、ゾルゲとの関係はすでに切れているようね。ゾルゲは私たちの戦闘能力を部下から聞いているはずだもの」


 私がリリアと話していると、二人組の修道女が店に入って来た。


 小さい方が頭巾を外して、私たちに手を振った。ルミだ。


 もう一人の背の高い美人が私に話しかけて来た。


「カトリーヌ、やっと会えた」


「ヒューイ……?」


 大きな修道女の方は化粧をしたヒューイだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る