第15話

 そのひは庭でイールとロレーヌは遊ぶことになった。イールは嬉しそうに駆け回り、ロレーヌに飛びついてくる。

ロレーヌはそんな嬉しそうな、イールの頭をなでる。


そうしていると、シャパードがやってきた。シャパードの背後には二人の見知らぬ騎士がいた。


「ロレーヌ様、俺はクレオ殿下の側仕えになりました。今日の午後にはここを出て王宮に行くことになりそうです」


「今日の午後から?随分早いのね。寂しくなるわね」

ロレーヌのドレスを握って、きょとんとこちらを見ているイールの頭をなでながら、言うことにする。

「イールちゃん、シャパードさん、今日の午後から、ここを出て、少し離れた場所に行くんですって。寂しくなるわね」

すると、イールが大きな声で泣き出した。

イールも、シャパードがいないと、寂しいのだ。


「・・・・私も、シャパードがいないと、とても寂しいわ」


物悲し気に微笑むロレーヌ。


「ロレーヌ様」


「そうだわ!クレオ殿下に頼んでみます。シャパードがここから離れないように」


「それは」


「クレオ殿下、私の言うこと聞いてくださるって、言ってくださってたから、大丈夫よ。シャパードがいなくては、イールも寂しがると思うし、私も寂しいわ」


シャパードはロレーヌへ向かって足を進める。シャパードの背中に、騎士二人から剣を向けられる。


「それだけはおやめください」

シャパードの手が、そっとロレーヌの腕に触れられる。


「どうして?私・・・・シャパードともっと一緒にいたいわ」


「きっとまたどこかであいましょう。ロレーヌ様」

そういうと、シャパードが行ってしまう。


騎士二人の軽蔑する眼差しが、ロレーヌを見る。


ロレーヌはやはりさみしくて、イールを慰めながら、今度クレオ殿下にシャパードが残ることを頼んでみようと考える。

けれどもクレオ殿下の元へ戻るのならば、シャパードの出世になる。ならばロレーヌは我慢しようと思った。

寂しいが、ロレーヌにはイールがいるのだから・・。


こうしてロレーヌの前から、シャパードはいなくなってしまった。それと同時に、侍女のシャーロットもいなくなってしまった。


それからロレーヌの待遇は悪化した。

ロレーヌの食事が非常に少なくなり、ロレーヌが部屋を出ようとすると、騎士たちにあまり部屋を出ないように言われ、外出は禁止である。


最近あまりロレーヌは外には出られないが、イールがいるので昔と比べれば幸せだ。


ロレーヌはにこにこ笑顔で窓の外を見て、「イールちゃん、鳥よ。可愛いわね」と言って指さしている。

イールはいつも部屋の中に閉じ込められているものだから、半べそで癇癪を起しそうになっている。

そんなイールを抱きしめ、ロレーヌはなだめる。


最近やってきた部屋の前で見張っている、白髪に少しの黒髪が混じった銀髪騎士の若い男性に、「庭に行きます」と言って、ロレーヌはドアに手をかけたのだが、ロレーヌは腕を掴まれて、「部屋にお戻りください」と言われてしまった。


「ロエーに触るな!」と言って、イールはそんな騎士の男を、足で蹴飛ばした。

イールはまだ舌っ足らずで、ロレーヌのことを、ロエーと呼ぶ。


騎士の男は、反射的にイールのことをつき飛ばす。


「イールちゃん」

慌てて倒れたイールの方へロレーヌは向かおうとするが、銀髪騎士の男に腕を掴まれてしまった。


「勝手に動かないでください」


つかまれた腕が痛いので、ロレーヌは微笑んで頷く。

銀髪の騎士は手を放してくれる。


「奥様、そいつ愛人の隠し子なんだろう?」もう一人のブラウンの色の髪をしている騎士の男が、イールの方を指さす。

「奥様って、色んな男と寝てるんだろう?殿下に相手されないもんだからさ」

にやにやブラウンの髪の騎士は下卑た笑みを浮かべて、ロレーヌの両頬を手でつかんだ。


ロレーヌは困り顔で微笑んだ。ブラウンの男が舌を出して、ロレーヌの唇をなぞってくる。

ロレーヌは嫌だなぁと思いながらも、困り顔でにこにこ笑っている。


「おいやめろ」

銀髪男が止めてくれる。

ブラウン髪の男はせせら笑いながら、ロレーヌを放した。


「淫婦が」

銀髪の騎士の男が、ロレーヌのことを嫌悪のまなざしを向けてくる。ロレーヌはにこにこ微笑んで、べそかいているイールの元へと向かう。


「イールちゃん」

にこにこロレーヌは屈んで、イールのふくふくほっぺをつついた。

イールがロレーヌに抱き着いてくる。


「絵本でも読みましょうか」


外に出られるように、クレオ殿下に頼んでみようと思う。騎士の二人の態度を見ると、大変嫌われている。その騎士二人を派遣してきたクレオ殿下だから、ロレーヌは殿下にも嫌われているかもしれないが。


しかしこのままの環境では、子供にもよくない。イールを両親の元へ、戻してあげたい。ロレーヌは、手紙を書くことにする。


また一人になるなとロレーヌは寂しく思う。


この時ロレーヌは世間の噂では、毒婦やら男好きやら、いつも笑って男を誘ってるやら、ひどい噂が立っていた。

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