第23話 いただきます



「じゃあユウセン、魔女の家2か3を出せそうな所に案内してもらってもいいかな?」


 わたしの言葉にユウセンは肩から降りると、五人の手前で止まり、見あげて一言。


「ユウセンは美味しくないッチュ!」


 そう言って、テテテテテと走り出す。


「え? どういうこと? 食べるの?」


 訳が分からず三人を見ると彼らは彼らで、「あー……」と困った様な笑みを浮かべていた。


「ここいら一帯に居る黒い鼠ってあんたの?」

「うん。使い魔だよ。みんなの居場所を探して貰うために、頑張って貰ったの」

「つまり言葉も通じる、と」

「見ての通り」


 さっき喋ってたでしょ? とか思いながら口にすると五人はやっぱり笑う。

 空笑いだろうか。


「あー……。いや、ただ単に、いっぱいいるから食えるかなって話を少ししただけだ」


 彼の言葉にわたしは周りにいるユウセン達を見る。


「ネズミを?」


 言ってはなんだけど、ネズミだよ? しかも手乗りサイズ。

 転生したわたしならばともかく、転移組がそういうとは……。


「よっぽど食生活苦しかったんだね」


 彼らは答えない。でもそれが肯定だっていう事は彼らの表情で分かる。

 見てよほら。静さんなんて、かわいそうに。って母性本能発揮させちゃってウルウルしてんじゃん。


「なら、早めに移動しよっか。神様がどうしてわたし達を使いに出したのか、納得して貰うためにもさ」


 言ってわたしは、ユウセンの後を追う。追いかけながらスキル画面を出し、魔女の家の部屋配置を行っていく。

 そして、ユウセンが案内した場所は。


「ここ、フロアボスが居る場所じゃん」


 誰かの呟きに納得した。

 どこかのドームみたいなひろーい、場所。

 横にも、縦にも。

 なるほど、ここなら多少大きくしても大丈夫そうだ。


「……フロアボスは?」

「倒したっチュ」


 彼らの独り言にユウセンは二本足で立ち、顔を上げて得意そうに言った。

 流石、うちの子。と感心するのとは別に、わたしはある大きな問題に気付いた。

 

「魔女の家、レベル2」


 3、にしなかったのは、周りの景色が岩とか土ばかりだから。

 木の温もりに癒やされると良いと考えたから。

 中ボス……じゃなかったフロアボスの部屋の中央に、魔女の家の敷地内を表す光の線が走る。

 なんかいつもと違う? と思ったら、その線は上空にも伸びた。

 光の線による直方体が出来ると、木造の魔女の家が出来、結界がすでに作動中である事を示す光があった。

 ……ダンジョン内、だからかな?


「さ、中に入って」


 そう声をかければ五人はポカンとしていた。


「家だ」

「マジか」

「…………はぁ……」

「ダンジョンに家。そういう話あったけど」

「はは……すげぇ」


 おお、驚いている驚いている。


「ちなみに、お菓子の家も出せます!」


 ドヤ顔で、右手を差し出し、その手に手の平サイズのお菓子の家を出す。


「おぉおお! すげぇ、マジか!」

「ねぇねぇ、これって、何年に某メーカーが出したお菓子の家を出してって出来るの? 限定販売で買えなかったやつが食べたいんだけど」

「無茶言うなし!」


 遠慮無く放たれた言葉にわたしも遠慮無く返す。

 いいからもう家に入るよー。と声をかけて、わたし達は家に入る。

 五人は、玄関の扉を開けて見えた室内に感嘆し、そして当然の様に靴を脱いで入って行く。

 土足厳禁である事をいわなくても分かって居る辺り、ありがたい。


「手前は、異世界の薬屋っぽいのに、奥が現代日本……」

「たぶんレベル2は薬を売る魔女の家なんだろうね。それよりも五人はこっち」


 そう返しながら手招きし、奥へと進む。

 とある場所の前に立ち、扉を大きく開く。

 そこにあるのは、大きな脱衣所だ。


「洗濯機の使い方はわかるね? 一分で洗濯が完了する魔法の洗濯機だから。乾燥はこっち」


 コインランドリーに置いてそうな乾燥機を指差す。

 実は出すの初めてである。

 静さん、乾燥機を使うより太陽の下で干すのが好きだったから。

 なので乾燥機もあっという間に終わるのだろうとは思うけど、そこは言わない。


「タオルも各種洗剤も好きに使って。汚れを綺麗に落とした後、食事にしよう」


 わたしの言葉に、数日間着の身着のままだった彼らはお互いの顔を見渡し、そして、こっそりとニオイを確かめようとしている。


「じゃ、分からない所はないと思うけど、何かあったら声かけて」


 五人を脱衣所に押し込んで、わたしは扉を閉める。

 元来た廊下を戻る。

 洗濯機を置くために、脱衣所は広い個人宅の脱衣所をイメージされているが、バスルームは、旅館の大浴場という形にしてある。

 こういったカスタムは魔力がどれだけかけられるか、によるので源泉様々である。

 いや、そのスキルのせいで、魔物に襲われやすくなるのだから、様々というのも変かな?

 

 リビングに戻り、コピー用紙を数枚取り出し、油性ペンで名前を書いて、テープで胸元に貼り付ける。

 前にも言ったけど、わたしは名前を覚えるのが不得意だ!

 クローバーやユウセンだって、捻りつつも、少し考えれば思い出しやすい名前にした。

 直感で決めたコニーだって後になって気付いた。

 黒ではなく、子馬に小馬か! と。

 そんなわたしが、だよ?

 苗字プラス名前なんて無理無理。

 前世、あだ名で呼んでた子、苗字で話題に出されて、「誰それ?」ってなった事もあったし。

 流石に兄に呆れられて微妙に怒られたけど。

 いやでも、小学生時代の友達ってそんなものじゃない!?

 って、思いはするけど、兄はそんな事なかったもんなぁ……。


「静さん見て見て」


 呼ばれて振り返った静さんはわたしを見て、小さく笑った。


「良い案だと思いますよ。わたしも準備が終わったら書きますね」


 手元に野菜と包丁を持った静さんはそう言ったが、ふと気付いた様に、もう一度わたしの方を向く。


「今は背中に貼っておきます?」

「あー……そうですねぇ……」

「男の子はお風呂とか出るの早いですし」


 確かに前世の父も兄も早かった。でもなぁ。


「シャワーだけならすぐ出てくるかもしれないですけど、久しぶりのお風呂だろうしって、大奮発して大浴場にしてきたんですよね」

「あら。じゃあ、時間かかるかもしれないわねぇ」


 ぽつりと静さんは呟いて、もうちょっと作れるかしら?

 と、呟きながら料理の変更を考えているようだった。


「手伝いますよ」

「ありがとう。ミューちゃん」


 静さんの隣に立ち、野菜を手にする。

 皮を剥き、言われた形に切り、ボウルに入れる。それを数回繰り返す。

 静さんは横で、焼いたり、焼いたり、煮たり、揚げたり、焼いたり。といくらでも出せるフライパンと、スキルを駆使しながら料理を同時に仕上げていく。

 彼らはやはりすぐにお風呂から上がってくることもなく、一通りある程度は高校生男子のお腹を満たすことが出来るだろうと静さんが満足げに頷くだけの料理数が出来ても、出てこない。

 時計を見る。

 一応あるんだ、時計。この世界ではあまり役に立たないけど、この家の中でなら役に立つ。

 何時頃に起きるとか、ご飯食べるとか、約束事や区切りとかの指定がしやすいので。

 そして、時計を見ると、二時間は経過している。

 すぐには出てこないだろうなぁって思ったけど……。ちょっと長過ぎでは?

 わたしは静さんに声をかけたあと、脱衣所に向かう。

 閉ざされた扉を開けるつもりはない。


「男子~。ご飯が出来たぞぉー」


 扉越しの声かけは…………。聞こえなかったようで。


「おーーーーーーーい! 男子~!! ご飯! 出来たぞぉ-! そして冷めるぞぉおおおー!」

「すみません! いまでます!!」


 声を張り上げたら、同じく慌てた大声が返ってきた。

 これで大丈夫だろう。

 リビングに戻ると静さんがまたキッチンに立っていた。


「静さん? まだ何か作るんですか?」

「ええ。カラアゲの下準備だけでもって、思って。男の子は好きでしょう? カラアゲ」

「静さん、それは違います」


 静さんの勘違いに、わたしは大きく首を横に振った。


「カラアゲは、女の子でも大好きです!! つまりわたしも大好きです!」


 力一杯そういえば、静さんは笑った。


「そうね。ミューちゃんも大好きだものね」

「はい!」


 わたしには味付けは無理なので切る係を代わり、静さんがビニール袋に鶏肉を入れて調味料を入れ、揉み込んでいく。

 そうしているうちに複数の足音がしてきて、部屋に入った所で止まった。

 振り返り見ると、彼らの視線の先はテーブルの上に所狭しと並ぶ料理の数々だ。

 わたしと静さんは作業を止め、彼らに向き合う。


「いっぱい用意したからいっぱい食べてね」

「これにご飯と豚汁がつくヨン」


 声をかけたからか、テーブルをガン見していた目が、わたし達に向けられ、そして、少し下がる。わたし達の胸元に。

 ま、これは別にスケベ的な理由ではないだろう。


「ご飯の前に、これ書いてね。んで、書き終わったらご飯にしよう」


 わたしの言葉に、テーブルの端に置いていたコピー用紙と、油性ペンを見つけ、彼らは我先にと紙を取り、一つのペンを奪い合うことはなく、それでも「早く早く」と急かしながら名前を書いていく。

 わたしと静さんは手を洗い、わたしはご飯を、静さんは豚汁を、人数分準備し、名前を書き終わって所在なさげに立っている彼らを胸元にでかでかと書いてある名前で呼んで、手渡していく。


「さぁ、ご飯にしよう!」


 適当な場所に座り、今か今かと待つ彼らにわたしの声がかかる。


「いただきます」

「「「「「いただきます」」」」」


 わたしの言葉に、五人の唱和した声が元気よく響いた。


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