第29話 フロアボスとの戦い
ダンジョンを進むわたし達。
ご飯や安全地帯とかの確保が容易になったので、わたし達の足取りは軽い。
あっさりと魔物を倒すみんなに、とっても強いうちの子達。
一切光源のないフロアもわたしが覚えた魔女の杖で、進む先どころか周辺だって明るく出来る。
天井に向かって光源を放つ分、天井近くに出入り出来そうな穴には気づきやすく、それをユウセンの土魔法で埋めたりして、バックアタックの可能性も極力減らすことが出来ただろう。
順調。だった。
きっと順調すぎたのだ。
「KISYAAAAAAAAAA!」
フロアボス。巨大ムカデの鳴き声。
あまりにうるさい、あと黒板をひっかいたような、嫌な音に思わず耳を押さえるわたし。
「デカムカデ! 前方一!」
貴史が途中の道のりの宝箱から出てきた小さな盾を構えて、巨大ムカデとわたし達の間に立つ。
正直その勇気は凄いと思う。
「ムカデって事は毒持ちだと考えた方が良い!」
「毒なら治せるけど、酸だったらやばいから避ける方向でよろしく!」
恭介の言葉にその毒を治療することになるであろう大地が補足する。
毒なら治すだけの時間が持てるかも知れないけど、酸だったら時間が足りない可能性があるって事なんだろう。
貴史が、巨大なムカデの注意を引き、鏡や拓が攻撃を行っている。
だけど。
「くそっ! 硬い! 天然の鎧だよ、マジで!!」
包丁では巨大ムカデの外殻は傷つけられないらしい。
「隙間か腹だな!」
拓も拳で外殻を殴ったようだが、すぐさま離れて、殴った方の手を振っている。
どうやら硬すぎて痺れているらしい。
「拓、【治癒】」
「サンキュ」
すぐさま、大地が治癒魔法を発動させ、拓は痛みが消えたのか、一言そう言って巨大ムカデに向かっていく。
「超必行ってみる!」
拓の言葉に、鏡が慌てて飛び退く。
射程圏内にはいっているのだろうか?
そんな事を考えていると、拓の右腕にまばゆい光が集まっていく。
「【必殺・1】」
ドガンッ! と派手にぶつかる音がした。
巨大なムカデがくるくると横回転しながら飛んでいき、壁に激突してまた派手な音が立つ。
「わぉ。レベルいくつだよ、今の」
「レベル1だな」
レベル1でこの威力かよ。と、鏡が驚きつつも笑う。
巨大ムカデは、先ほどとは違い、かなり鈍い動きで、めり込んだ壁から這い出る。
「せっかくなので、オレもっ」
と、貴史が駆け出す。
握った包丁に先ほど拓が出したのと同じような光が集まっていく。
人よりもずっと大きな姿で威圧感を出すかのように巨大ムカデは頭を起こし、再度あの嫌な鳴き声で威嚇した。しかし貴史は平気なタイプなのか、その声を無視し、跳躍した。
「【剣技必殺!】」
唐竹割りのように、光をまとった包丁が巨大なムカデを真っ二つに縦に切り裂いて行く。
鳴き声も止み、左右に分かれて倒れていき、派手な音と土埃が舞う。
「流石レベルMAXのスキル。レベル1でも威力が半端ねぇ」
「レベルMAXのレベル1ってことはレベルによって効果が違うって事?」
「そう。消費MPも違うけどね。レベル数の連撃が行われるみたいだよ。レベル1は一番消費MPが少なくて、単発の攻撃だね」
恭介の言葉にへぇ、そうなんだ。と相づちを打つ。
MP回復ポーションがあっても、そもそものMPがないと撃てないという事なのだろう。
そういうところは困りものだね。
ひとまずこれでフロアボスの戦闘は終了という事だろう。
ふぅと、息を吐いたところで後ろから強く押され、バランスを崩し、地面に倒れ込む。
「うわっ!? いったぁ……」
痛みを訴えつつ後ろを振り返れば、そこには先ほど息絶えたはずの巨大ムカデの顔があった。
コニーの首には大きなハサミのような牙が噛みついていた。
「え……?」
戸惑うわたしの目に、大きな顎が、コニーの首を絞め、そして……。
まるで、ハサミで切り花の茎を落とすような音がして……、コニーの体が二つに切り落とされた。
「もう一匹!?」
恭介が驚きの声や、静さんの悲鳴が微かに聞こえた。
コニーの体が倒れて崩れ落ちていく。
「HIGYAAAAAAAA!!」
威嚇するような鳴き声。
さっきまでのわたしなら、怯えたかもしれない。
でも、今のわたしにの中にあったのは怒りだ。
「うちの子に! 何してくれてんのよ!!」
涙が浮かぶ。悔しい! もっと周囲に気をつけていれば!
あの子は死なずに済んだのに!!
魔女の杖をわたしが振り回せるギリギリのサイズのハンマーに変える。
獲物と見定めたのだろう。襲ってきた頭に思いっきり振り回す。
ハサミのような牙にちょっとかすった。
ただそれだけだった。もう一度今度は反対になぎ払う。
それをひょいっとあの頭は避けた。
そして、持ち上げられた頭が、わたしを食べようとまた襲いかかってくる。
「っの!」
「GIGYA!?」
横から拓が蹴りを入れ、巨大ムカデの頭が横にずれる。
「大丈夫か!?」
貴史が走ってきてわたし達の前に立ち、壁役となってくれる。
きっとこの二人がまた倒してくれるだろう。
必殺技のスキルを使えばあっという間だ。
でも、そんなの嫌だ。
このまま後ろで逃げ隠れしたくない。
わたし自身で仇を取りたいっ!
「下がってろ」
「やだ」
拓の言葉にわたしは半泣きで答えた。
「あいつのせいで、コニーが、コニーが……許さないっ」
ずびっと鼻をすすり、腕で涙を拭く。
「……そのハンマーみたいなやつで倒せるとは思えないけど……」
拓の言葉に魔女の杖を見る。
ギリ振り回せる重さのハンマー型魔女の杖。
じゃあ、もっと重くする?
でもそしたら持ち上げるだけでも大変だ。
考えろ。
わたしの力で仇を取る方法を。
魔女の家で圧死? たぶん無理。
魔女の瞳。どうしようもない。
源泉。……MPだけあっても、わたしは魔法を使えない。
魔女の杖で出せる光魔法ぐらいしか……。
ああ。いっそ、ゲームや映画みたいに攻撃できたら……。
レーザーや剣の形をした光魔法などが思い浮かぶ。
そうだよ、光を集めて収縮させて……。
わたしは魔女だ。
魔女なら。
「不可能を可能にするっ」
悪い魔女だろうが、良い魔女だろうが、それは一緒だろう!
それがわたしの思う魔女だ。
心の中でそう叫んだからか。
ハンマー型魔法の杖が光り、そして、ハンマーの先に槍の穂先のような光が現れた。
これが、魔女の力だ。
力が欲しければ、与える、【魔女の杖】だ。
わたしはそれを巨大ムカデに向ける。
「飛べ!!」
わたしの言葉に、音も無く、光の槍、いや、矢なのかもしれないそれは飛んでいった。
本当に目で追えたのか、それとも残像をそう認識したのか、はたまた全てが幻覚か、分からない。ただ、なんとも奇妙な形の光の矢は、巨大ムカデの頭をあっさりと切り裂いて、目を含む頭の上の部分が地面に落ちていく。
それでもなお、ギチギチと動く体。
獲物を食べようと動く顎。
頭が半分無くなってもまだ生きてるのか。
そう呆れたが、その動きはやがて鈍り、起き上がっていた長い胴体は、壁の方へと倒れ、ずり落ちていく。
地面に落ちてしばらく動いていた足は、ようやく動かなくなった。
今度は油断なく周囲を見渡す。
三匹目は出てこない。
「……終わった?」
恭介の言葉に、さらに一拍の時間をおいて、貴史が、たぶん。と答えた。
終わった。
そう思ったら、体から急に力が抜けた。
杖を落とし、地面に座り込む。
怒りが収まったせいだろう。今更と自分自身で思うが、恐怖がわき上がってきた。
震える手を握りしめ、右手を覆うように左手を添える。
仇を取った。だからといって喜ぶつもりはなかった。
まぶたを閉じ、涙を落とす。
もう一度目を開いたわたしの目には魔女の瞳が見せるパネルが見えた。
ソレを読んでわたしは歪な笑みを浮かべた。
【魔女の使い魔のレベル制限解除の条件を満たしました】
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