第5話 天使の微笑み

「ナオさん、そんな所で寝ないで、ベッドで休んで」


 前日からの体勢のまま、ルナが横たわるベッドの床に座り込んでいた。

 ゆっくりと落とされる点滴も終わっていた。その手の指先をナオの手が包み込んでいる。


「ママ」


 大きな目がナオを見詰めている。


「おお、ルナおっきしたか」

「うん、ママ、なくの」


 ナオの頬の涙をルナの小さな指先が拭った。

 ナオはハッとして顔を上げた。


「えっ、ルナちゃん、おっきした。よかったあ、よかったあ」


 ルナの躰を抱きしめ、再び大粒の涙がナオの頬を伝った。

 ルナはナオの頭を撫でた。


「ママ、いいこ、いいこ」

「うれしくて泣いてるねん」

「パパ、ママいいこ、いいこ」

「ああ、ナオさんはいいこ、いいこだ」


 ルナの隣で寝ていた一平はベッドから下りて、ナオを抱きしめた。


「ママー、まんま、まんま、おなかちゅいた」

「ルナちゃんの好きなパンナコッタあるから食べようね」

「うん、おにちゃ、あーんして、ポト。キャー」


 ルナは誰の真似をしているのか、両手で口を押さえ笑った。

 あー、もしも神様がいるのなら、この天使のようなルナを返してくださって、ほんまにおおきに。

 ナオは心の内で十字をきっていた。


「お水もたくさん飲もうね」

「うん、ママ、おちっこ」




「ルナちゃんをクローゼットに閉じ込めたの誰?」

「ソラくんが……」

「リョウくん、どうして止めなかったの?」

「あのね、リョウ兄ちゃん、ダメって言った。ソラくんがいいから、いいから、気にすんなって」

「イッくんもどうして止めなかったの?」

「……」

「そんなに流されてどうすんの。ソラ君が言うことが正しいの?」


「だいたい、レイの部屋に勝手に入らないでって言ってあるよね。クローゼットの中に入れておいた、ルナちゃんのお誕生日プレゼントのお洋服の箱は破られてたし」

「ルナは洋服たくさん持っているから」

「だから桃香ちゃんにあげたの? だったら、今度のリョウくんのプレゼントのスニーカーもなしね」

「ええー」

「だって、たくさん持ってるじゃん。それにルナちゃん、かくれんぼしてたって、お兄ちゃんたちを庇って」


 レイはルナがいじらしくて胸が張り裂けそうで、あとは言葉にならなかった。


 






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