第10話


「では、僕はそろそろ行きます。兄様がいらっしゃったようなので」


アレクの視線の方を見ると、そこにはクレオが不機嫌な様子で立っていた。クレオの一人称が俺から、僕に戻っている。


「あら、まぁ」

もうクレオが来たのかと、驚くロレーヌである。


「あなたは誰にでも笑いかけないほうがいい。男は勘違いするし、へらへら笑っていると、あなたに何をやってもいいと思ってしまう」

アレクは小声でそう囁き、ロレーヌの元から去っていった。


ロレーヌ自身不細工なので、そもそも異性に相手にされないと思う。ロレーヌは困った顔で微笑む。

クレオとアレクはよく似た兄弟だなと、思う。


「何を話していたんだ?ロレーヌ」

鋭い眼光のクレオに睨まれる。


「今度お茶でもと話しておりましたの」

にこにこロレーヌは微笑む。


「ロレーヌ」


クレオに腕を掴まれて、引き寄せられる。


「お前は男を誘惑したのか?」


「そんなことありえませんわ」


「お前ははしたない女なのか?」


「違いますわ」

にこにこロレーヌはやはり微笑んでいる。


「いや、違う。お前はすぐに男をたぶらかし、お前の微笑みは、男を狂わせる」


「・・・・・?」


クレオの指が、親指がロレーヌの唇に触れた。


「弟にももう二度と会わなくていい。いいか、二度と男とは逢うな。・・・・いいな?お前は一応私の側妃なのだからな」

クレオの手が、ロレーヌの後頭部に回る。


そんな無茶なと内心ロレーヌは思うが、一応にこにこ頷いて置く。

「わかりましたわ、殿下」


「ああ」


クレオには正妃がいるのに、不公平だなとは思う。


「いい子だ」

クレオはロレーヌの頬に口づけて、ロレーヌの腕を放した。

クレオはふと、シャパードの方を見た。


ロレーヌはにこにこ微笑んでいる。


「あの、殿下、・・・・実は私、殿下にお話がありまして」


ロレーヌはクレオに、妹の子供がやってきているのを話した。


クレオにロレーヌの隠し子ではないのかと、散々問い詰められながらも、なんとか甥っ子であることを説明した。


クレオは「好きにすればいい」と言って、去っていった。

クレオの様子がなんだか少し前と違うようで、ロレーヌは首を傾げた。

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