第11話

クレオの様子がなんだか少し前と違うようで、ロレーヌは首を傾げた。


クレオ殿下、男と会うなといっていたが、以前は好きにしろって言っていたような気がする。不思議だなと、ロレーヌは思う。


それからクレオからロレーヌのもとに、五人もの侍女が派遣されてきた。


その中でもナラという侍女は、いつしかロレーヌのそばを離れなくなった。クレオ殿下に言われて見張っているのかな?と、ロレーヌはにこにこ思っている。


甥っ子のイールは、一か月までという約束で、ロレーヌのもとで預かることになった。子供をもてると思ってなかったロレーヌは、イールのことをとてもかわいがった。


イールは最初こそおとなしくて泣いていたが、少しずつ元気になり、今日も屋敷を走り回るようになった。

今日も部屋を走り回っているイールに、ロレーヌはにこにこ笑う。

「あら、まぁ、イールちゃん、走ったらだめよ。シャパードお願い」

シャパードに頼むと、すぐに「部屋で走り回ってはいけません」と、イールを抱え上げて連れてきてくれる。


イールはシャパードから飛び降りて、ロレーヌに抱き着いてくる。

そんなイールの頭を、よしよしとロレーヌはなでる。


「シャパー、嫌い」


イールは、シャパードのことを、シャパーと呼ぶ。


イールはなかなかロレーヌの言うことを聞いてくれないので、シャパードがイールのことを叱る係になっている。

ロレーヌは申し訳ないなと、シャパードの方を見る。


シャパードは微笑んで、ロレーヌの側にやってきて、隣に座った。頑丈な筋肉質な体躯のシャパードの腕が、ロレーヌにあたる。

 もし子供を持てて、旦那様がいる普通の家庭というものがあったのならば、こんな感じなのかなと、ロレーヌはぼんやり夢を見る。

シャパードはごつい体をしているのに、何故だかシャパードは包容感がある。シャパードにに少しだけ父性というものを感じていた。

父性とはこういうもののような気がする。

まぁ、シャパードにキスされたりして、父性とも違うと思うが。


思えばロレーヌは家族の愛というものをまったく知らない。

家族というものはどういうものなのだろう?

他の貴族の家の子は、親と笑い合っていたのを見たことがある。

ロレーヌの父親は、何か用事があるときしかロレーヌの所に来ないし、ロレーヌが失敗したら怒鳴るか殴るかの記憶しかない。

母親は妹のカリアの所にしか行かないし、ロレーヌは一人でいつもぼんやり庭散策していたような気がする。


「ねぇ、シャパードの家族って、どんな感じなの?」


「俺の家族ですか?」


「ええ」


にこにこロレーヌは微笑んでいる。


「俺の父は平民の樵でした。父は事故で亡くなり、母親は昔からいなかったので、孤児院にいくことになりました。孤児院で過ごしたのち、そこで男爵家の家の養子になり、俺は騎士を目指すことにしました」


「あらそうなの?そういえば、シャーロットは?あなたの従妹なのよね?」


「シャーロットは男爵家の娘です。俺の母親はシャーロットの家の男爵家の人間で、平民だった俺の父親と駆け落ちしたのです。俺は子供ができない別の男爵家の養子になりました」


「す、すごい、波乱万丈なのねぇ。それでクレオ殿下の騎士になったの?」


「ええ」


「私の側付きになってしまってごめんなさいね。出世できてたのに」


「いえ、ロレーヌ様の騎士になれて、本当に良かったです」


「な、なんかごめんなさいね・・。

シャパード、ねぇ、その・・・・シャパードの父親ってどんな感じなのかしら?シャパードとどんな話してたの?」


「父親との話ですか?」


「私、家族って知らないのよね・・。家族とあまり話したことないの。もちろん私は貴族で、餓死しないように両親は、私にしてくれていたのだけれど」


シャパードの暖かなブラウンの瞳が、ロレーヌの瞳を見る。


「・・・父は、よく俺を肩に乗せて、肩車をしてくれていました」


「肩車?」


「はい」

シャパードは立ち上がると、壁に落書きしているイールを抱え上げて、自分の肩にイールを乗せて見せた。


ロレーヌは目を輝かせて、両手を合わせた。


イールはギャン泣きした。

シャパードはイールを慌てて地面に降ろし、頭をなでた。イールはロレーヌに抱き着いてきたので、頭をなでて慰める。


「イール様すみません」

困り顔のシャパードに、ロレーヌは「あらまぁ!」と噴き出して笑った。


「肩車ってすごいのねぇ。でも怖そうね」

にこにこロレーヌは微笑んだ。


「すみません」


「またやって」と泣き止んだイールが、シャパードのもとにやってくる。


「肩車って、素敵ね」

嬉しそうにロレーヌは微笑んだ。



隣にいるシャパードの手が、ロレーヌの手を握った。シャパードの手は固く骨ばっていて、とても大きかった。

にこにこロレーヌはシャパードの方を見て、微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る