第16話 閑話 あるダンジョンの中にて
探索者。と呼ばれる者達がいる。
ダンジョンに入り、魔物を倒し、お宝を手に入れる職業の者達だ。
お宝によっては一攫千金を狙える。
そのために命知らずの者達がダンジョンに挑んでは、儚く命を散らしていく。
最近、そんなダンジョンで、簡単に金になる方法というのが探索者達の中で密やかに広がっていった。
ダンジョンの浅い階層を練り歩く男もそうだった。
そして、目的の者達を見つけて、ニヤリと笑った。
「よう」
男は五人組の少年達に声をかける。
彼らの表情は暗い。だが、男は気にしない。
「水と食料だ。パテパテの羽を持ってたら出せ」
男は持っていた荷物を床に置いた。
ダンジョンでは水と食料は貴重品だ。だが、それは奥に行けばの話しで、こんな浅い層ならば、ダンジョンの外に出る事も可能であり、本来ならば成立しない交渉だ。
五人は顔を見合わせた。そして一人が首を振った。
「持っていない……」
「ちっ。使えねぇな。なら他の物を出せよ」
男の言葉に少年の一人が宝石の様な物を取り出した。
「あぁ? ふざけてるのかよ! こんなのと交換するはずねぇだろ!?」
「……コレしか出せない。損はしないはずだ」
今にも殴ってきそうな表情の男に、少年は一歩も退かず答えた。
しばし男が睨み付けていたが、様子を見守っていた別の少年が一歩動いた事で、諦めた。
「チッ!」
宝石のような物を奪い取り、そして地面に置いた鞄を手にする。
「袋は返して貰うぜ」
そう言って、中身を地面へとぶちまける。
少年達に対する嫌がらせだろう。
水筒に入っていた水はともかくパンなどの食料はそのまま地面へと落ちていく。
その所業に、殺意に似た怒りが込み上げてくるが、少年達は堪えた。
ここで手を出せば、それこそ相手の思うつぼだ、と。
男は鼻で笑い、立ち去っていく。
少年達は地面に落ちたパンの土埃を落としながら貴重な食料を拾っていく。
「……」
一つ、また一つと拾っていく。
そんな自分達があまりにも惨めで。
そして、あまりにも悪くて。
「……ごめん……。本当に、ごめん。オレのせいで……」
少年の一人が涙を零し、謝り始めた。
「……辞めろ」
「……水分が勿体ない」
「でもこのままだと!」
「やめろって言ってんだよ!」
怒鳴り返して、無理矢理泣いている少年の意見を封じる。
興奮しているのだろう。怒鳴っただけで、息が荒くなる。
「全員分かってるから言うんじゃねぇよ!!」
「…………ごめん……」
沈黙が落ちる。
肉体的な疲労よりも、精神的な疲労の方が五人にとっては問題だった。
回復魔法をかけても無意味だと感じる程に。
もう時間が無い。
それが彼ら全員の共通の思いだ。
「……仏の顔も三度まで……」
「は?」
「まともな取引もある。でも、今日みたいなのがあと三回あったら、俺は犯罪者になってもいいと思ってる」
「マジかよ。お前あと、三回も我慢出来るの? 正直オレもう、ぶちかましてもいいんじゃないかって気持ちになったんだけど」
「あはは。確かに。じゃあ、こうしよう。最大三回。本気でムカついたら、次がラスト」
「「「「異議無し」」」」
どうせ、ここには迷惑をかけるような親兄弟は居ないのだ。
「あいつらが、自分達が犯罪者になる事を望んでんだからさ。望み通り、犯罪者にでもなんでもなってやろうぜ」
疲れ切った少年達の瞳に、狂気の色が滲み浮かび始める。
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