第9話 異世界でも怖い。


 使い魔のスキルが上がった。

 クローバーはちょっと大きくなった。もしかしたら最終的にはカラスぐらいの大きさになるかもしれない。

 でもすぐいつもの小鳥姿に戻ったけど。


 そして、新しい使い魔が増えた。

 黒いネズミだ。これもまた小さい。

 わたしの掌でも二、三匹は乗れそう。

 それにしてもネズミか。

 流石にミッ●ーは不味いよね。たとえ世界が変わっても著作権がどうのこうのといわれそうだ。

 あれ? 肖像権だっけ?

 よく分からないけど、同人やってた友人から、面白おかしく、丸三つで、アウトとか、本当かどうかも分からない話を聞いた。

 最初は丸三つ? と意味が分からなかったのだけど、『●』で耳と顔を表す事が出来るでしょ? と実際にパパッとノートに書いてくれたのを見て、納得した。

 確かにすぐに連想する、と。

 そんな友人も、又聞きらしく、本当かどうかも分からない話ばっかりだったけど、怖さだけはすり込まれた。

 裁判とか嫌だよねぇーっと。

 それから、それっぽいキャラクターの絵が描かれてると、大丈夫? って思ったりもしたものだ。日本生まれのキャラクターに関してはあまり思わなかったのにね。


 って、名前から随分と思考が離れたな……。

 ネズミ、マウス……。……キーボード、フロッピー、USB……ノート……。

 いや、どんどん離れていってる気がする。

 そもそもあれがマウスって呼ばれるようになった姿は初期の頃っぽいし、それにその尻尾も最終的には無くなったり……し、て。


「君の名前はユウセンにしよう」


 わたしの前世は無線よりも有線が好きだった事を思いだした。

 電池変えるのめんどくさーい! ってしてたのだ。

 クローバーとは随分と名前の雰囲気が変わったけど、思い出しやすいとか覚えやすいとか言うのでは大丈夫だと思う。


 名付けるとチュウとユウセンは鳴いてくれた。

 たぶん気に入ってくれたんだと思う。

 そして、誕生したばっかり(?)のユウセンも文字表を使って意志の疎通が出来るっぽい。

 この子も普通に優秀だね。凄いね、魔女の使い魔!


 一人と二匹で、菓子パンタイプの魔女の家を食べながら今後の方針を話し合った。

 魔女の使い魔だからか、この子達、わたしよりもスキルの事をよく知っているような……?

 ……それにしても、クローバーがあの魔女に対して、激オコなんですけど……。

 わたし以上に怒ってない、君? って、思ったけど、飼い主としては、こんなに怒ってくれるなんて、って、嬉しくなってしまい、そんなわたしにまで、怒りの矛先が来てしまったのはちょっとした失敗だった。

 でも嬉しいとやっぱりちょっと笑顔になっちゃうよね。仕方ないよね。

 頬が緩むってこんな感じなんだぁ、って思ったよ。

 思うと同時に、ニヨニヨしちゃう口元にこれは、本当に「緩んで」いるのか!? と疑問に思っちゃったよ。


「口角がついついあがっちゃうから、頬が緩むっていう言葉は間違っているかも知れないね!」


 って、話題を変えようとしたら、妹の、「もー! おねえーちゃん! もー!」とジタバタ暴れるような感じでクローバーがバタバタしてた。

 怒ってるけど、その仕草がすっごく可愛かった。

 最終的に、クローバーが拗ねて、慌てて謝ることになりました。

 いやでも、本当に可愛かったんだよぉー……。

 



 翌朝。宿屋のおばちゃんに、近隣の狩猟について聞いてみた。

 場所によっては決められた人達しか駄目って事もあるので。

 やはり近隣の森は駄目っぽい。ただし魔物は別ってことらしいけど。

 それからおばちゃんは、わたしが色々聞きたそうにしている事に気付いたのか、商業ギルドと狩人ギルドを教えてくれた。

 物の売買については商業ギルドに。採取や狩猟については狩人ギルドにってことらしい。

 宿屋から出て、近い順に狩人ギルドと商業ギルドで話を聞く。

 狩人ギルドで話を聞いてみた感想は。

 卸売り場?

 だった。

 魔物の影響で大きな牧場とかは作れない。でも肉は食べたい。

 なので狩人達に狩ってきてもらう。

 肉の種類、品質によって、買い取り価格が違う。

 食用の魔物なら買うけど、そうじゃないものは買い取らない。

 そもそも魔物退治は騎士や兵士の管轄で狩人達の管轄ではない、と。

 肉以外の毛皮や牙や爪なども買い取ってはいるが、あくまで食用の肉のついでで、そうじゃないものに関しては商業ギルドの管轄、とのこと。

 それでも森で狩りや採取をするのなら、登録しておかないと場合によっては密猟と言われて罰金や罰則が付く可能性がある、との事らしい。

 領都の近くだから色々面倒だ。仕方ないけど。

 神職が狩人でなくても登録出来るので、わたしも登録しておく。

 ここで売買しなくても、森に行くのなら登録しておいた方が無難、という事だ。


 それから商業ギルドに言って、売買について確認を取る。

 個人が売る程度のものなら登録は不要。

 店として売るだけの量があるのなら登録は必要。

 魔物の素材なら兵士の詰め所に持って行くと討伐代が出るらしい。

 魔物の素材の買い取りについて聞くと、よほど貴重な物以外は買い取りしていないそうだ。

 うーん。レベル上げと稼ぐのは別にした方がいいかなぁ……。


「あの、わたしでも市場とかで食べ物を売る事は可能ですか?」

「あら、貴方料理人の見習いさん?」

「ちょっと違いますが、似たようなものです」


 見習いっていう所は一緒です。

 具体的な商売の話が出始めたからか、受付のお姉さんは先ほどよりも楽しげに相談に乗ってくれた。


「今まで商売をしたことは? 無いの? じゃあ品数はそれほど多くない方がいいわ。値段も計算がしやすい方がいいわよ」


 こんな感じで色々教えて貰い、さっそく次の市の予約を取ってくれた。

 場所はメイン通りほどではないけれど、人が通る所で、かつ左右の店の店主が、評判の良い人達のところを選んでくれた。


「新人の対応にも慣れてるし、困ったら色々助けてくれると思うわよ」


 との事で、そういう意味でもお姉さんのオススメの場所らしい。

 登録料でそれなりに取られたけど、まだ大丈夫。

 売れなかった時はやばいけど。


「じゃあ、頑張ってね」

「はいありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げて、わたしは建物から出る。

 さて、市の出る週末まで、レベル上げ、頑張りますか!




 

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