第9話

 白髪の青い瞳の美少年が、庭に佇んでいた。

白髪は本当に珍しい。

兄のクレオも本当に珍しい菫色の瞳をしている。珍しい色の兄弟である。


「二度目ですね。ロレーヌ嬢。お久しぶりです」

アレクはロレーヌの手を取ると、自然に口づける。流石は王族である。


「お久しぶりでございます」

にこにこロレーヌは微笑んでいる。


「アレクって呼び捨てでいい。あなたとは兄弟になるのだから」


「あら、呼び捨てなんて、殿下に対して不敬になってしまいますわ。アレク様でよろしいですか?」


「それで、いいです」


「美しい薔薇の庭がありますのよ、ぜひ庭先でお茶をいたしましょう」


「いいですね」

アレクの腕が、ロレーヌの腰を抱く。


いや、・・・距離が近いなとロレーヌは思う。王族特有のマナーなのかなと思う。

アレクの顔は無機質なまでに、無表情である。嫌そうである。


「兄様は君の元に全然通ってきていないのだろう?寂しいだろうから、僕で良ければ、あなたのいつでも話し相手になる」


アレクがまたロレーヌの手を握ってくる。そんなときも、アレクは無表情である。


「ありがとうございます」


「今度僕と出かけましょう」


「ありがとうございます。殿下の許可が出たら、皆でピクニックに出かけましょう。最近薔薇のジャムを使ったお菓子を作っておりますのよ」


「貴族のあなたがお菓子作りをしているのですか?」


「ええ。みんなで食事をしているんですの」


「今度あなたと二人きりで、食事したい」

アレクの手が、ロレーヌの右頬に触れた。


相変わらず嫌そうな顔のアレク様である。無理にロレーヌを口説いているようである。目的は何なのだろう?と、ロレーヌは内心首をかしげる。


「ぜひ」

にこにこにこにこしているロレーヌに、アレクは眉を寄せる。


「大変だ。こんなところに汚れがついている」


アレクの手が、ロレーヌの唇についていたクリームに触れた。


唖然とした使用人一堂の中で、ロレーヌは「ありがとうございます」と言って、にこにこ笑っている。

アレクの手を、シャパードが掴んで放す。


「へぇー。ロレーヌ、あなたは何されても笑っているって、本当なんですね」


「楽しいことがいっぱいですもの」

そんなことを言い、微笑んでいるロレーヌのことを、アレクは憐みの目で見た。


「可哀そうに。あなたは狂ってしまっているんですね」


「そうかしら?」

狂っているのは自分なんだか、周囲なのか、ロレーヌはもう判断できない。


「俺と一緒で」

 アレクの暗いほの暗い青い瞳が、ロレーヌを見る。

ロレーヌは微笑んだ。


「今度一緒に食事をしましょう」

アレクは低い声をしている。


「ぜひ」

やはりにっこりロレーヌは微笑む。アレクは一度も微笑まなかった。

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