第3話 魔女はやはり当たり職


 夕飯の時間になりました。


 今日からは職業というか貰ったスキルにあわせて動く事に。

 といっても、攻撃魔法を持っている子達は、逆に野営地にて、待機だったりする。

 慣れない攻撃魔法を練習も成しに実践なんて、かえって危ないから。

 というわけでなく……。

 うん。そういうわけじゃなく、知らなかったけど、最初の頃の魔法って、本当に弱かった。


 バスガイドをしてくれたおっちゃんが、「火魔術なんて種火くらいにしかならないぞ! 野営地で大人しく着火剤代わりに頑張れ!」って、バンバンと肩を叩きながら言ってたんだけど……。

 まぁ、当然彼からすれば、不服だったようで。


「じゃあ、実際にやってみろ」


 と、ドヤ顔でおっちゃんが言ってさ。

 なんだったら、俺に向けて撃ってみな! なんて言われて。


「ケガしても知らないからな!」


 なんて、言葉と共に彼は火魔術を放った。


「いっけぇ!!」


 威勢の良いかけ声と共に、本当の本当に、マッチ棒くらいの火が、シュポッ。と出て、……消えた。

 はい、彼、ショックで地面に膝と肘をついて座り込みました。

 嘘だろぉと嘆く彼をおっちゃんは、着火剤! 頑張れ! 使えば使うほど威力はあがるぞ! と、揶揄ってるのか、励ましてるのか、よく分からない感じで声をかけながら、引きずって行った。

 たぶん、おっちゃんが言ってる事は本当なんだろう。

 そして、諦める人も多いんだと思う。うちの父さんのように。

 わたし、父さんが二つ目のスキル使ってるの見た事ないんだよね。

 畑を荒らす害獣に向けての『罠』をせっせと設置してるのは見た事あるんだけど……。

 きっとここで諦めるか、諦めないかで変わってくるんだろうね。

 兵士の人達もそれを知ってるから、ここで魔法を使わせようとしてるのだと思う。

 ……あとは、わたしの『魔女の瞳』の時のように、頑張って使いこなそうとした結果、何かしらの変化が起きて、その時の激痛でスキルを使うのが怖くなっちゃって使えなくなった、とか。

 わたしの場合はほんの少し意識を向けるだけで、ウィンドウが出ちゃったから怖じ気づく暇もなかったけど。


 ……魔女の瞳も、あの痛み分の変化は、あったかな……。

 例えば、食べられるかなっていう意識で見たら、【可食状態:普通】とか出たりする。

【やや悪い】だと、加熱すれば大丈夫とか、食べたらちょっとお腹を下し気味になるとか。

 少なくとも、ちょっと傷んだの食べたかなぁ? って感じる程度なんだと思う。気持ち悪いとか。

 少なくとも生で食べると腹壊すと言われていて、加熱調理が基本の野草がその表示だったから。

 で、【悪い】は間違い無くアウト。発熱とか激痛とかもしれないけど、今のところ、わたし達が普段毒キノコとして、絶対食べちゃ駄目! ってしてるキノコがその表示になってたので。

 毒の有無ではなく、指定された状況での良いか悪いかでしか表示されないから、想像でしかないんだけど……。たぶん、そんなに大きく間違ってないと思う。

 わたし達にとって食べられるかどうか判断出来ないのも他の村で育った人達では判断出来るのとかあったし。

 植生が違うから当然なんだけど、物によっては雑草だと思ってたのが食べられる野草だったりしたんだよね。

 それを知ったうちの村のメンバーは、何やってたんだよ! 今までの大人達! と憤ったのだけど。


「いやいや、嬢ちゃん達。嬢ちゃん達くらいだから。飯の量が足りないからって自分達で食料集めにいったの」


 という、兵士の言葉で今までの大人達は事前に準備した食料のみで頑張ってたことを知った。

 つまりわたし達はたまたま、そうなったわけで……。


「じゃあ、ミューの食い意地に感謝だね!」

「そうだな!」

「あぁ、交流も出来るし、食料も増えるし、今後は恒例にしたいって隊長も言ってたぞ!」


 ……とにかく! たまたまそうなったわけです!!

 わたしだけが理由じゃないもん!

 

「芋があるって知って掘ったのはみんな一緒じゃない!!」

「芋だけじゃなく川魚もだろ」


 なんて会話を繰り広げながら、わたし達は食料を探した。

 運が良いと果物とか、ウサギとかが取れたりするんだけど、そんな幸運そうそう無い。

 大体食べられる草が増えるばっかりなのだけど、スープに入れると美味しくなるからね、文句はあまりでない。

 肉が食べたいな。っていう我が儘はちょいちょい出るけどね。




 本日の夕食は、野草と芋の干し肉スープと黒パン2個。

 収穫がないと、芋と干し肉のスープと黒パン2個になる。

 あ、干し肉は人数で割ると小さな一欠片、とかだったりします。

 その一欠片も無い時もあるけど。

 正直言えばお腹いっぱいなるわけじゃない。でも今日はこれでいい。

 なぜなら。

 お菓子の家! じゃなかった魔女の家があるから!!

 ふふふ! わたしは勝った! 勝ったのですよ! 賭けに!

 魔女の家は、まさにお菓子の家を出す事だったのです!!

 甘味! 甘味ですよ!

 スイーツですよ! デザートですよ! ケーキですよ!!


「魔女の家」


 ぽつりと呟くとステータスウインドウみたいなのが出て、ずらりと魔女の家が並ぶ。

 ケーキがベースのやつとかクッキーがベースのやつとか。パンがベースのやつとか。

 色々な種類のお菓子を使って出来た家ほど、消費MPは激しいようで、お家の型に入れて焼いたケーキをチョコペンでデコったくらいのやつならそこまでMPを消費しない。

 ついでにいうと、自分がどの程度MPあるか分からないので、数を増やそうと思ったら消費MPが少ないのを選ぶしかないのだ。

 だって、一人だけで食べるのも悪いじゃない?

 そんなわけで、スポンジケーキというよりもホットケーキミックスを使ったんじゃないかって思われるタイプの立体ケーキで、デコレーションは最低限のチョコ一色。

 でも扉と窓と、屋根にラインを引けば、紛うことなくお菓子の家。

 あとはサイズ……。あ、これ、本当に人が入れるサイズも作れるんだ。

 消費MPごついけど。ついでに地面に設置するだろう部分が勿体ない。

 ちょっと小さいマフィンサイズで確定を押すと保存しますか? って出たので、保存。

 【1個数 出現】という文字があって、1個出して見る。

 ぽんっとわたしの手の平に、ステータス画面で作成したお菓子の家が出てきた。

 その瞬間、メッセージウインドが別で出てきた。


【職業レベルが上がりました】


 と。

 ずっと魔女の瞳を使ってたからか、それとも二つ目のスキルを使ったからか。

 魔女 レベル2 になったっぽい。

 でも、今はそんなのどうでもいい!

 だって、ずーっとこの五年間食べたかった甘味が目の前にあるのだから!!

 見た目はしっかり、お菓子の家。では早速。


「いただきます!」



「え? なにそれ」


 って隣から声が聞こえてきたけど、無視して一口囓る。

 ああ、なんだか懐かしい味がする。

 お店で買ったっていうよりも手作り感たっぷりって言う感じのお味。

 でも、問題無く美味しい!


「わたしのスキル。いくつ出せるか分からないから、場合によってはみんなと分けて食べる事になるかも」


 答えて、もう一口。周りの目が集まってくる。


「使ってない大きい皿とかないかな?」

「聞いてくるわ」


 慌てて彼女は走って行き、戻ってきた時には隊長さん連れだった。

 

「スキルで食べ物を出すって聞いたが?」

「はい。どれぐらい出せるか分からないので……。せめて二人で半分個くらいだといいなぁって思ってます」

「つまり、出し切ってみないと正確な数が分からないって、事か」


 そうなんですよぉ。と頷く。

 大きい皿はないから、普通の皿に乗せていけばいいとなった。

 もう一度洗う事になるけど、その分甘味がたべられるとなれば嬉しいだろうし。と勝手ながら考えて、差し出されたお皿にどんどんお菓子の家を出していく。


「面白いスキルだな。なんてスキルなんだ?」


 みんな興味津々でお皿の上に出てくるお菓子の家を見ている。

 女性陣も男性陣も平等に漂う甘い匂いに釘付けだ。。


「魔女の家です」


 隊長さんの質問に答えたら、さっきまでわいわいしていたのが一瞬にして静かになった。


「え? なに?」

「……お嬢ちゃん、いや、お嬢様は魔女様でしたか」

「え!? なんです突然気持ち悪い」

「魔女様に対して、当然の対応かと」

「魔女様と言っても、見習いですし」

「……見習いですし、ですか。ご存じないのですね。魔女の見習いの地位は、貴族の令嬢と同等です」

「え?」


 魔女の家を作るのをやめて隊長さんを見あげた。

 隊長さんは困った顔で。


「つまり、お嬢様の報告次第で、俺達はコレです」


 首を切る仕草をする隊長さん。


「え? 魔女の見習いはしょせん、見習い。という扱いなのでは?」


 うんうん。と、頷くのは、同村メンバーと、同等の村出身の人達。


「それはスキル選びによっぽど失敗したやつのことだよ!」


 わたしの言葉に隊長さんは呆れながら突っ込んだ。


「あ、失礼しました」

「いえ、出来れば普通にしゃべってください。今まで通り」


 わたしの言葉に隊長さんは頷いた。


「自覚がないのか……」


 隊長さんはそう呟いて、首筋をカリカリとかいて、周りを見渡した。


「お嬢ちゃん、見習いは所詮見習いって言ってたが、ここにいる全員見習い一日目だ。だからこそ、その見習いの質について考えて貰いたい」


 見習いの、質?


「鍛冶の見習いと黒魔術師の見習いがいたが、あいつらが出した火がどういうものだったか、見ただろ?」

「はい。小さい、ろうそくよりも小さい火でしたね」

「水魔術だって似た様なもんだ。風魔術なんて悲しいぞ? うちわで仰いだ方がもっと強い風を吹かせるからな」

「……なるほど」

「だから、貴族の皆様は、金を払ってでも、幼い頃に職業を身につけさせて訓練させるんだ」


 へぇそうなんだ。としたのはわたし以外の人達も同じだった。


「神殿で貰う職業を俺達は神職と呼んでいる」


 ……それ、初めて聞いた時も思ったけど、神主さんを思い起こすんだよなぁ……。


「その神職に実際つけるかどうかは、本人の頑張りにもよるし、親の援助も必要だったりする。俺の神職は魔術戦士だ。騎士にもなれる神職だが、見ての通り兵士だ。最近やっと攻撃魔法らしい魔法になってきたからこうやって隊長にまで選ばれた。この威力になるまで一年かかった」


 そう言って隊長さんは地面に向けて火を放った。

 卓球の玉くらいのサイズだ。


「敵をひるませる程度くらいだな」


 自嘲気味に隊長さんは言った。


「出せる数は増えたが、威力は相変わらずだ」


 でも、お嬢ちゃんは違うだろ? とわたしを見あげてきた。


「見習い一日目で、こんな事が出来るんだ。きっと数年たてば、それこそ、こんな一般兵が声をかけられないくらいの魔女様になってるさ」

「隊長さん」

「その時のために、俺達はたとえ見習いだろうと魔女様には懇切丁寧に対応するようにって言われているわけです。魔女様」

「……分かりました」


 きっとこれ以上はわたしの我が儘になるのだろう。

 頷いて返すと隊長さんは、すまんな。って小さく謝ってくれた。

 

 そして、魔女の家は人数分だしても問題無かった。

 みんなで美味しいと言いながら食べた。


 翌日。街に戻った。


 え? 何言ってるの? って感じなんだけど、魔女の見習いを連れているのなら、この内容では駄目らしい。

 準備するまで数日かかるという事になり、わたし達はなんと、街のお偉いさんのお屋敷に泊まる事になった。

 もちろん全員。わたしの村も、他の村の人達も。

 あとで知ったけど、今までのわたしの行動で、そう判断したらしい。

 わたしが選民思想的な行動を取ってたら、わたし一人特別扱いで、他の人は今までと同じかちょっと良いくらいらしい。

 わざわざ自分からヘイトを集めたくないよ! って話を聞いた時には思ったのだけれども、この時はそんな事、知らないので、みんなと普通に大盛り上がりしていた。

 だって、諦めていた観光が出来る時間が出来たのだから。


 あの日のようななんちゃって観光ではなく、市場やお店やら、施設やら、あちこちに連れて行ってもらった。

 その上、お土産も、あちら持ちで購入すると言ってくれた。

 好待遇過ぎてちょっと怖い。ので、お菓子の家を大量に出して、屋敷の人達と食べてください! と押しつけたりもした。

 屋敷の家主さん家族にはちょっと豪華なお菓子の家を出した。

 クリスマスとかでケーキ屋さんが出すような感じのを。

 そしたら、それを一緒に食べましょう。という話になり、偉い人とお茶会をする事に。

 

「え? 弟子入り?」

「ええ。魔女の見習いは、一人前になるために、先輩魔女様に弟子入りをするのが習わしのようです」


 お茶会のマナーってどんな感じですかね。これで合ってます? って話をしてたら、何故かわたしの弟子入りの話になっていった。


「夫がすでに領主様に報告を出しましたが、返事がくるのには時間がかかるのです」


 ここから領主に話が行き、領主に魔女の知り合いがいるのなら、その人に。居なければさらに上に話がいくそうだ。

 上って王様? って思って、思わず口にしてた。

 それもありえるけど、まずは、伯爵とか侯爵とかそういう上っぽい。

 で、その先輩魔女が弟子を取るというのなら、その知らせを持ってまたわたしを迎えにくるそうだ。

 ……ん、その人が取らないってなると、さらに別の魔女に話がいくわけ?

 会った事も無い人相手にたらい回しされる自分を思い浮かべてちょっと嫌な気分になった。


「弟子入りは決まってるのですか?」

「ええ、そう聞いています。……実はこの街で魔女の見習い様が出たのは初めてで、わたくし達もあまり詳しくはないのです」

「魔女ってそんなに少ないのですか?」

「いえ、王都であれば何名かいらっしゃるそうですよ。魔女様が滞在する場所であれば、低い確率ですが、神職に魔女が出るそうです」


 へー、そういうものなんだ。


 そんな感じで情報収集をしながら、その屋敷には四日ほど滞在した。

 その後は準備が出来たから、と帰路につくことになったのだけど、それからの旅は快適の一言でしたね。

 ご飯も貴族ご令嬢基準なので、美味しいしボリューム有るし、お肉も有るし。

 護衛も増えて、わたし達が薪拾いとか水くみとかする必要も無くなった。

 期間はのびちゃったけど、みんな「良い旅だった! ありがとう!」って、わたしにお礼を言って別れるくらいには、良い旅でした。


 

 そしてわたしは家に帰ったら家族に説明しなくてはならない。

 魔女見習いになった事。もしかしたら魔女の弟子になることでこの村から出るかもしれない事。

 成人したら旅に出てみたいというのは確かにあったけど、強制的にそうなる可能性は考えてなかった。

 父さんも母さんも驚いていたけど、反対する事はなかった。

 ……たぶん、反対出来る状況じゃ無いって思ったんだと思う。

 だって、魔女の身分は貴族並みですから。


「行ったっきりで帰ってこないと言う事はないのよね?」


 不安そうに母さんが、そう聞いてくる。


「たぶん、それはないよ。二、三年は帰ってこられない、とかはあるかもしれないけど」

「まぁ、考えようによっては、村の連中と一緒に旅出つより、護衛付きで出る分安心とも言えるな」

「そうだね」


 兄ちゃんの言葉にわたしも頷く。

 母さんも、父さんも、少しだけ表情が安心したように柔らかくなった。


 そんなわけでどれくらい家族水入らずの時間が残されているかわたしには分からないけど、出来る事はしようと考えた。


 まずその一。お腹いっぱいご飯を食べよう。


「村長たのもー!!」


 扉を勢いよく開けながら大声を張り上げる。


「なんじゃ!? なんじゃ!?」


 中から村長が慌てて出てきた。


「なんじゃミューじゃないか。驚かすんじゃない。心臓とまるかと思うただろ!」

「村長、面倒だなぁって思ったら耳が遠いフリするじゃん!」

「それで用は何じゃ?」


 白をきったよこの村長。いいけど。


「村から出るまで村人餌付けしてもいい?」

「……お前さん、会話をするという能力は街に置いてきたのか?」


 村長は呆れた目でわたしを見ながら、そんな事を口にした。



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