第5話


それからクレオは、ロレーヌの元をぱったり訪れなくなり、風の便りに正妃のシルビアが第二子を妊娠したことを聞く。


クレオは優しい人なので、ロレーヌがまだ王宮にきてばかりで心細い思いしているだろうと、ロレーヌのもとに最初のころついてきてくれていたのだろうと思う。


クレオが訪れなくなっても、ロレーヌの生活はあまり変わらない。最近はまっていることは、庭の食料の薔薇で、薔薇ジャムを作り、使用人の皆に配ることだった。

使用人には迷惑かもしれないが、なかなか美味しくできたと、ロレーヌは自負している。

税金暮らしであまり何もしていないのが申し訳がないため、今度薔薇ジャムを孤児院にも持っていこうと、ロレーヌは考えている。


「薔薇ジャムクッキーもいいわねぇ」

にこにこクッキー生地をロレーヌは伸ばしていると、侍女のシャーロットのため息が聞こえてくる。

「こんな料理をする側妃様だなんて、聞いたことがないですよ」

呆れた様子のシャーロットに、「うふふ」とロレーヌは笑いをこぼす。

シャーロットとロレーヌはよく話すようになっていた。


「側妃様に馴れ馴れしいぞ、シャーロット」


護衛騎士のシャパードが、シャーロットのことを睨む。


シャパードとシャーロットは似ている。一回そのことが気になって、ロレーヌが聞いてみると、シャパードとシャーロットは従妹らしい。

どおりでよく似ている。


騎士という名にふさわしい筋肉質の体躯のシャパードに、凛々しくも愛らしいシャーロットの二人に真摯に仕えられたロレーヌは、お姫様になった気分である。

いや、ロレーヌは姫なのだが。中身は一般人とは変わらないと思っているので、おとぎ話を外から眺めている気分である。


「あらあら、いいのよ、別に馴れ馴れしくて。私は嬉しいわ。こんなに人と話せたのは久しぶりだもの。自由にして頂戴。それに私が至らないところがあったら、すぐに言ってね。その方が私嬉しいわ」

ロレーヌは焼きあがったばかりのクッキーを小皿に乗せて、シャパードに差し出した。

「焼きたてのクッキー。よろしかったらどうぞ。甘いものお好きかしら?」


「勤務中ですので」


「シャパードは真面目なのね」

にこにこ笑っているロレーヌ。

「兄さん!」とシャーロットは怒りの声を上げた。



その夜シャーロットを部屋に帰らせて、一人薔薇風呂に入ってから、ロレーヌは一人ベッドで寝ていると、部屋の扉がキィィっと、音を立てて開ける音がする。

ぼんやりその音をロレーヌはきいてると、どんどん人の足音が近づいてくる。


「側妃様」

目を開けると、そこにはロレーヌの上に覆いかぶさるシャパードの姿があった。

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