第2話 封印されし我が瞳が疼くっっ! みたいな


 もっときちんと将来のこと考えようぜ!


 なんてセリフがどこからともなく聞こえてきそうなのは、やはり安易に一つ目のスキルを選んだ事で、「やっぱり、やっちゃったんじゃない?」って思う意識があるからかだろうか……。

 ……いや、でもこの甘味の誘惑を打ち破るのは無理。

 今はまだ甘味だといいな! だけど。

 でもでも、もしかしたら、って思うと、この一縷の可能性にかけてみたくなるじゃないですか!

 もしかしたら転生する前のわたしだったら、『甘くないお菓子があるじゃん。そっちなら作れるでしょ!?』って思うかもしれない! そして塩気のお菓子の代表格、ポテトチップスはわたしでも作り方が分かる。

 確かにジャガイモっぽい芋はある。むしろまんまジャガイモと呼ばれている。

 ポテトチップスには甘みがないものが良いと前世、テレビか何かで見た気がする。それもばっちり当てはまる芋であります。

 でも、植物油がわりと高級品なので作れません!

 一応わたしも、今の生活で出来る事は頑張ったんだよ。頑張ったんだけど、手の届かない所にあるんだよ。甘味様も塩気お菓子様も……。

 

 前世を思い出してからのこの五年間に及ぶ、あれやこれやの生活改善運動を思い出してちょっと遠い目になってしまった。

 ……記憶を思い出す前の生活よりは、記憶を思い出した後の生活の方がちょっとはマシになっていると考えよう。

 じゃないと変なところで心が折れそう……。

 

 さて、気持ちを切り替えるのは大事ってことで、次に行こう!

 戦う系のスキルがないと外に出るのは難しそうだしって、ことで、こうなるともう魔女の瞳が魔眼系である事を願うしかない!

 攻撃手段という意味では魔女の杖ももしかしたらっていう可能性はあるんだけどね。

 魔女の使い魔はどちらかというと情報収集系って感じだろうし……。

 ……興味はあるけど、現状、使い魔を養うだけの金銭的な余裕がない……。

 使い魔がネコならネズミ取りとかそういう役目をお願い出来るけど、そのネズミが魔女の使い魔の可能性もあるんだよねぇ……。

 そんなわけで、「魔女の瞳」を選んでみることにしました。

 「魔女の杖」が、戦うスキルだった場合の最悪のパターンは「魔女の杖」という武器を使えるスキルとかで、その杖自体がない無意味だったりする事である。

 魔女の瞳は少なくともわたし自身の目を使うと思うから、こちらの方が失敗は少なそう。

 けして、「うぅ、封印されし右目が疼く……」とかがしたいわけじゃないよ!

 ……一瞬、普通に攻撃魔法系を選べばいいのでは? と思ったりもしたけど、固有スキルの方が強力な物、多いと思うんだよね。

 そんなわけで二つ目も選んだ。


【 ・魔女の家        】

【 ・魔女の瞳        】

【 この二つで本当に良い?  】


 という文字がスキルボードに浮かんでいる。おや、再度選び直す事が出来るとは親切設計。と思いながらも確定する。

 その瞬間、ぶわぁっと下から風で煽られているような、水があふれ出て足元からどんどん水位が上がってくるような、なんとも言えない感覚がした。

 この感覚は間違いなく、新しい『力』だ。

 ジョブを授かるというのはこういう事なんだ。と高揚してくる。

 力の奔流というかなんというか、それが終わると、少し離れて控えていた神官が声をかけてきた。


「無事に職業とスキルを選び終わりましたか?」

「はい」

「では、こちらへ」


 そう言って別の列へと並ばされた。

 ここで、鑑定して貰えるらしい。

 今回は無料。次回からは有料だって。


「では次の方」


 おっと、わたしの番だ。

 

「この板を握って、『発現せよ』と口にしてください」

「発現せよ」


 金属っぽい板を握り、言われたとおりにすると板が光った。


「貴方の名前、職業、選んだスキルが書かれていますか?」


 言われたので確認する。

 ぱっと見たところ、間違いなくそれは書いてある。


「はい」

「では、これにて本日の神事は全て終了しました。お疲れ様でした」


 ……そうだった。これって神事だったんだ。

 言われて思い出した。やる前までは儀式って事で緊張してたんだけど、始まったら、なんか儀式というよりも事務的な手続きをしている感覚になってた。


「ありがとうございました」


 色々と思うことはあるけど、お礼を述べて、席から離れ、集合場所へと向かう。

 スキルチェックはあとでゆっくり見ればいい。

 早く終われば観光も出来るかも知れないぞ。と、言われているのだ。ここでのんびりするわけにはいかない。

 駆け足で集合場所へと戻る。他のみんなも集まっている。足りないのは……あと、三人か四人くらいだろう。


「どこに連れてってくれるのかな?」

「わたし洋服がみたいわ。通りで見たみんな、素敵な服を着てたもの」


 隣のグループがきゃっきゃと話している。わたしも村の人達が集まっている場所を見つけてそちらへと合流した。

 こちらの話題ももちろん、観光についてだ。

 どんなところにいけるのか。お土産はどうするのか。食べる物は。

 そんな話をしているうちに残りの人達も来たのだろう。


「揃ったな。移動するぞ」


 引率でもある護衛の言葉に従い、ぞろぞろと歩き出す。

 わたし達は言われるまま建物から出て、馬車に乗る。

 馬車はゆっくりと走り出し、しばらくして護衛の中でも一番気さくなおじさんが声を張り上げるように馬車にいるわたし達に話しかけてくる。

 

「お前達が神職を貰った神殿は、このあたりでは一番でかい神殿だ。ここで治せない呪いやケガなどは、王都とかにいかなきゃならんだろう」


 そんな言葉にわたし達は慌てて、離れていく建物を仰ぎ見る。

 

「次に、赤い屋根のデカイ建物があるだろ?」

「え!? どれ!? どれよ!?」


 ガイドがわりのおじさん兵士の言葉にみんな赤い屋根を探す。

 馬上のおっちゃんが指差す方向にみんなが移動しかけたため、馭者から片方に寄るな! と怒声が響いた。

 仕方なく、ちょっと見たら交代。みたいな感じで見ていく。

 それにしても、移動しながらこういう説明を聞いているとホント、兵士のおっちゃんがバスガイドさんにしかみえない。


「あれは商人ギルドだ。この街の商人もお世話になるが旅商人もお世話になる」


 隣の通りには薬剤師ギルドとかもあるらしい。


「ちなみにお前達が朝入って来た門の近くでは狩人ギルドとかもあったんだぞ」

「狩人ギルド!」


 少し興奮して聞き返すのは男性が多いだろうか。やはり一定数はいわゆる冒険者に憧れがあるらしい。

 有る意味手っ取り早く有名になろうと思ったら、なれるからだろうか。

 実力があれば、っていうのはどの職業でも同じだろうけど、その道筋が一番分かりやすいからなのかもしれない。


 おじさんの説明を聞いていると、ふっと空が陰った。

 いや、何かの建物の影に入ったようだ。

 レンガの壁が見える。

 兵士達が立って、あ、目があった。ら、手を振ってくれた。わたしも振りかえそう。


「ここ、なんだろうね」

「ね、なんだろうね」


 一つ目の観光地についたのかな。と期待していると、また太陽の光がわたし達の頭上に現れ、そうして、しばらくして、門が閉じていくのが見えた。


「で、今お前達が通ってきたのが、我々兵士や騎士などが使う、西門だ」


 おじさんの言葉に、みんな「へー」と相づちを打った。

 おじさんの言葉の真意が理解出来なかったから。

 理解出来たのは、見える景色が街ではなく、外の風景になっていることに気付いてから。


「えー!?」


 あちらこちらから声が上がる。観光は!? とか。酷い騙した! とか。

 隣の馬車からも聞こえてくる。当然だろう。


「騙してないさ、観光はきちんとしただろ? これに懲りたら、きちんと都会は怖い所だって覚えておけ。うまい話には裏がある。甘い話にも裏がある。都会で悪い事してるやつらにとっちゃ、成人したての坊ちゃんや嬢ちゃんなんか、赤子と同じだぞ」


 ぐぅの音も出ない。

 どのみち観光なんて出来るはず無いって村では言われてた。だから、おっちゃんが通りがけとはいえ、あれこれ教えてくれたのはかなりの親切とも言える。

 みんな、とは言わないが、多くの人はそれが分かって居るのだろう。

 わたしも含め、仕方がないと諦めて、改めて座り直す。


「今年は行儀の良い奴らばかりだな」


 おっちゃんはそう言って笑った。

 もしかしたら、つっかかる人もいるのかもしれない。

 でもたぶん、そうなったらそうなったで、その人が後々周りに、つるし上げくらうんじゃない?

 だって、お世話になってるのはこっちなんだし。


「神殿で神職を貰ったばっかりのお前達は、今、万能感で満ちあふれているだろうが、それは間違いだからな」


 おっちゃんがそんな事を語り出す。

 なるほど、やらかした人はその万能感に酔ったわけですね。なんておっちゃんの語りを聞いていたのだけれど。

 おっちゃんの語りで思い出したのか、馬車に乗っていた数人が神殿で貰ったカードを取り出した。

 ああ、そういえば、観光するために、チェックする時間も勿体ないって後回しにしたのだけど、どうやら同類さんが多かったらしい。

 わたしも改めて貰った板、ステータスプレートと勝手ながら呼ぼう。長くなったけど、板だけだとなんか悲しいし。

 それをチェックする。

 ゲームの様にHP・MPとかそういう表記はない。

 力とか早さとかもなくあるのは名前と職業と貰ったスキルだけだ。


 名前 ミュー

 職業 魔女

 能力 魔女の家

    魔女の瞳


 なんかどこか押したら詳細が見られるとかないかな?


 ガタガタガタゴトゴト

 揺れる馬車の中、小さい文字を真剣にわたし達は見つめていた。


「……気持ち悪い……」

 

 と、誰かが言い出した頃には、もれなく全員が、酔っていた。

 この馬車だけでなく、他の馬車も。

 ほぼ全員がそうなったっぽくって、早めの休憩が取られた。


 外の風が気持ちいい。揺れない地面って最高。


「地面が尊い……」

「ミュー……げんきだね……」

「気持ち悪いからこその感想だよ……」


 お互いしゃべるのもキツイのに、何故、そんなやりとりをしているのか。

 仕方ないじゃん、つい、でちゃったんだもん。

 会話があったのは最初だけで、後は静かに、気持ち悪さが落ち着くのを待つ。

 ちょっとは良くなったかな。って右手を見ながら思った時。ポンッとわたしの目の前に小さなメッセージが出た。


【悪い】


「…………」


 他の子達も見てみる。

 馬車に酔ったという子達は皆「悪い」が出て、馬に乗っていた、もしくは馬車に慣れている兵士達は皆「良い」だった。

 今までわたしにこんな表示が見えた事は無い。つまり、これは。魔女の瞳の効果だろう。

 周りにあるものを見てみる。石や植物、土など、何かしらの基準で良い悪いが出てくる。

 ……良いと悪いでしかでないの? 普通の状態はないのか? せめて三段階にしようよ。出来れば五段階! というか、何が良いか悪いか分からなきゃ意味が無くない!?

 内なのか外なのかでも、良いと悪いじゃ全然意味違うし!

 外見に「悪い」だったら、自分自身の目でも頭くるけどね!

 わたしはブスか!? と。

 前世はともかく、今世はそれなりにかわいいと思うゾ!

 ほら! 何が『悪い』のかはっきりしてみなよ!

 と、気持ち悪いところに、色々考えてたら、なんか自分自身でムカつくことを考え始めちゃって……。

 だから、かな?

 突如、目に激しい痛みが走った。


「っ!! ぁぁぁぁぁっっっっ!」


 引き延ばし、焼き付ける。叩きつけられたようで押し込められたようで。

 わけの分からない痛み。声が出たのは一時で、後は痛みに引っ張られるように、歯を噛みしめる。舌を噛まなかったのは、ただの幸運だとあとで思った。

 痛みが落ち着いてから涙がぼろぼろと出てくるから不思議だ。


「お、おい、大丈夫か?」

「ミューちゃん大丈夫?」

「あの、治癒魔術使ってみますか?」


 気付けば周りに人が集まっててびっくりした。


「あ、はい。もう大丈夫です」


 わたしの言葉に、みんなの傍にあのメッセージが出た。

『心理状況:少し悪い』と。

 これは……。


「あの本当に大丈夫です。貰ったスキルにびっくりして、焦っちゃったみたいなものなので」


 そういうと、先程のメッセージに変化が現れる。

 同村の人達は先程と同じ。兵士の人達は『心理状況:普通』になり、他の村の人達は、余計不安になったのか『心理状況:悪い』という人も居た。でもこの人の不安はたぶん、わたしじゃなく、自分のスキルになのだと思う。

 悪いになったにもかかわらず、わたしでなく、ステータスプレートを見始めたから。

 詳細がない分、選んだスキルで同じようになるかもしれない、と不安になったのだと思う。特に目に関係あるスキルを選んだ人は。

 たぶん魔女の瞳以外にも目に関係するスキルとあると思うし。

 視線をあちらこちらに動かす。

 『良い・悪い』の理由が先程よりもよく分かる。


 つまり。

『魔女の瞳』は魔眼とかではなく、鑑定系だという事だ。


 うーん……。

 マジに、我が封じられし、右目が……なんて事をするつもりはなかったけど……。自衛の手段はなくなったな。

 村に帰ったら、真面目に弓とか短剣とかの練習しよう。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る