第14話 わたしが転生した理由



 翌朝。というか、夜明け前。

 宿屋の受付は普通に開いている。

 夜明けと共に出発する人達が大勢いるから当然だ。

 わたしもチェックアウトのための鍵を渡し、宿屋を後にする。

 わたし以外にも徒歩で街の外に出ると思われる人達が、大荷物を持って門に向かって歩いている。

 わたしは近くの森に戻るだけだから、こんな朝早くなくてもいいんだけど、出来るのならアンさんが来る前に街を出ておこうかなと思っている。

 もしかしたら、昨日の事で、あの魔女が手のひらくるんとして、弟子に取るとか言い出しても嫌だし、と。

 実はこれが、アンさんにお金を預けなかった理由の一つ。

 話しだけじゃ、半信半疑で、重たい腰も、利益として実物が目の前にあったら、さっきまでの重たさはどこにいったとばかりになるだろうから。


 門はすでに開いていたらしい。人の流れは途切れる事無く門へ、そして外へと進んでいく。

 門番に狩人ギルドの登録証を見せて街の外へと出る。

 最初は街道沿いに、そして森へとずれる。

 その時影から、シュッと低空飛行から飛び立つ物体が二つ。

 クローバーとその分身だ。

 そして、足元にはユウセンとその分身。

 コニーは流石に目立つので今は保留。森に入ったら出す気でいる。

 今は、魔物とか野生動物もそうだけど、人も警戒している。

 女が一人で森に向かったのを見て、妙な事を考える人がいるかもしれないと、一応警戒しているのだ。

 なので、クローバーはわたしを中心に飛び回っている。

 クローバーの分体は森へと先に飛んで、行き先に異変がないか確認している。

 ユウセンはわたしのまわりをうろちょろしてる。

 たぶん、これも何かの警戒行動なのだろうけど、傍目には、飼い主の周りをぐるぐると回る犬と変わらない。

 でも時折止まっては、じっと何かを見ている感じがするので、たぶん、何かを警戒しているのだ。

 森までもう少し、となった時、突然クローバーが騒ぎ出した。


「タイヘンタイヘン! ヒチョ、おチョわれてる!」

「え!?」


 わたしが驚いている間にクローバーは、ユウセンの分身をがっしりと掴み飛び立ってしまった。たぶん、スピード上げるために、途中で大きくなってる気がする。

 わたしは思わず飛び去って行った方を見送ってしまったが、慌てて駆け出す。

 街道からはそれなりに離れたという事もあり、コニーを出す事にした。

 もちろん案内役にともう一匹クローバーを出し、わたしとユウセンはコニーの背に乗る。というか、しがみつく。


「……走る、ね」


 そんなどこかのんびりとした呼びかけの後、コニーは歩き、駆け足になり、疾走する。

 命綱もなしに、馬の背にしがみつくというのはかなりの恐怖だ。

 怖すぎて、悲鳴も上げられない。

 目も歯も必死に閉ざして、しがみつくだけだ。

 

「……ついた」


 コニーの声と、共に風が少し緩やかになり、そして、止まったのが分かる。

 恐る恐る目を開ける。

 狼、いや、野犬……だろうか? それの死骸が数体。

 真っ二つに切られたものから串刺しのものまで、この世界に生まれ変わって慣れたからあれだけど、前世の感覚のままだったら、見た瞬間、悲鳴の一つや二つはあげそうだ。

 辺りを見渡すと、クローバーが助けたと思われる人物が、木にもたれて震えていた。

 第一印象が大和撫子の、黒髪で美人なお姉さんだった。


「大丈夫ですか?」


 コニーから降りて声をかける。

 お姉さんは無傷というわけにはいかなかったようだ。

 白い服は赤く染まっているし、痛々しいひっかき傷と噛み傷があった。

 青ざめた表情は血が足りないからか、恐怖からか。

 

「コニー。このままだと傷口からバイキン入っちゃう。水魔法でお姉さんの傷口流したいんだけど」

「……ん」


 水で出来た球体がお姉さんの前に現れて、ちょろちょろと水を垂らし始める。


「失礼しますね」


 声をかけてわたしはお姉さんの手を取って、流れる水に傷口をあてる。

 お姉さんは小さな声を出したが、それ以上は堪えたようだ。

 でも、これでお姉さんがわたしを信用してくれたのがなんとなく分かる。

 次は足の噛み傷だ。

 逃げるのを封じられてたって考えると、けっこうやばかったのかも。

 分身がお姉さんを見つけると同時に守ってたはずだけど、クローバーが慌てるはずだ。

 傷を洗い流し終えたから、大釜で作ったポーションをカバンから取り出そうとお姉さんから手を離す。


「……痛いわ」


 お姉さんがぽつりと零した。


「……痛い……こんなに痛いなんて……。夢じゃないのね……」


 はらはらとお姉さんは涙を零し始めた。

 夢?

 お姉さんの言葉に内心首を傾げながらも、ポーションをまずは足にかける。

 痛かったのだろう。お姉さんは、体をびくりと反応させてた。

 よし、足はもう大丈夫。次は腕だ。

 お姉さんの手を取ると、お姉さんはわたしを見あげた。


「わたくし、西園寺 静子と申します」


 ん!?


「ここはどこなのでしょうか? ……日本という国をご存じですか? ここは地球でしょうか?」


 一度止まっていた涙がまた落ちて、今度はうわごとの様に、あちらの事を口にするお姉さん。

 わたしは改めてお姉さんを見た。

 この国では珍しい黒い髪。黒いけど、光の加減によっては焦げ茶にも見える瞳。

 よく見ると、白い衣服はパジャマのように見える。


 ……日本人? 異世界転移? 転生ではなく?

 

 疑問が疑問を呼ぶ。

 

「寝ていたはずなんです。大晦日ではありましたけど、別段夜更かしする理由もありませんでしたし、むしろ明日は子供や孫が来るので、そちらの方が楽しみだったくらいで……」


 涙を零しながらお姉さんは言う。


「気付いたら、夫と真っ白な場所に居て、選ばれたとかなんとかいわれまして……。職業を選べとか、他にも何かを選べとか、訳の分からない言葉ばかり言われて」


 そんな姿を見ながら、わたしは、それなりに遠い昔となってしまった記憶が、涙で作られるシミのように、じわりじわりと浮かんで広がっていく。


「帰れるのでしょうか。子供に、孫に、また会えるでしょうか……」


 溢れる涙を見せないように、となのか、両手で顔を覆い、俯きながらお姉さんは尋ねた。

 きっとわたしが答えられるとは思っていない。でも聞きたくて仕方がない。そんな気持ちだったのだろう。

 でも、わたしはその答えを知っている。

 正確には、思い出した。


「……帰れますよ」


 お姉さんにそう告げて、わたしは手を差し出す。


「大丈夫です。帰れます。またお子さんやお孫さんに会えますよ」

「……本当ですか?」

「はい。わたしが分かる範囲で、改めて説明しますから、移動しませんか?」


 流石に死屍累々のところで長話はどうかと思うので。


「……はい」


 お姉さんはわたしの手を取り、立ち上がった。

 良く見たら裸足だったので、コニーに乗って貰い、わたし達は森を移動する。

 前回と同じ場所に改めて魔女の家を作る。

 今日は魔物を呼ぶお菓子の家は無しで。

 お茶と日本色を主張するために和菓子を用意し、お互いに小さなテーブルに向かい合って座る。


「改めまして。わたしの名前はミューと言います。前世は日本人で、上条美優という名前でした」

「……前世、ですか?」

「はい。わたしの場合は前世、となります」


 そこで言葉を切って、わたしはお姉さんを改めて見た。

 子供や孫が居るって言ってた。それって大体何歳くらいなんだろう……。

 たぶん、このお姉さんは若返っていると思う。そうじゃなかったら、お姉さんが行っている美容法は馬鹿売れするに違いない。


「異世界転移や異世界転生とかは、わかりますか?」


 問えば否定されてしまった。

 基本、孫とアニメを見ることはあっても、ゲームを見ることはないそうだ。

 アニメも一緒に見る、と言っても、流しているだけで、本人は違う事をしているそうで、なんとなく孫の好きなキャラクターは分かる、くらいらしい。

 ……説明のハードル高いな。と一瞬思ったけど、頑張るよ。


「この世界の事を説明する前に、まず、今、でいいのかな? たぶんいいんだろうな。日本で流行っていたジャンルがありまして」

「ジャンルですか?」

「ファンタジーが流行ってたんです」


 ファンタジーって分かります? と言ったら、有名な魔法使いの映画の名前やら童話やらが出てきたから多分大丈夫だろう。


「その中で、異世界に日本人が召喚されたり、転生したりとする物語が流行ってました。その中でも、日本人だった頃の知識等を生かして、異世界を救うとか改革するとか、そういう物語が流行っていたんです」


 わたしの説明に、お姉さんはしばし考えた後、何かに思い当たったのか、顔を上げる。


「……現代の医療法を過去で披露する感じですか?」

「はい! そんな感じです!!」


 医療物も確かに良くあるよね!

 うんうんと頷いた後、改めて、わたし達がここにいる理由を、わたしが説明するのか、と思ったらちょっと嫌になった。


「それで、ですね。わたし達が今、ここに居る理由なのですが……」

「はい」


 真剣な眼差しでわたしを見てくるお姉さん。


「……神様の一人が、本当に、物語のように、日本人が異世界を救えるか試してみよう。と考えたらしく」

 

 正しくは、日本人にチート能力を与えたら、だったらしいけど、たぶんチート能力って言っても分からないと思うので、そこはすっとばす。


「日本人数名と、別の異世界人をこの世界の能力を持たせて転移させたのが、その、お姉さん達になります……。お姉さんが、この世界に来た時、たぶん、同時にこの世界のあちこちに日本人と、別の異世界人がやってきてるはずです」


 そう。お姉さんの言葉を聞きながらわたしは思い出した。


 わたしの十六歳の誕生日。


 その日はみんなが異世界転移してくる日だ。

 そして、わたしは、その日に合わせて、わたしの生まれる日を調整すると言われた。

 ど忘れしていたが、たぶん昨日がそうだったのだろう。


「そして、わたしは、もう一つの物語、異世界転生者側として、この世界に先に生まれてました」

「…………」


 お姉さんはわたしをじっと見た後、首を傾げた。

 ですよね!!

 本当に意味が分からないのか、理解したくないのか、分かりませんが、その気持ちだけは、わたしも同感でした!!


 非常に同意したい気分で、わたしはあの日、いや、あの時の事を思い出す。


「そんなわけで、ジジイともう一人の神が舞台となる異世界を作っちゃって、すでに人も送っちゃったんだよね」


 真っ白な世界で、わたしよりも年下と思われるのに、眉間の皺が、これまでの苦労を醸し出す、そんな少年神が説明を行ってくれた。


「結果がどうであれ、一度やればクソジジイは納得すると思うんだ。でも、ジジイ達は異世界転移の人間しか用意してなくて、転生者の事はど忘れしてるんだよね」

「はぁ」

「俺としては、忘れたままでもいいんだけど、その後『異世界転生の方を試していなかった』とか言い出されても困るわけ」

「……はぁ……」

「なので、君を用意したわけ」

「……えっと、わたし、死んだんですか?」

「死んでないよ。原因不明で眠り続けているだけ」


 原因不明で昏睡……。


「……えっと、こういう場合、死んだ人の魂を使うのでは?」


 死んでなかった事はありがたいが、いまいち納得は出来ない。


「本格的に作った世界ならね」

「……え?」

「君が今から転生する世界は、元の世界をコピーして作ったインスタントな世界。分かりやすく言うと、ジジイと共犯者が手がけている世界にあるアレコレをコピーして突っ込んだ世界。流石に地球まんまって事はないだろうけど、火星と地球の位置を入れ替えて、人を住めるようにした。くらいのインスタント感でも俺は納得する」

「……」


 ああ、確かにありますよね。火星を地球の代わりにするようなマンガ。


「人間の誕生だって、ファンタジーに丁度良さそうな年代を都市ごとコピペだよ。流石にそれはどうよって聞いた時には俺も思ったけど!」


 少年神はお怒りのようだ。


「そんなわけで、君達が世界を救うか、君達が全員異世界で死ぬか。ジジイ的に満足出来る結果が出れば、それまで。世界が救われるにしろ、死んだにしろ、元の世界に戻る事になっているから、死んだ人間の魂を持ってくるわけには行かないんだ」

「はぁ……。分かり、ました……」


 なんとなく、分かった。

 なんで死んだ人間が駄目かは、いまいち理解しきれないが、生きている人間の方が都合がいいのだろうという事は分かった。

 色々その世界大丈夫なのか? という疑問はまだ残るけど。

 いや、そういう疑問があるから、本物を使うわけにはいかないのかな? よく分からないけど。


「えっと、じゃあ、世界を救う旅に出ればいいんですか?」

「いや、そう言った使命はないよ」

「え?」

「君は転生っていう他の人達と違う形で異世界で生きる事になるからね。多少は事情を説明しておこうと思って。君にも、異世界転移で行った他の人達にも、神々から何かの使命が出てる事はないよ。それでは意味がないからね」

「意味が無い……」

「そう。ジジイが見たいのは、チート能力を持った日本人が、異世界に降り立った時、どうなるか、だからね。異世界転生者でも、神様と会って異世界に転生するけど、何の使命も持たないのが多いでしょ? あんな感じ」

「……はぁ……」


 相づちを打って、しばし考える。

 確かにそういうのがほとんどだよな。って考えて、読んだ事あるマンガや小説の記憶を呼び起こし、首を傾げる。


「わたしが見た中では、そういうのって、だいたい、神様のやらかしか、ざまぁ系だったような……」

「この場合は神様のやらかしでいいんじゃない?」


 ……確かに。やらかしの種類が違うけど、その通りだな、と納得してしまった。


「君達が君達としてどう生きるか。それを見るための遊びだからね」


 その少年神は、さらにこういった。





 なんだったら、世界を滅ぼしてもいいんだよ。




 どうってことない表情で言われた。

 正直恐怖を感じた。

 神様にとってそんなに命は軽いのか、と。なんてことをいうのだ。と


「いやいや、違うよ。そう考える神も居るけど、俺は違うからね」


 わたしの思考は向こうに漏れているようで、少年神が慌てて否定した。


「ただ、君が行く世界については本当にどちらでもいいんだよ。そのための世界なんだから」


 そのための世界とはいえ、神がそう言っちゃうのはどうかと。

 他にも人はいっぱいいるんだろうし。


「あー……。まぁ、いっか。ここまで言ったら。君達をゲームのプレイヤーと称し、今からいく異世界の現地人をNPCと呼ぶとした場合、NPCの人は皆、君と同じなんだよ」

「わたしと同じ?」

「そう。さっきも言ったでしょ? 都市ごとコピペしたって。人も含まれてるんだよ」

「はぁ」


 訳が分からなくて、わたしはただ曖昧に返す事しかできなかった。


「NPCの彼らは寝ている間、この世界の住人として生活してるんだ」


 ああ、だからわたしと同じ……。


「異世界で死んだら、その夢を見なくなる。その程度だよ。ただ、これは秘密にしてたほうがいいかな? 君は違うだろうけど、ゲームだからと凶暴になる人間もいる。そういう人間がそれを知った瞬間、何をしだすか分からない。さっき世界を滅ぼしても良いって言ったけど、自分の言葉がきっかけで、なんていうのは嫌でしょ?」


 少年神の言葉にわたしは頷く。


「とりあえず、話を最初の最初に戻そう。君は今から、転生(仮)する」

「かっこかり……」


 まぁ、昏睡状態っていうのなら、本当の転生じゃないしね。むしろ憑依?


「異世界転移する日本人に与えられるチートは異世界言語と、4つのスキルがレベルマックスで貰えるって事らしい」

「らしい?」

「いや、俺がジジイ達の所に『日本人返せや』って文句を言いに行ったらすでに異世界に送られた後だったから」


 ああ、だから諦めて参加すると同時に、異世界転生も発生させて、二度目の可能性をなくしたんだっけ……。


「ただ、君は同じようなチートを与えるわけにはいかない。君があの世界で生きてどんな職業を選ぶか分からないし」

「……異世界転生ものなら最初から神々に与えられたチート魔法っていうのはちらほらあると思いますが」

「あるね。でも、今回は無しだ。かわりに成長促進系をあげようと思う」

「成長促進……。つまりレベル上げがしやすくなる、と?」

「そう。それがあれば君がどんな職業を取って、どんなスキルをとっても対応出来ると思うから。有る意味、5つのスキルマックスよりもチートだと思うよ」

「確かに」


 思わず大きく頷くと、少年神は笑った。それから困った様な顔にも、寂しそうな顔にも見える表情になった。


「じゃあ、あちらに送るよ」

「え!? もうですか!?」

「うん。……説明しすぎたってちょっと反省してるんだ。なんだったら、このやりとりは忘れた方がいいかもって思ってる所」


 なんで? と、意識が遠くなるような、抗いがたい眠りに落ちるようなそんな感覚の後にわたしはたぶん転生した。


 あの少年神が複雑な顔をした理由が、忘れた方が良いっていった理由が、思い出した今なら分かった。

 家族だ。前世ではなく、今世の家族。

 この会話の記憶があった場合、わたしは今の家族とここまで仲良くなれただろうか。

 たぶん、無理だった。

 どうせ、仮だし。となっただろう。

 そして、思い出したら思い出したで、問題だ。

 今の家族は所詮仮なのだ。と、混乱して、どう接すればいいのか迷ったかもしれない。

 でも、自分の状況を思えば、簡単だった。

 自分は今、日本では昏睡状態らしいが、そんな感じはこれっぽっちもない。

 ただ毎日を一生懸命生きてきた実感しかない。

 家族だってそうだろう。

 だから今までと何も変わらない。

 ただ、少年神がいうように、そう言った情報は出さない方がいいだろうと思うだけで。


 今目の前にいるこの人にも、そこは噤むべきだろう。。


「えーっと。神様がある目的を持ってこの世界に日本人を連れてきて、その中の誰かが、その目的を達成すれば、帰れます」

「……その目的とはなんでしょう?」


 問われて、少し考えた。

 そもそも世界を変えるとか、救うとか言われたけど、何をどう変えるのか、何から救うのか、とかは聞いていない。


「……分かりません」

「え?」

「えっと、すみません。具体的な内容は聞いていません。わたしもすぐこちらに送られましたので」

「……そうですか」


 ああ、どんよりしちゃったよ。それもそうだよね。そうなるよね! 

 えーっと、えーっと。


「えっと、海外旅行に来た、と思って気楽に過ごすのはどうでしょう!?」


 浮かんだ言葉はそれだった。


「海外旅行ですか?」

「はい。日本では経験できない色んな事が経験出来ると思いますよ」

「……そうですね」


 魔法とか、と口にしようとしたが、お姉さんの表情がまた一気に曇った。


「あの……?」

「……ここでの記憶は、日本に戻ったらどうなるのでしょう?」

「あ、それについては知りません」

「……そうですか」


 どこか残念そうにお姉さんは口にし、それから気持ちを切り替えたのか、わたしを見あげて、困った様な笑みを浮かべた。


「申し訳ございませんが、他にも色々教えて頂けるでしょうか?」

「はい! 任せてください!」


 こうして、気品のある美人なお姉さん、西園寺 静子さん、正確に言えば、この時には苗字が旧姓の伊集院となっていた静子さんと共同生活をする事になった。

 そして、のちに静さんと呼ぶようになったこの御方。

 本当にチートでした。

 

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