第10話 うちの子はかわいいだけじゃない!
門を出てしばらく歩き、森へと入る。
そこで、昨晩決めていた通り、クローバーとユウセンを召喚し、さらにもう二体ずつ出す。
「うへぇ……」
計六匹出して魔力が一気に減ったからか、一瞬ぐらっとした。
でも、この子達がわたしの攻撃手段であり、防御手段なのだ。
私自身は魔法が使えないので。
村では一応護身術程度に短剣とかでの戦い方は習ったけど……。先生達は基本、狩人なんだよね。弓矢がメインって人の方が多いんだよね。
そして、弓矢については練習時間的に、事故る確率の方が高そうだからって、皆から却下されたんだよね。
で、腕力的にも短剣だよなってなって……。
解体の技術は上がった気がします。
いや、あのね。最初はきちんと、対人戦とか、動物相手の戦い方とか、素人に毛が生えたような先生達だけど、習ってたのよ、きちんと。
でもね、クローバーが呼べるようになったら、先生達、手の平返ししやがりまして。
「練習は続けろ。でも戦闘はクローバーにさせろ。で、お前は解体の腕を磨け。美味い肉と買い取り価格のために!」
ほぼ全員に似たような事を言われたら、諦めました。
魔女は魔法職。
身体能力が下がったという事はないけど、上がったという事もない。つまりそういうこと! と、わたしも開き直りました。
実際、クローバーの風魔法、凄いんですよ。
スパッといくのです。スパッと。怖いくらいスパッと。
わたしを含めて、見ていた何名かは思わず首を押さえるくらいには怖かったですよ?
それにクローバーが使う魔法はわたしのMP、今は敢えてMPと言うけど、それとは関係ないようで、クローバーがMPを使い切ったら、召喚を一度切って、再召喚するとクローバーのMPが満タンという状態。
召喚し続けてるとちょっとずつわたしのMPを消費するんだけど、クローバーが倒した魔物の経験値はわたしにも入るようで、肉体レベルというのか、そっちがレベルアップして、MPとかも増えてるみたいで、負担が少しずつ減ってきてるのが、体感的に分かる。
そんなわけで、新しく迎えたユウセンを含めて複数出すことは問題無いと判断したわけ。
ちなみにユウセンは土属性の魔法を使うみたい。
一瞬、「あれ? モグラって、土にネズミだっけ?」って考えちゃった。
モグラは確か土に……竜……だっけ?
……そう考えると凄いね、モグラ。漢字ドラゴンなのか。
あと、石とか岩とかも土に属してるらしくて……。
こちらも殺傷能力高そうな魔法を繰り出してきました。
……うん。レベル上げは十分に出来そうだね……。
乾いた笑みも出るってものよ……。
森へとやってきたわたしはクローバーの先導に従って森を進み、開けた場所に出た。
森の中に広がる草原……。
実際に見ると不思議な感じだ。
前世だと、気候か人工か、とかそんな感じだったと思うけど、こっちだとプラス魔物っていう存在が、ですね……。
「ここ、入って大丈夫だよね?」
こういう草原自体が魔物の一種っていう事もありえるんだよねぇ……。
クローバーもユウセンも大丈夫というし、魔女の瞳も草花に魔力は無しと示している。
だから、きっと大丈夫だろう。
そう決心しても、ちょっとビクビクしちゃったのは仕方が無い。
草原の中央で魔女の家 レベル2(木造)を出現させる。
そして、それを囲む様にちょっと離れた所に、魔女の家レベル1(菓子)を出現させる。
ドンッ。ドンッ。ドドンッ。ドンッ。
音を立てて出現したお菓子の家は、今度はあまーいニオイを放ち始める。
しかしわたしはそのニオイに食欲をそそられる事もなく、木造の方の敷地内でへたり込む。
「うぅ……。げんかい……」
大の字になって寝っ転がりたい……。
わたしはそんな誘惑に必死に抗いながら、立ち上がり、のろのろと木造の家へと入る。
扉を閉めて、もたれる。
「つかれた……」
ずりずりと扉に持たれながら、座り込み、お尻が床についたら、もう立つ気力もなかった。
「はぁー……」
ため息と共に全身から力が抜けていき、わたしはそのままそこでこてっと眠りに落ちてしまった。
*
*
「すー……。ふー……。すー……。ぷー……。くぅー……」
一瞬、浮遊した感覚を夢の中で感じた。
まるでベッドから落ちそうになった時のように。
意識が一気に覚醒した。
訳が分からないまま、体が動く。
ベッドから落ちたので有れば、受け身を取ろうとして、無意識に腕を出すように。
でもその腕は一度からぶった後、バランスを崩した体を再度支えるために、今度はきちんと床に手を突いた。
「……?」
目の前に広がるのは天井ではない。
……大釜やら棚やらが見える。
「あ……」
どうやら疲れて扉にもたれ、座ったまま眠ってしまったようだ。
体は、ちょっと痛いかな……。
立ち上がって周りを見る。窓から入ってくる光の感じ方からして、そんなに経ってはいない?
そんな事を考えながら、玄関扉を開ける。
「進捗はどうか……な……」
「グァァァッァァッァ!!」
「グオオオオオオオオオ!!」
二体のクマが咆哮を上げながら、ド突きあってる。
プロレスのように取っ組み合ってはお互いに殴り合い。
一度離れて四つん這いになり、ぐるりと円を描き……。
二体は同時に立ち上がり前足を高くかかげて威嚇し合う。
「グァァァッァァッァ!!」
「グオオオオオオオオオ!!」
シュパッパンッッッッ!!
「…………」
空を切る音の凄い奴とでもいうか。そんな音が一回鳴ったな。って思ったらクマたちの喧嘩は終わっていた。
……クローバーの一人勝ちで有る……。
……カワイイ姿なのに、容赦ないな、この子……。
レベルが上がったのだろう。だるさが急に無くなった。
外に出て周りを見ると……。クマが争っていたお菓子の家が最後のお菓子の家だったっぽい。
「チュッチュチュ!」
「ん?」
ユウセンに呼ばれて下を向く。
ユウセンは四つん這いの状態から、後ろ足で立ち上がると、隣にもう一つの分身体が並んだ。
かわいい。とか思ってたら、今度は二匹で四つん這いになり、また後ろ足で立つ。そしたらユウセンの左隣にもう一匹の分身体が走ってきて同じポーズを取る。
そして三匹は同じように足をまた付けて、その後二本足で立つが、次に駆け寄ってくる分身体は当然いない。
えーっと、つまり……。
「……分身を増やして欲しいの?」
「チュッ!!」
当たったようだ。一匹増やす。増えた一匹は同じように並び、同じ動きをする。
「え? まだ増やすの?」
「チュッ!!」
まだ増やして欲しいらしい。さらにもう一匹。
……さらに追加。
計六匹になった黒ネズミたちは嬉しそうにわたしの周りをくるくる回る。
バターになるぞぉーっと思ったところで駆けだして行った。
「…………」
その後起こった事は、「あ、うん。ネズミだもんね」っていうのと「使い魔って凄いな」ていう両方を味わう事に。
簡単に言えば。
魔物については、討伐部位となる部分を、食べながら剥いでいった。
あくまでその部分が取れれば良いようで、ぽっかりと穴の空いた魔物の死骸は、いつの間にか作っていた大穴に運ばれた。
そしてクローバーたちと協力して彼らは草の葉っぱやら小枝やら、木の皮などを持ってきては穴に落としていく。
まさか、死体の上に巣でも作るの? ってちょっと怖い考えをしながら、暢気に眺めていたわたし。
彼らは、ある程度それがすむと、今度は穴の外に、巣の材料になりそうなものを重ねていった。
そして、ユウセン達はお互いにその上で土魔法で石をぶつけ合い…………。
着火させた。
なんか、火花飛んでるなぁ……。とか思ってたら。巣っぽい固まりの上に小さな火が出てまして……。
えぇぇー……?
と、呆然と眺めていたら、更に作業は進んだ。
クローバーたちも手伝い、火を大きくしていく。
流石にこれは、ちょっと危ないのでは? と思う位火が大きくなったところで、地面が隆起して、出来上がった火を穴の中に落とす。
このあたりでわたしは完全に言葉を無くし、立ち尽くした。
クローバーたちは穴の中まで酸素が届くように時折、風魔法を使い空気を送っているようだった。
まさかの魔物の焼却処分。
…………うちのこ、すごすぎでは?
作業を分体達に任せて、戻ってきたクローバーとユウセン。
褒めて! って顔で見あげている。
「……凄いねぇ……。偉いねぇ……。でも、言ってくれたら、火打ち石くらいはわたしでも手伝うよ」
あんな形で火を熾さんでも。と思いつつ言えば、二匹は同時に「え!? そうなの!?」っていう顔をしていた。
ちょっと待って。
わたし、どれだけずぼらな主だと思われてるんだ!?
問い詰めそうになるのをぐっと堪えて、二匹を褒め、撫で続けた。
それから食用の動物についてはわたしが解体し、オーブン! ホットプレート! 電気コンロ! をフルに使って料理しました。
分身体の子達も合わせるとそれなりに食べてくれるだろう、と。
手を付ける前であれば、冷蔵庫もあるし、と思いながら作ったんだけど。
残らなかったね。使い魔達も結構食べたんだけど、わたしもかなり食べた。
お腹空いているっていう自覚あまりなかったんだけど、なんだかんだとスキルを使ってお腹が空いていたようである。
それから文字盤を使ってやりとりをした。
こんな形での交流は予想していなかったけど、嬉しい誤算だよねぇ~。と、紙の上を動く二匹をニマニマして見つめていた。
*
*
「クローバー、ユウセン、これはどう?」
お風呂場から持ってきた洗面器を見せる。
二匹ともしばらく悩んで居たが、最終的には頷いていた。
わたしはそれを持って、庭の方に出る。
魔女の家(木造)は敷地内が塀で囲まれているためわかりやすい。
家電が使えるように、この家は照明が使える。なので、庭は明るいので、気分的には歩きやすい。
わたしを狙っている魔物や動物がいれば、本当は危ないんだろうけどね。
こちらが明るすぎて、森の方は全然窺えないから。
また全体的に月明かりの下の様に明るく、人間でも侵入しやすそうに見える。
でもそこには結界が張ってあって、侵入は容易くない。
まぁ、絶対ではないだろうけど、こんな夜の森の中でも外に出られるだけの安心感がある。
外の、庭用の蛇口の下に洗面器を置き、水を流す。
満杯になって、水があふれ出す。
蛇口を閉めると、嫌々と二匹が示すので、開けてまた水を流す。
「出しっぱなしがいいの?」
問えば、二匹は頷く。
流し続けてもMPが減っていくわけでも無いし、大丈夫だと思うけど、それとは別に水浸しにならない? と少し心配になったけど、ユウセン達が溝を掘って水をどこかに運んでいくのを見て、もう少し水の勢いを出すか、聞けば、そうすると自分達が水が飲みにくくなるから今ぐらいでいいとの事。
「これでいい? じゃあ、わたしお風呂入るよ?」
「ピッ!」
「チッ!」
羽と手を振る二匹。
何をするつもりかは分からないが、二匹に任せると決めた以上、二匹の言うとおりにする事にした。
寝室の洋服ダンスを開ける。
……たぶん、前世のわたしが使ってたやつの新品だと思われるそれらがずらっと並んでいる。
パジャマもあるけど、着替えはTシャツと短パンにした。
お風呂は至福である。
頭のてっぺんから足先まで、キレイに洗って、浴槽に浸かる。
「ふへぇぇぇぇ」
もはや溶けそう。
「ふふふ……」
無意識に零れる笑み。
魔女の家なんて使えないなんて言った、あの魔女に「これのどこが使えないんだ、ばーか」と心の中で馬鹿にする。
もうそれだけで、なんか段々どうでも良くなってきたのだ。
そのうち「この良さがわからないなんて、人生損してる」とか優越感に変わったりもして、最終的には本当にどうでも良くなったのだ。
「あー……お風呂ってやっぱさいこー」
幸せに浸りながらお風呂を堪能した。
洗面所には、化粧水とかもあったので、それを使い、髪もドライヤーで乾かす。
水を一杯飲んで、寝室に向かい、ベッドの端に座る。
すーっと息を吸って。
「使い魔! 最大召喚!」
両腕を突き出して、呼べるだけの使い魔を両方出す。
ぐらり、と回復したはずのMPが一気に減ったからか、眠気が襲ってくる。
「あとは、よろし、く」
ベッドにきちんと入る気力もなく、そのまま後ろに倒れる。
ベッドはそんなわたしをどこか硬くも優しく迎えてくれた。
*
*
朝。起きたら、わたし、きちんとベッドの中入っていた。
……自力? いや、たぶんあの子達が工夫して寝かせてくれたんだろうな。
良い子達だ。
いっぱい褒めてあげよう。と起き出す。
家の中には姿はない。
庭の方に出ると二匹が居た。
「おは……」
「あ、おはよう、ごチュじんさま」
「おはよー、マチュター」
わたしに気付いた二匹がそう挨拶してくれた。
「……え? しゃべ……?」
「「チュかい魔レベルが上がったよー」」
あ、はい。
二匹が計画した、レベルアップ作戦が功を奏したのか、一日目からわたし、スキルレベルが上がったようです。
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