第24話 カトリーヌ襲撃

 カトリーヌはリリアと治水の専門家数名とラムダン川の上流に来ていた。遊水池の候補地の調査のためだ。


 ラムダン川の上流はダンブル側の山と王国側の山との間を流れており、川が国境となっていた。


 カトリーヌ一行はダンブル側の山の斜面を降りて河原に出ていた。


「カトリーヌ様」


 リリアは川の向こう側の王国の山の方に違和感を感じて、カトリーヌに声をかけた。


「うん、鳥の様子が何だか変ね。全員すぐに戻るわよっ」


 カトリーヌはそう言ってすぐに反転して走り出した。リリアはカトリーヌの背後に回り、壁役になりながら追走する。


 専門家たちは何が起きたのかと一瞬反応が遅れた。


 突然、弓矢の雨が王国の山の方から降ってきた。


 何本かがリリアのヘルメットと背中に当たるが、背中の方はボディアーマーが防御してくれる。


 リリアの後方で治水の専門家たちが悲鳴を上げながら次々と倒れて行く。昨日まで一緒に苦楽を共にした仲間だが、このまま見捨てるしかない。


 リリアは振り返らず、カトリーヌに矢が当たらぬように背後を守り続けた。


 二人はダンブルの山の方に向かって、河原を走った。


 弓矢は止んだが、王国の山から数十人の兵士たちが現れ、川を渡って追いかけて来る。


「カトリーヌ様、私が囮になりますので、お一人でお逃げ下さい」


「それはダメよ。この先でもっとまずい場面が来るかもしれないでしょ」


「……。分かりました」


 カトリーヌとリリアは斜面を登って山林の中に入った。すると、右前方からも敵が来る気配がする。


 左側は崖になっているが、カトリーヌとリリアは迷わず左側に進んだ。


「カトリーヌ様、崖をロープを使って降りたと見せかけて、木に登ってやり過ごしますか?」


「見つかったら次の手がなくなってしまうわ。ロープを使って崖を降りましょう」


「かしこまりました。こちらを」


 崖が近づいて来た。リリアがカバンからロープを取り出し、近くの木に結んで、崖に垂らした。


 敵の足音が聞こえてきた。


「カトリーヌ様から降りてください」


「リリアが先に降りて。あなたが先に降りなければ、私は降りないわよ。そうなると、二人ともここで終わりよ」


「……。分かりました」


 リリアが腰にロープを巻いて、慣れた手つきでぽーんぽーんとリズムよく崖を降りて行く。


 無事に下まで辿り着いたようで、ロープが緩まった。だが、カトリーヌはリリアのようには慣れていない。


 少し手間取っていると、敵の一人に見つかってしまった。


「お、ここにいたのか。何だ、すごいべっぴんさんじゃないか。殺すのは惜しいな」


 敵の若い男がニヤニヤしながらカトリーヌに近づいて来た。カトリーヌが武道の達人であることは知らないらしい。


 カトリーヌは鋭く踏み込み、男の金的を容赦なく蹴り飛ばした。


「ひんぐ」


 カトリーヌは奇妙な悲鳴をあげている男の背後に回り、首を絞め落とした。


「スケベで助かったわ」


 カトリーヌはロープにつかまりながら、ゆっくりと崖を降り始めた。


 降りている途中に敵に見つかりはしないかとヒヤヒヤしたが、何とか下まで降りることができた。


 だが、降りている途中から気になっていたのだが、下にリリアの姿はなかった。


(どこに行ったのかしら)


 少し歩くと、リリアが縄で縛られて、数人の男に囲まれていた。猿ぐつわをかまされている。


「なっ」


 カトリーヌは目を疑った。


 男の一人がカトリーヌに話しかけて来た。

 

「声を出さないでください、カトリーヌ少将殿」


「あ、あなたは!?」


 カトリーヌの前にいたのは、湖畔の城で食事をした将校の一人だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る