第8話 おやおや、これは……
出発当日。
わたしは親兄弟にもみくちゃにされていた。
「いーい? 何か有ったら直ぐ帰ってくるのよ!」
「そうだぞ! 父さん達は何があってもお前の味方だからな!」
「ねーね、いっちゃやだぁー!」
「元気でね! 帰ってくる時は良い男、捕まえてきな!」
「おいこら! それは認めてないぞ!」
「向こうであまり羽目を外しすぎるなよ」
などなど、抱きしめられたり、頭をガシガシと撫でられたりとしながら家族からの暖かい言葉を頂きながらも、若干疲労困憊になった。
もともと成人したら旅に出たいと言っていたわたしを知っている姉ちゃん兄ちゃん達は、護衛もいるし、と気楽な感じ。
同じく知っていたはずの両親は、というと、護衛がいても心配なのだろう。非常にそわそわしてる。
弟妹達はよく分からないなりに、すぐには帰ってこないとわかっているのか、泣いている。
こちらとしても魔女の弟子入りがどんな感じなのかさっぱり分からないので、直ぐに帰ってくるとも数年で帰ってくるとも言えない。
「元気で頑張ってきますよ」
と、言うしかない。
「クローバーに手紙を持たせるから。頑張って字の練習しなね」
ワシャワシャとチビ達の頭を撫でて、わたしは一歩後ろに下がる。
それが合図になったのだろう。みんなが最後のスキンシップを行って離れた。
背中叩いたの誰よ、痛かったよ。
思わず涙目になっちゃったじゃないか。
「行ってきます!」
みんなに聞こえるように大声で言って、わたしは駆け出した。
馬車の手前で止まって振り返り、大きく手を振る。そして、馬車へと飛び乗った。
それを合図に、馬車はゆっくりと、でも確実に動き出した。
ガタゴトと動き出した馬車に、窓から顔を出して手を振る。
家族だけでなく、村の皆も見送りに来てくれて、「元気でなぁ-」とか、「頑張れよぉー」って声をかけてくれた。
「みんなげんきでねー!! がんばってくるよー!!」
せいいっぱいそう叫ぶ。少しでも、わたしが大丈夫なところが見せられたら良い。
それでもう限界。体をひっこめる。
「……大丈夫ですか?」
そんな言葉と共に白いハンカチを差し出された。
「……だいじょ、うぶ、です」
綺麗なハンカチを汚すのも不味いかと思い、手で拭ったら使ってくださいともう一度強めに差し出されたので、受け取って涙を拭き取る。
「すみません。みっともないところ、みせちゃいました」
「いいえ、その若さで親元を離れるのです。仕方有りません」
その若さって、もうすぐ十六になるのですが。って思うけど。
確かに、前世のように気軽に行き来出来るような世界ではない。
普通の野生動物と、さらに危険な魔物がいるのだ。
その上、移動手段の多くは徒歩だ。
馬車が使えるのは一部の人達。
ロバや牛車だって贅沢なのだ。
そんな中、護衛騎士と馬車、それから食料に料理人と……、魔女見習い一人のために、ここまでするのだ。
それだけ魔女の期待値が大きいという事なのだろう。
頑張ろう。
これだけ金をかけて貰ったのだ。せめて半人前にはならなくては申し訳ない。
……うん。善く善く考えれば、今までの全部、税だもんね。
そう考えると申し訳ない気持ちになる。
税の大変さは、前世よりも今世の方が身に染みてるから……。
せめて、本当にせめて、半人前にならなくては。
そう、若干の逃げも混じった考えと共に心に誓ったのだけど。
「魔女の家に魔女の瞳って、そんな役立たず、弟子になんて取りたくないんだけど」
領主様のお屋敷にて、師匠となる魔女に会って、神殿で選んだスキルを告げた途端、暴言を吐かれた。
「……」
役立たず? 役立たずって言った? って、こちらは頭の中は疑問符で一杯だ。
「ふむ、其方が断るのならば、この娘は王都へと連れて行かねばならぬが」
「王都の魔女達だって嫌がるわよ、こんな不良債権」
不良債権……。
「貴方達だって見返りが欲しくて私達を支援してるんでしょ?」
「それは……そうだが……」
領主様は歯切れ悪く口にし、わたしを見て、魔女を見た。
「貴方も、魔女になるなんて大それた夢は忘れてさっさと田舎に戻って畑でも耕せば?」
「……なんでそこまで言われなきゃならないんです?」
これ、間違い無く、喧嘩売られてるよね?
「私の弟子にすでにいるからよ。魔女の家を持つ弟子も、魔女の瞳を持つ弟子も。彼女達は五年経ってもまだ見習いを卒業出来ないの。他の魔女達だってそうよ。弟子が何年も、何十年も見習いのままって恥ずかしいでしょう? だから私はこれ以上、そのスキルを持つ者は弟子に取りたくないの。他の魔女達だって同じでしょうよ。だから、誰かの弟子入りなんて諦めて、さっさと田舎に戻れって言ってるの」
「……貴方がわたしを弟子に取らない理由は分かりました。でもわたしは自分の能力が役に立たないとは思ってません」
「そう? なら好きにしたら? でも、領主もこれ以上の支援はしたくないはずよ? 大人しく帰るっていうのなら、私から頼んで、村まで護衛付きで送ってくれるようにするけど?」
「あはははは、お断りしますぅー」
ここまで喧嘩売られて誰が大人しく帰るもんか。
「じゃあ、頑張ってみれば?」
人を食ったような笑顔で。
「領主の支援もなしに、出来損ないの魔女見習いに何が出来るか、楽しませて貰うわよ」
こうして、弟子入りどころか、喧嘩を売られて、買ったわたし。
魔女の弟子入りが絶対じゃないのなら、あんな人、こっちからお断りである。
本来泊まるはずだった領主の館を出て宿屋へと向かった。
まさか、ここで、何かあった時のために、と村で蓄えたお金を使う事になるとは思わなかった。
でもって、これは、役に立たないと言われた、魔女のスキルを使って儲けたお金だ。
この時点であの魔女の言葉は当てにならないって声を大にして言いたい。
お金を払い、鍵を受け取り、宛がわれた部屋へと向かう。
そこは、小さいけれど、清潔な部屋で、無意識にほっと息を吐いていた。
街の人達の何人かに聞き込みし、魔女の瞳で宿屋としての質を確認したから大丈夫だとは思ったけど、やっぱり初めてだし、ちょっと不安だったらしい。
カバンを置いて、ベッドに座る。
「クローバー」
わたしの呼びかけに影から小さな鳥が出てくる。
「あの魔女の話聞いていた?」
「ピッ」
「わたし、役立たずの魔女だって」
「ピ! ピピピ! チチチッピピ!」
翼をバサバサと動かして怒っているのが分かる。
「あったま来たから、わたしが役立たずじゃないって見返してやりたいんだよね。協力してくれる?」
「ピッ! ピピ!!」
翼を広げてくるりと回る。
大賛成! っていう意志を感じてわたしも嬉しくなる。
そして、クローバーはさらに何かを訴え始めた。
その動きは非常に可愛いのだが……。何が言いたいのか……。
んー? 下から上にって動作が多いから……。
「何かを上げろって言ってる?」
「ピ! ピピ!!」
あ。当たってたみたい。じゃあ、何をあげるのか……。
またクローバーは必死になって動き始めたのだが。
「あ、待って」
意志を伝えようと踊る姿は可愛いのだけど、これじゃ話が進まないし。それにクローバーはとても賢い。こちらの言っている意味が分かるのだ。ならばきっと文字も読めるはず。
実家に手紙を書くために持ってきた紙に文字を書いていく。
クローバーもわたしのやりたい事が分かったのだろう。翼を広げて応援している。
そして文字を書き終えるとクローバーはくちばしで文字をコツコツッとたたき出した。
「ス・キ・ル・ア・ゲ・ル」
そこでクローバーの動きが止まる。
つまりそれが言いたい事なのだろう。
「確かにスキルは上げたいね。でもどうやって上げるかが問題なんだよね」
そう呟くとクローバーはまた紙をたたき出した。
「えーっと……。ワ・タ・シ・ト・ワ・タ・シ・オ・ダ・ス」
そこで止まったので、考える。
「わたしとわたしお出す?」
首を傾げると、クローバーは慌てて次ぎの文を打った。
「ニ・タ・イ・ダ・ス……。え? 二体出せるの?」
そう聞き返せばクローバーはうんうんと何度も頷いた。
二体目を出す。という意識で魔力を込めればあっさりと二体目のクローバーが出た。
そして、使い魔のスキルが上がった。
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