第2話 おててつなぐ


 レイが男性の腕に手をかけたときだった。


「ルナ、おてて」

「えっ、ルナちゃんが繋ぐの?」


 レイが手を掛けていた男性の左手をルナが握った。


「大丈夫かな。ルナちゃん、お兄さんお目々が見えないのよ」

「大丈夫です。ルナちゃん連れて行ってくれるかな」

「うん」


 ルナは空いている方の手をレイと繋いだ。


「あっ」


 レイは指先に急に重みを感じ、躰が傾いた。


「ルナちゃん、危ない。ブランコはだめ」

「ハハハッ、ブランコしたいのか。今は危ないからね」

「うん」

「ルナちゃんは良い子だね」

「ルナ、いいこ? ヘヘヘッ」


「あっ、前から自転車が来てます」


 レイは足を止め、自転車の行き過ぎるのを待った。


「立ち止まらなくても向こうがよけてくれますね」

「自転車も転ぶのいやでしょうし」

「そうですね」


 二人が笑うと、ルナも笑った。





「ナオさん、ただいま」

「おかえりなさい、レイちゃん」

「ただいママ-」

「おかえり、ルナちゃん」


 ルナはナオのエプロンに顔を突っ込んで行った。


「歯医者の定期検診連れて行ってくれて、ありがとう」

「レイのついでだから」


「あら、お客様?」

「哲兄ちゃんの所に、駅で会ったから、お連れしたの」

「ルナちゃんに連れて来てもらったんです」

「ご迷惑かけへんかったですか?」

「いいえ、ルナちゃん良い子ですねえ」

「エヘッ、ルナいいこ」


ルナは自分の頭を撫でた。


「上へはエレベーターで行きましょう」

「ルナも、ルナも」

「ルナちゃん、お仕事の邪魔したらあかんよ」


 以前住んでいた哲之介のために、1階の駐車場から屋上までエレベーターがリビングの端に設えてある。

 レイは3階のボタンを押した。



「哲兄ちゃん、お客様をお連れしたよ」


 哲平はメンバーと打ち合わせをしているところで、資料から顔を上げた。


「あっ、そういうことでしたら、こちらから伺いましたのに。申し訳ないことです」

「いや、いつもはヘルパーさんが付き添ってくれるのですが」


 レイは音響機器で埋め尽くされた室内で、唯一寛げるダイニングテーブルの椅子を勧めた。


「おにちゃ、ここ、ここ」

 

 ルナは椅子をペン、ペンと叩いた。


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