高校生の憂鬱

@agiri

第1話

2つ上の兄には少しばかり障害があるみたいだ。

詳細を聞いたのは確か小学5年生か6年生の時だった。何年も前の話だから、病名も詳しい症状も覚えていない。

覚えているのは「少し幼稚な思考だったりするの。マイナス3歳ぐらいの年齢だと思ってたらいいかな。だからちょっと気になる所もあるかもしれないけれど、我慢してね」と、妹を置いて珍しく2人きりで外食に連れていかれた時に言われたことだ。

簡略化された言葉だったから良く記憶に残っている。

家で共に過ごす、今年専門学校の1年生となった兄は異様とも思えない。欠点は見えるが、それは障害あってもなくても変わらないようなものばかりだ。

特別気になる所と言えば、「周りと同じ」を好まないことぐらいだろうか。

友達を見てネックレスを買ったり、ネット通販で買えば良い手持ち扇風機をわざわざ勧められたブランド店に買いに行った私を見て、「イキってる」だの「くだらない」だの声をかけくる。他にも私なりに編み出す考えを「高二病」と揶揄したり、友達と夜遅くまで遊ぶ姿をまるでガキだなとでも言わんばかりの顔で見てきたり。

その度に私は苛立ってしまうが、私も私で兄を見下してる。

イキってるだなんて大きなブーメラン、ツイッターに籠ったりよく分からないアニメのオタクをしたりしてる兄は、私からすれば所詮はただの他人と違う俺はかっこいいである。

私も数年前までは掲示板で口論してたり、陽キャを群れてるだの痛いだの見下してた側の人間だ。反対側に来てみれば、そういう人間がこちらとして以下に見苦しいかは言うまでもない。ただ、本人たちが楽しければそれでいいというのも、言うまでもない事なのだが。

話がズレたが、要は私は兄が嫌いである。

少なくともクラスにいたら友人たちと馬鹿にしてるだろう。

だが、如何せん兄は難ありの存在である。

私の情が湧く内は、簡単に他人に話して馬鹿にしたりはしない。そんな程度の低いことはしたくないし、後で最低な人間だと後悔したくもない。

ただ、私は押さえ込んでいるだけで思っていない訳では無い。

馬鹿にして来ようものなら、「黙れこっちがキラキラしてるからっての嫉妬見苦しいんだよ」なんて言いたいし、その後が面倒であれどカンカンに怒らせて殴り合いにしたい。そうなれば、私も気兼ねなく友人に兄の悪口を言えるだろう。いや、言いたいものだ。

しかし、こんな想像を、そもそもこんな話を頭で繰り広げる私も同類としか言いようが無いものだ。


私目線から勝手に見てしまえば、兄の障害はただの億劫な免罪符だ。

それがあるからこそ兄は守られる。

残酷な話、本人が守られるべき存在でなくても。

度合いが違う兄と他の苦しんでいる障害者を同格に見るのは違和感であるが、1つの障害者という括りでみよう。

彼らはそれでも守られる。

苦しみを産まれ持った、それが生まれてしまった者への当然な特権だ。

当然であるのは、それが正しい事だからだ。

ただ、私は国や世界の障害者を取り巻く「正しい」対応に疑問を感じる。

免罪符という言葉を使ったが、私には障害者本人ではなく、国や世界が障害者が持ちうる免罪符という名の特権を行使して、正しさだけを溢れさせようとしているように見える。LGBTQの話も同じようなものだ。

「私」はまだ高校生だが。

そんな私ですら、綺麗な正しさだけでこの世が成り立たない事を知っている。

私が死ぬまでに、国が、世界が、それを理解した上での社会を成り立たせることは出来るのだろうか?

とても憂鬱な気分だ。




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