第18話 旅は道連れと言うけれど
少年神様から依頼を受けて、旅立つ事になったわたし達。
宿や食事については問題ないけど、移動手段には問題がある。
コニーはいても馬具がない。
本音の本音を言うと、わたし達が寝ている間も移動はしておきたい。
つまり。馬車が欲しい。
そして、馬車が買えるだけのお金はない。
ただ、売るものに関しては大量にある。
レベル3の魔女の家からは、パワーストーンと思われるものを。
レベル2の魔女の家からは、調味料と薬草。それからカーテン類を。
え? カーテン類なんて何に使うんだって?
それなりの大きさの布っていうのはこちらでは貴重なのですよ。
しかも刺繍の入ったレース生地とか、たぶんとんでもない金額になると思う。
なので、デカイ窓がある家を設定し、それにカーテンを付ける設定をしたら、一発でデカイ布がゲット出来るのです!
………………。
………………じ、実際気付いたのは、出した後っていうか、静さんが、持ち出した物以外は家ごと全て消えるのなら、このカーテンを使って自分の洋服を作って良いかって言いだしたからなんだけどね。
もうね、なんで気付かなかったんだろうって後で反省したからね。
この世界に住んでもう十六年になるっていうのに、ね。
魔女の家にいると日本人だった頃の感覚が強くなるみたいで、調度品の異常さとかあまり気にならなくなるんだよね。
そのおかげで、「あ、これ売れば金になる」というのも気付かなかったりする。
この地でくらしたミューとしての感覚を強めて、あたらめて見ると、魔女の家に備え付けにされているあれやこれやは高く売れるだろうというものたくさんあった。
それこそ、窓そのものがそうだし、手鏡とかもそう。ガラスコップだってお高いだろう。
ただこの世界のものと比べると質が全然違うんだよね。
そのせいで、売りに出して良いのかどうか、判断に困るんだよね……。
カーテンはアンティーク風っていうのが選べたので、そこまでの差はない……と、思いたい。
「ミューちゃん。布団の収納終わりましたよ」
「はーい。こちらもカーテンの金具取りは終わりました」
カーテンを畳み、静さんに渡す。
それから一度家の外に出て、家を消して、再度建てる。
それから先程と同じように物色。
「ねぇ、ミューちゃん。そろそろ先方に連絡を入れた方がいいんじゃないかしら?」
「……先方に連絡ですか?」
首を傾げるわたしに静さんが頷く。
「馬車もそうだけど、それなりに大きな金額をやりとりするつもりなのよね?」
問われて、頷く。
「なら、店主さんとやりとりする可能性の方が高いわけでしょう? あちらにもご予定があるはずでしょうし、お伺いする時間は先方にお尋ねするべきだと思うわ」
商人ギルドで行うつもりだったのだけど……。
言われて見たら担当さんとかいそうだよね。
大きな金額とかなるとそれこそギルド長とか?
「うーん。確かに言われて見たらそうですね」
でも、この世界に電話はない。
わたしが行くのも、静さんが行くのも、今は遠慮したい。
特に静さんは、例のクズ夫がまだあの街に滞在してるかもしれないから、一人では行かせたくない。
クローバーに頼むか。
手紙と、売る物の見本として、薬草と香辛料をちょっとずつ持たせよう。
あと、そのお金で馬車が三台くらい欲しいという事も。
壊れた時、修理が出来ないからね。
籠にそれらを入れて、蓋を閉める。
「クローバーお願い」
そう声をかけると、わたしの影から新しくクローバーが出て、籠を持って飛び立っていく。
それを見送った後、わたし達は作業に戻った。
そして翌日。
連日のおびき寄せ、魔物狩りの影響か。移動中、心配していた魔物に遭遇することなく街についた。
馬具も無しにコニーに乗るのはやっぱり怖いので、馬車とは別で馬具も買いたいなと改めて思い、これもギルドでオススメのお店を聞くか。と考えながら向かった。
そして、そこには、アンさんが居て、わたしを見るなり安堵したように顔を輝かせた。
「……」
ああ、そうか。ギルドから領主の方に連絡が行ったのかな?
「無事で良かった! あの市の後から姿が見えないと心配してたのですよ」
「それはすみません」
「いえ。こちらも、はっきりとは言えませんでしたし、仕方ありません」
それは護衛の事ですか?
アンさんがわたしと一緒にいるために、子供と大人を強調されていた事を思い出す。
「ですが、あの市の成果を見て、魔女様は考えを改めたようです」
「?」
「ミュー様を弟子に取るとの事です」
「お断りします」
笑顔で言われた言葉に思わず反射で答えてしまった。
アンさんは断れた事が意外過ぎたのか、きょとんとしてる。
「え? お断り? ……するんですか?」
信じられないと聞き返すアンさんにわたしは頷く。
「はい。そもそも人が貰ったスキルを一方的に馬鹿にするような人を師匠として尊敬出来ますか? 教えを請いたいと思いますか? 目的のために、その道しかないのなら仕方が無いのかもしれませんが、そうではありませんよね?」
「それは……そうですが……」
「ところでアンさん、領主様がわたしのために幾ら使ったかご存じですか?」
「え?」
「残りのお金も返して、きれいさっぱり、あの魔女と縁を切りたいんです」
アンさんは言葉を失ったようにわたしを見つめていた。
だが、そんな態度が許せなかった人がいたようだ。
アンさんから少し離れた所にいた女性が前に出てきた。
「お師匠様を悪く言わないで……」
その言葉で彼女の立場が分かった。
「……悪く言わないで、と言われましても」
先に初対面の人間に暴言吐いたの向こうなんだけど。
「貴方のおかげで、魔女の家のスキルが使えるようになったから、お礼を言いに来たのに、こんな最低な人だとは思いもしなかった」
「最低ですか、そうですか。じゃあやはり、弟子入りなんてされたら困る、ということで、この話は終わりでいいですか?」
さっさと切り上げたい。そう思っていたら、そっとわたしの肩に、後ろから手を置かれた。
「ミューちゃん。落ち着いて」
静さんの優しい声に、わたしは一瞬で自己嫌悪に陥った。
喧嘩っ早い人間だと思われたくないっ。
「あ、あのね、静さん。違うの。わたし普段はこんな風に喧嘩売り買いしてないよ!?」
「ええ。大丈夫。大丈夫よ」
ニコニコと笑って、とんとん、と肩というか背中を軽く叩いてくれた。
う……。子供扱いされてる。でもちょっと落ち着く。
「失礼ですが、弟子入りがどうという話しはまた後日でもよろしいでしょうか? わたし達は今、とても急いでおりまして。一刻も早く旅立ちたいのです」
「旅立つ? どこに行くんですか?」
わたしの前に一歩出て、アンさんと話していた静さんだったが、目的地を言いかけて、わたしを見た。
言っても良いかの判断かな?
「……アンさん、すみませんが守秘義務があるので、お答えできません」
本当はそんなのないけど。
「守秘義務?」
「はい。ある依頼を受けて、これからわたし達は旅立つんです」
「依頼ですか!?」
驚いたのちにアンさんはパンッと自身の胸元を叩いた。
「では、私も連れて行ってください!」
んもぅ! なんのために守秘義務があると言ったと思うんですか!
「申し訳ありませんが、出来ません」
アンさんは驚いた後、そして、悲しそうな顔をした。
「……わたしが、魔女ビアンカ様側の人間だからですか?」
その問いかけが、胸にズキっときた。
確かにそれでアンさんを嫌うというのはおかしな話しだ。でもたぶん、わたしはあの日以降、領主側の人間であるアンさんに対して、拒否感を持っている。
ああ、でも、今回は本当にちょっと難しい。アンさんはたぶん居ない方がいい。
今回ばかりは、旅は道連れ世は情け……というわけにはいかない。
「……アンさんが、わたしが何を言われたか、知っていて、それでも弟子入りの話しをすすめているのであれば、少し嫌いになるかもしれません。でも今回は別の理由でアンさんを同行させるわけには行きません」
「……確かにわたしは、詳しい事情を知りません……」
そう口にした後、彼女は頷いた。
「分かりました。弟子入りの件は事情を知った上で再度判断します。ですが、護衛も無しに旅立つ事には反対です」
「あ、護衛はいます」
使い魔という名の護衛が無制限に出せるので。
「え?」
「わたしにも静さんにも個別でいるから大丈夫です」
「……そう、ですか……」
アンさんの視線が周囲を伺うように見て、もう一度、わたしを見た。
護衛というのはどこにいるのか、と言いたそうに。
「はい、ですので、もういいですか? 急ぎなんです」
アンさんは少しだけ躊躇いを見せたけど、わたし達に道を譲るように一歩横にずれた。
わたし達はその横を通り、ギルド受付のお姉さんの元へと移動する。
わたし達の本番はこれからだ。
お金が足りなかったらまた森に戻って、家を出して物色して、としなくてはならないのだから。
「昨日手紙にて連絡した、魔女見習いのミューと申します」
「お話は伺っています」
受付のお姉さんは頷いて、立ち上がった。
そして、どうぞこちらへ、と別室へと案内してくれた。
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