第26話 凄いスキルたち。その2



 翌日。

 静さんが夜なべしてナップサックを作ってた。

 静さんもそうだけど、彼らも、新年早々異世界へと送り込まれたらしく、基本持ち物は財布と携帯だけ。

 鞄を持っていた大地君や鏡君の方が珍しいのだろう。

 そして何も持っていない三人のために、水と食料が入れられるようにナップサックを作ったのだという。


「ダンジョンというのは、迷宮なのでしょう? 何かあってバラバラになった時、助けに行くにしても時間がかかるかもしれないし……。だから非常用に、と作ったのだけど」


 静さんは頬に手をあえてて、首を傾げた。


「いけないことだったかしら?」


 持っていない三人は、受け取ったナップサックをとても複雑そうな顔をしていたからだ。


「ちょっと、かっこ悪いとか言うつもりじゃないでしょうね?」


 それならこのナップサックはわたしがもらう!!


「いや、そうではなくて、戦闘中に邪魔にならないかな、と……」


 思ってもみなかった言葉が出てきた。

 聞けば動きを邪魔しないように、とダンジョン内では鏡君のカバンは恭介君が持っているそうだ。

 彼らは迷い迷って、おずおずと静さんに質問した。


「正直言えば、自分たちで水と食料が持てるのはとても助かります。でも同時に戦闘が始まったら、邪魔にならないところに投げ捨てる可能性もあります。そういう扱いをしても、いいでしょうか?」


 拓也君の言葉に静さんはすぐに頷いた。


「貴方達の助けになれば、と作ったものです。これのせいで怪我をする方がわたしは嫌です。その扱いで全然かまいません」


 静さん!!

 流石の包容力。魔女(副業)よりも聖女の方がお似合いだと思います!

 

「……ありがとうございます」


 彼らも、少しも嫌がる事なく言葉通り快諾してくれた静さんに少し照れてお礼を言っていた。

 もしかしたらこのうちの誰かは静さんに惚れちゃうかも? なんてちょっとニヤニヤしちゃう。


「保存食って考えると……缶入りクッキーとかかな?」

「すげぇ。取っても取っても減らねぇ」

「……ポケットの中には、ビスケットが」

「なぜ急に歌い出す!?」

「いや、なんか、どんどん増えてく様子が、つい」


 歌い出した恭介君に貴史君がつっこむ。

 仲、良いねぇ。

 と、思いながらわたしは昨日もらった地図を広げる。


「……ねぇ。みんな聞いてもいい? ボスと宝箱のある道は行くとして、他はどうするの? 行くの?」


 楽しそうに物色していた五人は振り返り、顔を見合わせた後、首を横に振り否定した。


「ゲームならマップ埋めとかそういう事を考えるけど……現実って考えると……」

「鏡のおかげで、宝箱とかは分かるし、特に行く必要ないんじゃないか?」

「……レベル上げは装備が整ってからで良いと思う……」


 大地君、貴史君、拓也君が行わない理由を告げてくる。

 ボスの強さはどうなのだろう、と思ったけど、非戦闘職の恭介君がいても、これだけダンジョンで過ごせたのだ。

 彼らはわたしが想像するよりももっとずっと強いのかもしれない。


「じゃあ、他のところはわたしの使い魔達で掃除していい?」

「使い魔ってあのネズミ?」


 貴史君の言葉に頷く。


「ネズミもそうだし。あと他にも鳥と馬がいるの」

「いいけど……」


 彼らは顔を見合わせた後、当然するであろう質問をしてきた。MPは大丈夫? と。

 その質問にわたしは、彼らにわたしの事情を説明していない事に気づく。


「そういや、わたしは自分の事、説明全然してなかったね。わたしは魔女。転生組ゆえ、みんなのようにチートとして、スキルマックスを五つではなく、成長速度を速めるスキルを1つ持ってるの」

「へぇ。後々の事を考えたら、むっちゃ良いじゃん」


 貴史君の言葉に頷き、そして、わたしは指を一本立てた。


「で、最近取ったスキルが『源泉』っていうスキルで」


 源泉? 温泉の? とか彼らは片手間でわたしの話を聞いている。


「魔力が使い放題になる代わりに、レベルがマックスになるまで、どうやら敵寄せの効果があるっぽいんだよね」


 沈黙が流れる。


「「「はぁ!?」」」


 わたしの言葉に五人の動きが止まった。そして、説明を求める者と絶句している者とに分かれた。

 でも、説明と言われても、MPが尽きない代わりに魔物が寄ってくるとしか言いようがない。


「レベルがマックスになればたぶん大丈夫になると思うんだ。だからそれまでいっぱい魔力を使って熟練度をあげようかな、っと思って」


 使い魔のレベルの上がり方からして、そのスキルをたくさん使う以外にも条件があるのかもしれないが、少なくともたくさん使う事でレベルが上がりやすくなる事は間違いないだろう。

 で、わたしがMPを使うとなると、お菓子の家をたくさん出すか、使い魔をいっぱい出すか、とかになるんだよね。


「……本当に、使い放題なんですか?」


 驚いたように大地君が訪ねてくるので、わたしはMPの最大数値が無限マークである事を告げると彼は真剣な顔になって、拓也君を見た。


「拓……」

「俺はしても良い。だが、まずは彼女に聞くべきじゃないか?」


 拓也君の言葉に、大地君はわたしを見た。


「実は自分、魔力回復(極大)というのを持っているのですが」

「う? うん」


 なぜに急に魔力回復の話……?

 あれ? 待てよ。魔力回復極大って、静さんにも取ってもらって……。

「そっち!?」って思うような内容だったな、確か……。

 えーっと……。一年に一回、大幅に回復するやつで、その分、通常時でもその回復分だけストックというか、最大MPが多くなる、みたいな。そんなやつだったような?

 で、静さんにはもう一つ別の職業で、真逆の、魔力回復小っていうやつを取ってもらったんだよね。あっちは3分でMPが1回復するっていうやつだった。

 二つ組み合わせればちょうど良いなって思って、静さんにはその両方を取ってもらったけど……。


「最大MP値は増えるけど、回復自体は一年に一回しかしないやつなんです」

「うん、静さんに取ってもらったの思い出した。確かそんな内容だったなって。静さんは千だったか万だったような気がするけど、レベルマックスだったらどれくらいなの?」

「100万です」

「わぉ!」

「ただし、通常時は50万ですけど」

「へぇ、そうなんだ。って、別に敬語じゃなくていいよ?」

「いえ、今だけは敬語にさせてください。そして、拓には『譲渡』というスキルがあるのですが」

「うん」

「これ、レベル1なら自分のMPを相手に渡すだけなのですが……」


 そこで、言葉を切った大地君に、ピーンと来た。


「あ、レベルが上がれば、他人のMPも渡せる系なんだ?」

「です」

「なるほど。いいね! 100万、あ、通常時だと50万だっけ? それぐらいMP渡したらどんどん熟練度上がりそう!」

「じゃあ、MPの受け渡し行っていいんだな?」


 確認を取る拓也君にわたしと大地君は声をそろえる。


「「お願いします」」


 お願いすると拓也君がわたしに手を差し出した。

 きょとんとしていると反対側の手を大地君が握っている。

 なるほど。手をつないだ同士で魔力の譲渡するのかな?

 拓也君の手を握る。

 するとすぐに血の気が引いた時のような感覚がした。きっとこれが、MPが移動していく感覚なのだろう。

 

「気持ち悪くなったら言え」


 ぶっきらぼうな注意事項に頷くものの、最初の感覚に驚いただけで、それ以降、そんな感じはしない。

 反対側の大地君は、「うわっすごいいっぱい来た!」って驚いているが……。


「…………」


 わたしは首を傾げ、もっと持って行けば良いのに。という気持ちが強まる。

 

「もっとどかんと持って行ってもいいよ」

「いや……」

「わりとすでにいっぱい流れてるよ!」


 拓也君が静かに首を横に振り、大地君が半泣きでそう口にした。


「……源泉って、湧き水っぽいイメージだったけど……」

「なんかむしろ、せき止めてた川が一気に流れ出してくる感じ……」


 拓也君、大地君の言葉に、わたしは「そんな風に感じるんだ」って、思いながら大人しく待つ。

 ……今更だけど、男子とこうやって手をつないでるってアレだね。

 あっちだと、からかわれ案件だよね……。


「た、たたたた、たく!? ピッチあげた!?」

「ああ。慣れてきたから、少し上がった」

「回復量が、千から一万になったんですけど!?」

「頑張れ」


 そんな彼らのやりとりを、大変そうだなぁって思いながらしばらく見ていると、大地君の体が微妙に発光しているように見えた。


「へー。こうなるんだ」


 と、いつの間にか、物色をやめて、隣に来ていた恭介君がつぶやく。


「拓。そろそろ限界近い、絞って」

「ああ……」


 大地君の髪が輝き、風に揺れるようにふわりと浮かび……。


「限界!」


 大地君は言うと同時に手を離し、わたしと拓也君も手を離す。

 大地君はメッセージ画面を見ているのだろう。指で何かをつついている。

 そして。


「ちょっと離れて」


 言われた通りに離れると彼は指で何かを押す動きをした。たぶん「実行」ボタンを押したのだろう。

 彼の周りに円形の光が広がる。

 その光は先ほど彼がまとっていた光と同じ色で、床に広がって行く分、大地君がまとっていた光がなくなっていく。

 そして、光が消えると同時に、彼の周りには青い液体が入ったガラス瓶がズラリと現れた。


「MPポーション5000本ゲット。これで心置きなく魔法が使えるぞ!」


 と、彼は誇らしげに笑った。


「……何これ?」


 思わずわたしがつぶやけば、恭介君が説明してくれる。

 魔力回復(極大)は年に一度100万回復してくれるが、通常の時最大MPは50万なのだそうだ。

 でも、一時的なら100万まで回復する事は可能。そして、そのオーバー分はMP回復ポーションとするらしい。

 彼らは一度、全員分のMPを集めて、回復薬を作れないか試してみたそうだけど、できなかったそうだ。

 『50万を超えたら』が、条件なのだろう。


「なるほどねぇ……。一年に一度だけど、金策がある事は良いことだね」


 そんな風に答えると恭介君は苦笑いしていた。


「……少し、いいか?」


 拓也君が声をかけてきた。

 静さんも呼んで、彼は一つの注意事項を教えてくれた。


「俺の譲渡ってスキル。レベルが3で最大なんだ……。レベル3は相手の同意が必要という条件はあるものの、スキルの受け渡しができる」

「え!? 嘘でしょ!?」


 その言葉の重要性、いや危険性に気づいて、思わずわたしは声をあげる。


「俺はする気はない。でも、同じスキルを持ってるやつがどうするかは分からない。何かの冗談に見せかけて、同意を得るやつとかもいるかもしれない。気をつけてくれ」


 わたしは、真剣に頷いた。冗談ではない、と。

 でも静さんは頬に手を当てて不思議そうに尋ねてくる。


「譲渡した場合はどうなるのかしら?」

「どう、とは?」

「えっと、れべる……だったかしら? それが1になるの?」

「そのスキルその物がなくなると思います」

「まぁ……。もう一度、副業を使って取り戻す事はできないのかしら?」

「それは……分からないですが……」

「それを取り戻すための制度もないのかしら?」


 取り戻すための制度……。考えたこともなかったなぁ。


「……たぶん」


 拓也君もちょっと戸惑いながらそう答えたが、少し考え込んだ後、彼は恭介君に声をかけた。


「恭介。後で知識の泉で調べてもらいたい事があるんだが」

「後で、なんて言わずに今調べるよ」


 大量にあるMP回復薬を手にしながら恭介君は楽しげに返す。

 そうして彼は瞑想するような感じで座り、「知識の泉」というスキルを使ったようだった。

 数分後、目を開けて、MP回復ポーションをがぶ飲みした後、譲渡について彼は調べてきてくれた事を教えてくれた。


 まず一つ。お互いの同意が絶対条件であること。

 ただし、これは簡単な口約束でも行われる可能性があること。

 次に、そのスキルを持つ職業でなければ、譲渡した後のレベルが下がる可能性がある事。

 特に職業に固定されているスキルは、違う職業の場合、レベルが1になる事。

 また魔女と魔法使いの職業スキルはそれぞれの職業についていないと譲渡が失敗する事。

 誤ってスキル譲渡した場合。

 すぐに返してもらえるのなら、スキルレベルが下がらないが、渡した相手側に定着してしまった後ではスキルレベルが半分以下、もしくは相手側のスキルレベルのままとなる事。

 返してもらえない場合。

 転職後、同じスキルがあった場合、今までの経験が生きて、比較的早くスキルのレベルが上がる事。

 職業スキルを譲渡してしまった場合。

 同じ職業の物からもらうか、魔女と魔法使いを頼り、もう一度スキルを発生させてもらう事。


「……え?」


 思わず、声が出た。

 みんなの視線がわたしに集まる。


「え? 魔女ってそんな事もできるの?」

「できるっぽいよ」


 思わず聞き返したら、あっさりとそう返された。


「えぇー……」


 そんな声が出た。なんとなくだけど……。


「魔女と魔法使いってちょっと特殊な職業なのか?」


 貴史君の言葉に恭介君は肩をすくめた。


「そこまでは魔力がなくなるから調べてない。でも、魔女と魔法使いのジョブスキルは他の職種には譲渡不可ってあるんだから、特殊なんじゃない?」


 恭介君の言葉に、わたしはうぅーんと唸る。唸るしかない。

 お菓子を食べたいが故に選んだ職業だったのに、なんだか、みんなのためのセーフティな職業っぽい?

 その後、もう一度調べてもらった結果。


「願い」というスキルが、それにあたるようで……。

 対価を得て、相手が神々と交渉できるスキル。仲介役というのが正しいスキルらしいが、それによって失ってしまったスキルを取り戻せ。という事らしい。

 それを聞いてわたしはちょっと納得した。

 わたしは願いのスキルを持っていない。

 でも、魔女の家は持っていないスキルでも道具によって、家の中限定ではあるが、使えたりする。

 つまり、あの少年神がこちらにコンタクトを取ったのは、あの水晶玉が「願い」スキルを利用するための道具で、それを逆の流れで利用してきた。ということ。……現時点ではただの予想、憶測だけど。そう遠くない気もする。


「……静さん」

「はい?」

「もしかしたら今後も、あの日本人を救ってくれって話がくるかも?」

「まぁ。そうなの?」


 不思議そうに聞き返した後、静さんは優しく微笑んだ。


「じゃあ、今度、時間がある時に、ご飯一杯作っておきましょうか。すぐにでも食べてもらえるように」


 当然のように返ってきた言葉は、その時も一緒にいてくれるのだという心強い言葉だった。

 へらり、と嬉しくなって笑うわたしを、鏡君がうらやましそうに見ていたことをわたしはこの時、知らなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る