第28話 幼い頃の女の子はきっとみんな憧れる。



「ラスト!」


 そんな声と共に犬っぽい魔物が倒される。

 ダンジョン攻略は順調だった。

 アイテムの収集も順調なのだけど、レベル上げがあまり進まない。

 わたしも、だけど、周りも、である。


「使い魔、出し過ぎ、倒しすぎ」


 という結論に至り、経験値を得るために、使い魔を少し減らして、彼らには魔物の討伐を減らして貰い、そして、わたしも実際に戦えとなった。


「はい」


 という言葉と共に渡されたのは少し大きめの石。


「モンスターに当てれば多少なりとも経験値入ってくるよ!」


 大地君は実に良い笑顔で言うが。

 わたし、コントロールに自信ないんだけど……。


「んー……。とりあえず、魔女の杖、取ってみようかな」

「魔女の杖?」

「そうスキルの」


 わたしの言葉に大地は少しばかり恨めしそうな顔をした。

 聞くと彼はレベルが上がり辛いらしく、使い魔でレベルが上がるのが羨ましいとの事。


「でも、魔女ってスキルがいっぱいあるんだよね」


 確か、42だったと思う。


「源泉取ったから魔力回復系は無視しちゃっていいから、必要なのはぐっと減るんだけど……。魔女って付くスキルもまだあるし……、あと、途中からレベルが上がりにくいっぽいんだよねぇ……」


 どうもレベル3から先がなかなか大変らしい。

 魔女の瞳も、家も、使い魔もレベル3で止まってるんだよね。


「え? 成長補正がついてるミューでも上がりにくいの?」


 大地の言葉にわたしは頷く。


「そう。そう考えるとレベルMAXのスキル4つってかなり破格だったのかもね」


 わたしの言葉に大地は少し悩み、それから頷いた。


「職とスキルにも寄るけどそうかもね」


 彼は困ったように笑い、そして、肩をすくめた。


「ただ、思った物とは違ったものも多かったけど」

 

 その言葉に、確かにと苦笑するしかない。

 確かに賢者で、魔法を使わない職とは思わないよね。

 なので、一応、文字で想像するのとは違う可能性も、一応(大事なので二度重ねしたけど)考えた上で、わたしは『魔女の杖』というスキルを取った。

 村で聞いた魔女のお話からすると、力を与えてくれる杖っぽいし、どっかのRPGみたいに、使用すれば炎が出たりするのでは? と、期待している。

 一応、違う内容かも知れないっていうのも考慮してるよ、大丈夫だよ、うん。たぶん。


「魔女の杖」


 スキルを意識して、そう口にすれば右手に光が集まり形を作る。

 それはまさしく……。


「……ペンライト……」


 コンサートとかに使うペンライトだ。

 あ、スイッチ押すと普通に赤とか青とかにいろんな色に変わって光る。


「あ、懐中電灯モードもあるね」


 先ほどのスイッチとは別のスイッチを押すと先端から光が伸びて、伸びた先がまるーく明るく照らされた。

 わたしは改めてスキルの詳細を見る。


「魔女の杖。MPが無くても属性魔法を使える。威力は作成者の魔女レベルに準じる。(光属性)だって。あっはっはー。ただのペンライトじゃんっ!!」


 ぶんぶんペンライトらしく振り回す。


「せめて、ライトの魔法なら魔法ライトらしく、ライトを飛ばしてみぃ!!」


 わたしの脳裏に浮かぶのは、とあるアニメの魔法のシーン。

 剣の先に明かりを灯したり、上下左右、好きな場所に魔法の明かりを灯してたりしていた。

 ズキリと一瞬の頭痛がしたな。って、思ったら、振り回した影響か、ポーンと。緑色の光の球が杖の先から投げ出された。

 投げ飛ばされた緑色の玉が遠くの方で、宙に浮き、そこからLEDライトの街灯っぽい光が地上に向けて放たれた。色は緑ではなく白なので、とっても街灯っぽい。


 全員無言になった。


「あー……。うん……。何あれ?」


 大地が指を指して尋ねる。


「……魔女の杖の、光魔法?」


 もう一度、飛ばすイメージでペンライトを振る。

 同じように緑色の玉が出て、街灯のように地上に向かって光を放つ。

 ペンライトの色を赤にしてみた。

 うん。今度は赤い玉が出た。でも、放つ光は白だね。

 ……いや、その辺は変えられるのかな? たぶん変えられる可能性の方が高そうだよね。


「消費MPは?」


 と恭介が聞いてくるので、「0」と指で示す。


「おぉ。それは凄い。全員分出せたり出来る?」

「たぶん」


 言いつつ、次々と魔女の杖を出す。


「うん。出るね」


 形も指揮棒っぽいのから、魔法少女みたいなやつ、長い杖、魔女っぽいやつと形も色々と変えられた。

 魔法少女かぁ……。小さい頃、ちょっと欲しかったんだよねぇ。

 ステッキ。

 買って貰えなかったけど。サンタさんにお願いした時は何がきたっけ?

 あー、もう流石に覚えてないなぁ……。

 そんな事を考えながら魔女の杖を出していると、戸惑った声が聞こえてきた。


「おぉ……普通ので良かったんだけど……」

「いや、形を変える事で熟練度が上がってレベルが上がると思うから」


 たぶんだけど。魔女の家や使い魔、瞳から考えるとそうなんじゃないかな、って思うんだよね。


「でもちょうど良かった。もう一つ下がるとだんだん光源がなくなってきて、最下層では真っ暗闇っぽいんだよな」

「初めて聞いたけど?」


 思わず顔をしかめると、恭介は苦笑した。


「一応、ボク、種火出せるから、たいまつとかそういうの準備するつもりだったよ」


 彼の言葉にわたしは息を吐いた。

 そんな事しなくても、たぶん魔女の家を作るときにきちんと想像すれば懐中電灯くらい用意出来ただろう。

 でも、まぁ今更だし、懐中電灯よりはきっとこっちの方がいいだろう。


「でも、これだとミューは相変わらず攻撃方法ないな」

「え? これを投げればいいじゃん」

「え? それはどうよ」


 大地の言葉に、魔女の杖を示したのに、否定的な言葉が返ってきた。


「えー? だめ? じゃあ……」


 もしかして相手に奪われて使用されるとか考えているのだろうか?

 そうなるとわたしの攻撃方法は一つだけだ。

 しばらくダンジョンを進んだ後、わたしは唱える。


「魔女の家!」


 わたしの言葉に併せて、数メートル上から魔女の家が出現し、そして重たい音を立てて、地面に落ちていく。

 重たい音と一緒に獣の鳴き声も一緒に聞こえたので、もくろみは成功したと思われる。


「まさかの攻撃方法!」

「でも大して痛くないのでは!?」

「足止めにはなるでしょ?」


 周りの言葉にそう返す。

 食べ物を無駄にするな。という声は今のところ聞こえない。

 たぶん、家サイズの魔女の家は食べられるとしても、食べる物から無意識に除外されているのかもしれない。

 中、歩いたりするしね。

 地面に直置きだしね。


 とどめは男子諸君に任せ、わたしは、魔女の家と、ライトをどんどん放り投げる。

 いやぁ、街灯のように一定の場所を光らせる事も出来るし、閃光弾のように、まばゆい光で敵の目をくらませる事も出来るようだ。

 あと、ゆっくりと光が移動するように、暗がりに飛ばせば、人が近づいてきたと勘違いして、襲ってくる魔物もいた。

 うん。思ったより、便利かも。

 もしかしたら、魔法少女系のステッキだったら星形の光も飛ばせるかも。なんて考えながら、わたし達は進む。

 その後。自由自在に形が変えられるのなら、と、てっぺんをトンカチタイプの魔女の杖を出し、ユウセンに協力して貰い、モグラたたきのように魔物達を叩くわたしの図があった。


「魔女だ」

「間違いなく魔女だ」


 そんな声が聞こえてきたような気もするけどきっと気のせいだろう。

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