第27話 ダンジョンを進む1
準備を終え、さっそくダンジョン探検開始! となるはずが、外に出たら、うちの子達が倒しまくったダンジョンの魔物のドロップアイテムが庭に山のように積まれていた。
静さんにそれの回収をお願いし、もしやと思いステータスを確認するとレベルが上がり新しいスキルを覚える事が2つ出来るようだった。
……源泉は……あ、レベルが1つ上がってる。
その事にほっとし、うちの子に『願い』のスキルの事を聞いてみた。
魔女の特殊スキルである事は知っているけど、それ以上の事は特に知らないようだ。
そのスキルを取ることについては特に何も問題はないと思うという回答も貰えた。
なら、今後の事を考えると、願いは早めに取っておいて育てた方がいいのかな? っていう気になった。
あと、もう一つについては、今後、というよりも、現状と実験も兼ねて「魔力回復(極大)」のスキルを取る事にした。
このスキル。わたしにとってはもう不要となったスキルだ。
いや、MP回復ポーションはとっても売れそうだなぁって思うけど、それなら大地君に協力してもらえばいいだけだし。
なので。このスキルは精霊術士となった恭介君に譲渡する事にした。
魔力回復(極小)じゃないのは、わたしの源泉のレベル上げのためでもある……。
そこはごめん! 協力して! と、心の中で謝っておこう。
スキルを取ってスキャンで内容を見ると、レベル1だと1万くらいが上限っぽい。
でも1万もあれば初期の魔法は使いたい放題! っていうくらいは使えるだろうし。
足りなかったらまた補充すれば良いでしょう。
って、わけで。
「おーい。恭介君と拓也君、ちょっといいかなぁ?」
二人に声をかけると二人は振り返り、として、恭介君は照れくさそうに首元をかいた。
「名字じゃなくて名前で呼ぶなら呼び捨ての方がいいかな」
彼の言葉に、そう? と、首を傾げる。
わたしが、彼らを名字で呼んでいないのは、この国は基本、平民は名字というのを持たないからだ。
○○村の□□の娘の△△。みたいな感じでわたし達は身分を明かす事も多い。
噂に寄ると、さらに田舎だと村の名前が省略されて、両親の名前と自分の名前として身分を証明するらしいよ。
村が田舎過ぎて、近隣に村がないから、自分たちの村の名前を知る必要がなくて、知らないっていう事もあるっぽい。
そういうところにも領主は兵士を派遣するのか、って前にわたし達を街にと送ってくれた兵士のおっちゃん達に聞いたところ。
発見されて、税金を納めるのならば。と返された。
思わずナニソレ、と返したのはわたしだけじゃない。話を聞いていたほとんどの子が首を傾げてたはずだ。
大体は、村の子達が名前を知らないだけで、村長とか上の者達は名前を知っているそうだ。
でも時折、本当に村に名前がない場合がある。
それは逃走者達が作った村だという。
どこかで起きた戦争から逃げた者達。
魔物が増えすぎて、住んでいる処から逃げ出した者達。
罪が犯した者達が逃げた先。
人目につくこともなく、食べ物があり、住んでいけるだけの条件が揃ったら、逃亡する事にも疲れて、そこに家を作る事があるそうで。
小さな家族単位くらいならそれが大きくなることはほとんどないそうだけど、村ごと逃げてきた場合などは、また村が出来るのは当たり前なわけで。
「だいたいそういう村っていうのは、元の領主様が微妙なところが多いからなぁ。貴族は税金取るだけだって思ってるやつらの方が多いし、もしくは逃げた事で罰せられるんじゃないかって怯えている場合もある」
そこまで聞けば、税金を納めたら。という理由が分かった。
子供が成人しスキルを得るために、と言えど、すべての村に兵を送るのも大変だろう。
それでもきちんと兵士が送迎するのは、わたし達が税を納めているからだ。
でもそういう村は上に知られないようにとひっそりと暮らしているため、税金も納めていないのだろう。
って、話が大分それた。
つまり、基本。こっちの人たちは名前呼びが普通なのだ。
だから、わたしも名字ではなく、名前で呼んでいる。
転移組の彼らからすれば気恥ずかしいだろうけど、そこは慣れてほしい。
五人が名字で呼び合う仲なら、名字呼びでも良かったけど、名前で呼んでるしねぇ。
「んじゃ、遠慮無く呼び捨てで。恭介と拓也に提案があるんだけど」
提案? と不思議そうな二人にわたしはニパッと笑う。
「魔力回復極大スキル、恭介、貰ってくれない?」
その話を恭介君と拓也君にすると二人は驚いていたけれど、わたしにとって不要とスキルである事も理解しているのだろう。
「え!? いいのか!?」
「いいよ。レベル1だと、最大MPは1万らしいけど、そこまでの回復も請け負いましょう」
「うわぁ。マジ助かる! ありがとう!」
恭介は嬉しそうにお礼を言ってきて、拓也はわたしをもう一度見た後、頷いた。
「……分かった」
差し出された手に、一瞬の硬直とも言える間があったけど、その手にわたしの手を置く。
手の平を差し出されたら、置くしかないよね。
握手とも違う接触に、なんとなーく複雑な気持ちになった。
恥ずかしい……いや、そこまでじゃないから、照れくさい?
うーん。村ではそんな事なかったけど、相手が日本人だからか、日本での感覚が強くなるのかも?
恭介とも手をつないだ拓也が聞いてくる。
「魔力回復(極大)を譲渡しても良いか?」
「いいよ」
同意をすると、ベリッとかさぶたを無理矢理剥がされたような痛みが胸元でした。
そして、魔力が流れる時とは違い、もっと形のある何かが流れていく。というような感覚が肘から手へと移っていく。
その後の違和感は特になく、かわりに恭介が、「うへぇ」っと声を上げた。
お互い、一瞬の痛みとちょっとした違和感のみでスキルの移動は終わった。
あとは魔力を補充すれば……。
「やった!! これで魔法が撃ち放題!!」
やっと念願の魔法が撃てると恭介くんは 非常に嬉しそうだ。
静さんの作業も終わったようなので、魔女の家レベル2を回収? 消去? する。
わたしはもらった地図を出して、ユウセンとクローバーに見せる。
「わたし達は今日、ここからこういう風に通って下の階に向かう予定。こことここの宝箱は取りにいくから、このルートの敵以外はやっちゃっていいよ」
わたしの言葉に二人は「チュゥッ」や「チッ」と鳴いて……。わたしの陰から、それはもう黒い波のように現れて走り、飛び去っていく。
「……何も知らないでこの光景見ると、すっげぇ、怖いよな」
「これだけの量のネズミと鳥に襲われるというのは、恐怖以外の何物でも無いな」
後ろから聞こえてくる会話。でもわたしは、聞こえません。とばかりに走って行くうちの子達に手を振り、頑張ってねぇとエールを送る。
それからわたし達も一塊となって歩き出す。
彼らはこのあたりの敵は慣れたものなのだろう。
恭介が魔法を放った敵から拓也が蹴り殺していく。
そういや、拓也は戦士だったね。
聖騎士の貴史はいままで、敵からドロップした剣を使ってたんだけど、あまり質が良くなかったから、と、今は魔女の家にあった包丁を装備している。
……剣よりも包丁がいいの?
そんな疑問はあるのだけど、口にはしなかった。
拓也は己の体を使った戦い方を。
貴史は結界を盾代わりに使うという器用な事をしながら戦闘を行っていた。
「二人ともすごいね」
「身体能力系含めて、スキルがレベルマックスだからね。流石に日本に居た頃からああじゃないよ」
わたしが驚きと共に口にすれば大地が苦笑と共に教えてくれた。
そして、合間合間に鏡が敵の背後に回ってバックアタックしたりしている。
恭介はその補助かな?
最初は小さな火だねだったんだけど、それをいくつも出して大きな塊にして投げてたりしてた。
レベル2になったらピンポン球くらいになったから、今はそのまま魔法を撃ってるけど。
こうやってみると本当に。
「ダンジョン探索のためにって、感じだね」
若干鏡の動きはアサシンっぽい気もしますが。
「自分たちはそのために職業やスキルを選んだしね」
大地は少し嬉しそうに口にした。
攻撃方法も回復もいろいろと増えて、苦しいよりも楽しいというのが前に出てきたのだろう。
「ミュー達はダンジョン荒しって感じだよね」
「ちょっとひどくない!?」
大地から出てきた言葉にわたしは反論する。
「いや、使い魔を使ってダンジョンの宝を手に入れたり、倒した敵のドロップ品を持ってきて貰うって十分に荒しだと思う」
彼はわたしの手元、ユウセン達が持ってきたドロップアイテムを受け取るわたしの手を見ながらそう言った。
……いいじゃん、しばらくしたら消えちゃうんだし……。
「宝箱ごと移動させてるわけじゃないからダンジョン的にはセーフじゃないかな?」
「いや、アウトじゃないかな?」
ダンジョンマスターという職種をわたし達は見たことがない。ので、きっと多分居ない。
運営しているとしたら、それこそ神々サイドだろう。
なら、遠慮する事は無い。
日本人がチート能力手に入れたらどんな事をやらかすかっていうのが、お求めですからね、あちらは。
だからきっと大丈夫なはずである。
そんなのんきな会話をしながらわたし達はダンジョンを進むのであった。
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