第25話 凄いスキルたち。
佐々木 拓也
山中 鏡
林原 恭介
山崎 大地
水上 貴史
それが彼らの名前だった。
そして、彼らのうちの一人が事情を説明する時に、思いついたようにペンを取る と、名前の下に職業を書いていく。
佐々木 拓也 職:戦士
山中 鏡 職:盗賊
林原 恭介 職:賢者
山崎 大地 職:治癒師
水上 貴史 職:聖騎士
書かれていく職業を見て、彼らの意図が分かった。
きっとダンジョン攻略を基準とした職業を選んだのだろう。
ただし、ゲームの。
書き終わると、林原恭介君、いや、恭介君はわたしを見た。
「なんか思うことある?」
「うん。なんとなく捕まった理由が分かった」
わたしの言葉に五人は弱り切った顔をした。
「ゲームなら問題なかったんだろうね」
わたしの言葉に恭介君は頷く。
「そう、だよな。現実って考えたら、『盗賊』っていう職についてたら、警戒はするよな。でも……」
「自分たちは、異世界転移ってことに浮かれて、そんなこと考えもしなかった」
大地君が言葉を引き継ぎ、そして。
「街に入ろうとした時、オレが盗賊だからって捕まりそうになったんだ」
後悔なのか、怒りなのか。盗賊である鏡君の表情はみえない。でも、俯いた顔から発せられた声は震えていた。
「ダンジョン攻略のための職業だって説明したら、じゃあ、証明して見せろって言われて問答無用でここに連れてこられた」
「なるほど。で、攻略はできそうなの?」
わたしの言葉に四人の視線が何故か恭介君に向かう。
「……ボク達だけじゃ無理。正直、敵の強さとかよりも、戦い以外のところで支障が出てるんだ」
「水に食料。あと睡眠?」
「そうだよ。あと、ずっと緊張してるっていうのは無理だし」
それはそうだと頷く。
でも、と、鏡君が強めに言葉を重ねてきた。
「結局、オレが盗賊である限り、このダンジョンをクリアしても意味がないんだよな」
鏡君の言葉に四人は悔しそうな顔をし、それから少し鏡君から顔をそらした。
きっと彼らも分かっていて、そして、気軽に選んでしまった過去を後悔しているのだろう。
でも、わたしは分かった。
なぜ、あの少年神がわたし達に声をかけてきたのか。
「それは心配しなくていいよ」
五人に声をかけ、静さんに視線を送る。
「静さんの職業は村人なんだけどね。いやぁ、これがとんでもないチート職なんだよねぇ」
わたしの言葉に五人は顔を見合わせて静さんを見たあと、わたしを見た。
「魔女よりも?」
恭介君の言葉にわたしは頷く。
「魔女になりたてのわたしなんか比べ物にならないならない」
わたしは手を左右に振って笑った。
「静さんのスキルで『職業選択の自由』っていうのがあってね。レベルが低いうちは自分の職業を好きに変えられるだけなんだけど」
そこで言葉を切って、鏡君を見る。
彼はきょとんとしていたが、わたしの続きの言葉が思い当たったのか、目を見開いた。
「静さんはレベルマックスだからね。他人の職業も変えられるんだな、これが」
「「マジで!?」」
「本当に!?」
「うっそだろ!?」
「それは……すごい」
わたしの言葉に五人はそれぞれの言葉で驚き、そして喜んだ。
「で、村人のスキルに『副業』ってのがあるから。ダンジョン内では副業で村人のレベル上げ。ダンジョンから出る時に、メインを村人にして、副業を空欄にしておくか、盗賊にすればいいんじゃない?」
村人の最初のスキルは副業にして、次にスキルを選ぶ時に職業選択の自由を選べば、本人の意思で変えられる。そうすれば、街に入る時は村人にするとかでどうにかなるはずだ。
門番の人たちが五人の職業をどうやって調べたかわからないので、なんとも言えないが、副業を空欄にしておくとか全く別の職業を入れればいいと思う。
鏡君は静さんにさっそくお願いしますと頭を下げていた。
静さんは頷いて、鏡君の職を変更した。
わたし達から見たところ、何の変化はないが、静さんが終わったというので、鏡君は緊張した面持ちで、スキャンと唱えた。
「っし!! 変わってる!! 村人!! オレ、ただの村人になってる!」
自分の職業が変わっているのを見て、両腕を挙げて大喜びしていた。
「静さん! ボクの職業も変えられますか!?」
と恭介君も混じる。
まぁ、彼の職業も、彼らからすればハズレに近いよね。魔法を使いたかったから賢者を選んだのだろうし。まさか、この世界では、賢者という名の学者もどきで魔法が使えないとは思いもしなかっただろうね。
もちろん、静さんは恭介君の職業も変えられるわけで。
「魔法使うのにおすすめの職ってある!?」
同意を得た恭介君は、わたしにそう尋ねてくるが。
知らないよ、と答えかけて思い出した。
「えー? 言われても……。あ、精霊術士かな? 少なくとも四大精霊は使えるはず」
最初は一種類くらいの魔法しか使えないはずだけど、噂では、最終的には、いけた……と、思う。
「じゃあ、それで!」
恭介君の言葉に静さんは彼の手を取って、職業を入れ替えた。
「サブ職か……。デメリットとかあるの?」
興味があるのだろう。聖騎士の貴史君が聞いてくる。
わたしは肩をすくめる。
「さぁ? もしかしたら、レベルアップが遅くなるかも? とかかな? 確定ではないけど」
静さんとわたしのレベルの上りからから推測すると、と、言いたいところなんだけど、なんせわたしは人よりも早くレベルアップするからね、比較対象にはならないんだよね。
ただ、ダンジョン内を歩いても特にレベルが上がったとか聞いていない。
……いや、そもそも、レベルアップしました。っていう案内が入らないから、気づいてないだけ、っていう可能性もあるけど。
でも、まったくデメリットがないっていうことはないだろう。
それは副業のスキルをマックスで持ってる静さんくらいだと思う。
メインのレベル上げが遅くなるのは困るのだろう。彼は渋い顔をした後、口を閉ざした。
職業の変更が終わると恭介君はわたしを見た。
「二人は、その……、この後は……?」
「明日以降のこと?」
質問で返すと恭介君は頷いた。
わたしは静さんを見る。静さんはニコニコと微笑んでるだけだ。
「一緒に行っても大丈夫ですか?」
「ええ。もちろんですよ」
わたしの問いかけに静さんはためらいなくそう答えた。
「と、いうわけで、一緒に行くよ。わたしや静さんは戦えないけど、使い魔が戦えるし、サポーターとしては問題ないと思う」
この階層まで静さんと二人で来てるしね。
「ありがとう、すごく助かります!」
お礼を言った後、恭介君は紙を使っていいか聞いてきたので頷くと、フリーハンドでどこかの地図を描いていく。
「これは?」
「このダンジョンの地図」
へー。ここまでの道のり、きちんと覚えているんだ。と感心したのだけど、違った。
「以上、これがこのダンジョンの全体地図です」
15階層による地下ダンジョンの全貌。
どこにボスが居て、どこにどんな罠があるのか。そういったことが書かれている。
え? 何、一度最下層までいったの? と驚いた。
「これがボクのスキル。本来知りえるはずがない情報でも知りえることのできるスキルだよ」
それは凄いと素直に感心していると、彼は小さく肩をすくめた。
「ただ、MPの消費量が半端なくって。毎日ちょっとずつそのスキル使って覚えていったんだ」
あ、賢者って記憶系のスキルあるもんね。それ、恭介君も持ってるのかな?
「鏡」
「おう。あ、ペンって他の色もある?」
地図を渡された鏡君が黒以外のペンを欲しがったので、わたしは三色ペンを引き出しから取り出し渡す。
すると彼は出来上がった地図に赤で「¥」を青で「宝」と文字を書いていく。
「これがオレのスキル『宝探し』の効果。攻略本みたいに地図とかがあれば、どこに宝があるか分かる。あと、スキルを使ってる状態で近くに価値があるものがあると、ゲーム画面みたいに知らせてくれる」
「わぉ、便利~」
素直に感心した。
「ほんと、便利だよな。落とし物とかも探しやすくなるんだぜ。ま、この職業につくと捕まるけどな」
「あはははは……笑えないねぇ」
なんとも返しにくい。
わたしはその地図を、まじまじと見た。
さすがに全部覚えるのは無理だけど、ある程度覚えておくのは有効だと思う。
……いや、描き写した方がいいかな?
そんなこと考えながら紙とペンを持ち、描き写していると、恭介君がわたしと静さんの分の地図を描いてくれた。
「ありがとう」
「まぁ、わざわざどうもありがとうね」
わたしはその地図を鞄に入れたが、静さんはポストに投函するような手の動きをした。
すぅっと地図が解けるように消える。
みんなの視線がわたしに集まる。
わたしは一つ頷いてこう告げた。
「静さんは、いわゆるアイテムボックス持ちです! ストレージでも異空間収納でもいいよ!」
わたしがドヤ顔で告げる。五人は羨望のまなざしを静さんに向ける。
「……やばい。アイテムボックス欲しさに村人をサブにしようかなってちょっと本気で考える」
先ほど、副業をするかどうか考えていた貴史君は本気で悩み始めた。
わかる。
わたしもちょっと悩んだもん。
うちの子、使い魔達からするとやっぱり魔女のレベルを上げてもらいたい雰囲気だったから、静さんとずっと一緒だし、このことに関しては静さんに甘えることにしたんだよね。
それに、気づいたんだよね。
「村人のスキルがこんなに凄いという話、聞いたことないんだよね」
秘匿している可能性はもちろんあるんだけど。
「レベルのスキルが低い時は、本当にダメダメスキルの可能性もあるんだよね。アイテムボックスっぽいスキルの名前、『荷運び』なんだって」
わたしの言葉に彼は口をへの字に曲げた。
結局、スキルレベル1の荷運びがどんなスキルか確認するとみんなおとなしくメインジョブを育てることにしたようだ。
『荷運び レベル1 荷物が少し軽くなる』、じゃねぇ……。
ダンジョン出た後にって後回ししたくなるよねぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます