第6話 スキルのレベルが上がって。


 わたしが魔女になって村に戻ってきてから、村の生活は大きく変わったと思う。

 まず、魔女の家で、菓子パンではあるけど、食べ物が増えた。

 次に、魔女の瞳で、食用ではないと思っていたものが、食用である事が分かった。

 これは特に影響が大きかった。

 魔女の家は、わたしがこの村からいなくなっちゃうと、どうしようもない。でも、森などに自生していた植物は違う。本当の意味で食料が増えたのだ。

 だから必死になってわたしは、魔女の目で食べられるものを探した。

 自分がガリガリなのは、まだダイエットだっていって、自分を誤魔化す事は出来るけど、自分よりも小さい子がガリガリなのはやっぱり気になる。

 ふっくらほっぺがかわいいはずの幼児がふっくらほっぺたしてないのだ!

 それに不作の年もあるという。

 わたしが生まれてからはまだないけど、兄ちゃん姉ちゃんが小さい頃にはあったらしい。

 聞けば、村長を含む老人達は周期的に、五年以内には起こるんじゃないかって、警戒してたっぽい。

 わたしを含め、数名に早めに儀式を受けさせたのは、開墾して畑が増えるか、狩人が増えて保存食が増やせるか、という期待があったようだ。

 まさか、そのうちの一人が魔女になって帰ってくるとは思わなかったそうだけど……。

 そんなわけで、村長からのお願いもあって、狩人組と森を回って新しい食料探したり、川で漁をする漁師と一緒に川辺で食べる物を探してたりしてたら、熟練度も上がって、あっという間に、魔女の瞳もレベルが上がった。

 突然、良し悪し表示の下に魔力の有無という表示が出ていた。

 いや、そんなん有っても。

 って、最初は思ったのよ。でも、魔力が入っている素材を使って大釜を使うと品質がちょっと上がる事が判明。

 あと、鉄とかの中にも時折魔力が入っているのがあって、それらを集めて剣を打てば魔剣が出来るんじゃないか、って鍛冶屋のおっちゃん達と盛り上がったんだけど、中々揃わず……。

 わたしが旅立つことになるまでに魔剣を作る事ができるだろうか、と腕を組みながらうんうん唸ったりもした。


 あと、簡易な医者になることも出来た。

 良し悪しでしか判断出来ないわたしの目。

 人を見ても、普通とか、良い、とか、ちょっと悪い。くらいしかでない。

 でも、本人が元気そうでも状態が『悪い』というのがあって、怪我でもしてるのかと思ったら違った。本人的に自覚症状はなく、軽い風邪気味なのかなと本人は首を傾げた。

 三日経っても改善されなかった。風邪の症状もない。

 これは体内で密かに進行している病気ではないか、と考えるのは当然のことで。

 大丈夫だとごねる本人に、良いから行ってこい、と。ついでに、金になりそうな物も売ってきて! と、狩人組と次期村長と一緒に、この辺りで大きい町へと送り出した。

 本人は治癒師の前で非常に困ったっぽいけどね。

 なんせ、自覚症状がないから。

 ただ、村の子のスキルで見ると体調が悪いという表示がずっと出ていると話したそうだ。

 で、念のために、と見習いの治癒師が魔法を掛けてみたところ、魔法がきちんと発動した。つまり、病気になっている事は間違いない、ということになった。

 そして見習いの治癒師はこうも言ったそうで。


「たぶん、この病気は本人に自覚症状が出た時には、私達の様な見習いの力は効果は発揮できなかったと思います。早めに発見できたから見習いの私の治癒でも効いたのだと思います。貴方の病気を発見した人はとても素晴らしいスキルをお持ちですね」


 治癒師のような職業の者がいない村は、重病化してから発見になる事が多い。

 そのため、お金があれば治せるが、その金も無くて死に至る場合もある。

 報告を受けた村長達は定期的に村人の健康診断をわたしにするようにお願いした。

 居る間だけになっちゃうけど、良いですよ。とわたしも返した。

 

 そして、レベル2になった魔女の家は、というと。

 レベルが2になってもしばらくはその木造の家を出す事は出来なかった。

 というのも人が入れるサイズのお菓子の家がどうやら動物だけでなく、魔物をおびき寄せるっぽかった。

 あと、設置するのに一定以上の広さを指定されたせいもある。


 魔物がやってくるかも知れないっていう事を考えると村の近くでは出せない。そのため、村はずれの場所で、念のために狩人組が全員揃った時に、と、なった。

 その間、わたしはスキルボードともメニューともウィンドウとも呼んでいる、自分にだけに見えるパネルを弄っていた。

 初めはやれること少なかったんだけど、魔女の瞳が五段階評価に分かれたように何かしらカスタマイズ出来るのでは!? と思ったら、出来た。

 もともとは外観がちょっと選べるだけだったんだけど、外観が選べるのなら内装も選べないとおかしくない!? とポチポチと触ってたら出来た。

 でもまぁ、今回は基本のやつでいこう。


「んじゃ、いくよー。魔女の家、レベル2 基本バージョン!」


 かけ声と共に右手を突き出す。

 わたしの前方の開けた大地に、ぶんっと長方形の光があらわれた。

 魔女の家の敷地を示す光だろう。

 そして、ドデンッと木造の、木こり小屋ぽいのが出現した。


「おー。すげぇ一瞬で建った」

「大工いらずだな」


 お菓子の家が出来上がった瞬間を見たことない大人達が感嘆しながら質素な木造の家を見上げる。

 この基本バージョン。

 三角屋根で、煙突が付いている、森の管理小屋とか、山で木こりが休憩するための休憩小屋みたいな感じなんだけど、きちんと塀に囲まれて、家庭菜園もセット(すでに成長済み)でついてくるんだよね。

 こうやってみると、魔女の家って、衣食住のうち、食と住は揃って……、いやお菓子の家は住むには向いてないか。

 そんな事を思いながら簡単な門を開け、玄関へと向かう。

 木製の扉は、あっさりと開いた。


「おー……」


 家の中に入ると思わずそんな声が出た。

 わたしだけでなく、他の面々もだ。

 レベル2の木造の家の内装は、お菓子の家とは大違いで、薬を調合する魔女の家と言った感じだった。

 特にこっちの家にもある大釜がそれっぽい。

 こちらはオーブンはない代わりに暖炉があった。

 薪も暖炉の横に、小さいながらも置き場があった。一時間、二時間くらいなら大丈夫だろうか?

 みんなが見て分かる「普通」はそこまで。

 そこから先はわたしにとっては「普通だった」で、こちらの世界の人にとっては「魔法」だった。

 蛇口がある。

 正真正銘、本物の水とお湯が出る蛇口が。

 お菓子の家にあったなんちゃって水道じゃない!!

 その上、冷蔵庫もあった。一人暮らし用のちっちゃいやつとでも言えばいいのか。

 でも、冷蔵庫だ。

 中は、ソフトドリンクがペットボトルや缶で入っている。チョコやバター、クリームなどもある。冷凍庫にはアイスクリームが。

 冷蔵庫の扉にはメニュー画面があって、そこで、中身の変更が可能のようだ。

 おかしに関係ある物っぽいけど、和菓子の影響で醤油や味噌などもあった。餅米もうるち米もある。

 そしてそしてカレー味のためなのだろう。カレーパウダーがあった!!

 うっしゃー!!! と女子力皆無の雄叫びを上げたわたしはきっと悪くない。


 あ、お酒はお酒で別で置かれてた。

 ちなみに材料だけでなく、出来上がった物も出せるようだ。

 尊い。

 食器棚があって、上の棚にはクッキーが詰まった缶とせんべいが詰まった缶などがある。

 しゅごい。

 そして、洗濯機があった!! 洗剤も柔軟剤もある!


「神よ!!」

「うわびっくりした!」

「何事!?」


 思わず声をあげたら、みんなが驚いていた。

 さらには、昔のホテルみたいな、バストイレが一緒ではあるけれど、お風呂があった。

 シャワーバスがあった! 水洗トイレがあった!!

 トイレットペーパー! ハンドソープ兼用のフェイス用に加え、シャンプーリンスボディソープ完備! バスタオル・フェイスタオルもある! マジですか。


「何!? 何があったの? 何で急に泣いてるの!? ちょっと怖いんだけど!?」


 まじで感涙してたら一緒に来てた(成人の儀にも一緒にいった)近所の姉ちゃんに引かれた。酷い。

 それ以外にもベッドとかもあったんだけどね。久しぶりのふかふか~。とは思いはしたけど、感動は先に挙げたものの方が強かった。

 そして、そこで、蛇口や冷蔵庫はあるのに、ガスコンロはないのか? って思ったら、壁が引き戸である事に気付いて引いてみたら、家電調理器具が並べられていた。

 あれ? って思ったのはこの時だ。

 いくらなんでも見知った物が多すぎやしないか、と。

 これは、わたしの前世のせい?

 それとも魔女の家はもともとそうなの?


「ねぇ、魔女が出てくる物語って何か知ってる?」


 試しにみんなに聞いてみた。

 わたしが知ってる魔女の話って、あくまでスキルが当たりでもありハズレでもあるっていうことと、凄い魔法を使うことっていうくらい。

 同じ村で育っているためか、他のみんなも同じだった。


「あ、わたし、ベルの家の話なら聞いたよ」

「ベルの家?」

「そう。町の子が、魔女の家っていったらベルの家は聞いた事あるけど、お菓子を出すって初めて聞いたって言ってたから。あたしはベルの家って話も聞いたことがないから、聞いてみたの」


 目の前のものと何か関わる物語があるのなら気になるよね。彼女も気になって聞いたらしい。きちんと覚えていたあたり、真剣に聞いたのではないだろうか。


「お前にどうしても叶えたい願いがあるのなら、ベルを探してみると良い。そのベルは魔女の住む世界へと案内してくれるだろう。その世界は昼間でも月があり、夜でも太陽がある。その世界にはありとあらゆる薬草があり、ありとあらゆる食材があるだろう。ありとあらゆる酒があり、宝石の鱗を持つ魚が湖を泳いでいるだろう。魔女がお前を気に入ったのならばお前の願いを叶えるだろう。金が欲しければ、金銀財宝を。力が欲しければ、杖と力の種を。死者を蘇らせたければ生命の枝葉を。真実が知りたければ魔女がその瞳で暴いてやろう。さぁ、お前の願いごとはなんだ? 魔女のベルを手にしたら、何を願う?」


 と、いう物語だったらしい。

 ……あれ? でも。


「それ、魔法使いの物語じゃないか?」


 わたしが疑問に思ったように他の皆も思ったらしい。


「ね! あたしもそう思ったから聞いてみたの。そしたらね、魔法使いの話はちょっと世界観が違うんだって」

「世界観……」

「魔法使いの話は、雪景色らしいよ。煉瓦造りの館で、どこかに隠れてるっていう話で、それに願いを叶えるんじゃなくて、相手を導く物語なんだって」


 へー。と話を聞いていた全員が同じ言葉を口にした。


「……力が欲しければ杖を与えるって?」


 物語の中にあった内容を思い返して聞いてみたら、彼女は、頭を上下に何度も動かしていた。


「どうした?」

「魔女のスキルにあったんだよね。『魔女の杖』ってのが」


 それに真実が知りたければ、ていうのは、今わたしが持ってるスキル『魔女の瞳』のレベルが上がったらそういう事も出来るって事だろうか?

 もしかして、物語とか、情報を集めれば魔女のスキルもある程度は予測出来たのかなぁ……。

 ふと、そんな事を思ったりもしたけれど、今のスキルに不満もないので、本当に思うだけ、だった。


「とりあえず! 今日一日ここにいて、どれぐらい魔物をおびき寄せるか確認したら、明日は村の女衆全員呼ぼう!」


 わたしの言葉に、全員が「何故?」という顔をしていたのだけど。


「洗濯物が簡単に終わるよ!」

「なにそれ! 詳しく!!」


 わたしの言葉に強く反応したのはやっぱり、洗濯物の大変さを知っている近所の姉ちゃんだった。

 実演に、この場にいる男共の上着をひんむいて洗った所、わずか一分で洗濯が完了するファンタジーな洗濯機だった。




 翌日。

 魔女の家のレベル2は、夜になって分かったことだけど、魔物を引き寄せるどころか、魔物よけの結界が張られている事が判明し、村長に掛け合った結果、村の中に設置する事になった。

 本当は避難所として複数設置したかったのだけど、スキルで出来たこの建物がいつ消えるか、正確にいえば、避難所として使ったその時、スキルの効果が消えて、魔物の目の前で建物が消えないかどうかの保証が出来ない。

 なので、村長の立場としては、許可出来ない、となったのだ。

 ほんと、おっしゃる通り。

 将来的にはわたしは村にいないのだから、その危険性はとくに考えとかなきゃいけないのだろう。

 なので、わたしは、洗濯機いっぱいの魔女の家を一つだけ建てたのだけど。

 スキル効果が切れて建物消えてしまう。それを理解した上で、休憩所として使う分には問題無いだろう! と、村の女性陣が言い出しまして……。

 洗濯も便利だけど、井戸端会議の場所としても、それ以外にも色々便利だから。

 例えば、水。

 母さんみたいに、魔法で水を出せる人は良いけど、そうじゃない人は井戸で汲まなきゃいけない。

 例えば、火。

 電気コンロっぽいのにIH用じゃなくても普通に加熱してくれる魔法の調理器具のおかげで、ここで作って持って帰れば薪の節約が出来て良いっぽい。

 そして、調味料。

 お母様方は、未知なる味に臆するどころか、好奇心いっぱいだった。

 あれこれ味見して、すぐに料理に反映出来るのは流石だなって思った。

 もちろんカレーも。

 ……ただ、わたし、お菓子用のカレー味って苦手だったわ……。って事を、カレー風味の焼き野菜を食べた時に思い出した。


 そうなると、男衆も、欲しいと言い出しまして。


 気付けば、村に三カ所。畑の近くに二カ所を作る事に。

 それが終わったら、何故か狩人達の要請によって森に二カ所、設置した。

 魔力消費が大きいので、数日にわけて行ったし、全て終わった時には思わず「三日は休む!」と宣言しちゃったし、実際休んだけど、色々『経験を積んだ』という事になったのか、ある日、新しいスキルを選ぶように、とスキル一覧がまた現れたのだった。


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