ゴーレムの土料理
目の前には黒い得体の知れない物体。湯気は出ているからおそらく茹でたか、かまどでホイル焼きしたか……。いずれにしろこれには食欲が湧くはずがなく……。
「土のホイル焼きです、土をホイルで包んで、かまどで焼き上げました。どうぞ、ご賞味ください」
「え、土? 土を焼いたの?」
「いけませんでしたか?」
あぁ~、土ね。ゴーレムだから土料理か……。食えるわけないよね、俺、人間だぜ? こんなの食ったら腹壊すだけで済まないよね。とはいえ、作ってくれたミスズの気持ちを無下にするわけにもいかないから、優しく断ろう。
「ごめん、土は大丈夫かな。イモとかそういう系で何か作れない?」
「すみません、私これしか作れなくて……」
おぉ、マジか。まぁ、そういうことなら、料理はいずれ教えて作ってもらうとして、今回は自分で作るか。俺が立ち上がろうとした時、ホウトウがミスズの肩に手を置いた。
「ミスズよ、ここはわしに任せぃ。ガイ様、このホウトウがガイ様に合う料理を作ってご覧にいれましょう」
「ほんと、料理作れるの?」
「こう見えても、手先は器用ですからな、まぁ、少し待ちなされ」
そういってホウトウは家の外に向かった。ホウトウ料理上手なのか……意外だな。ミスズは無表情だけど心なしか哀愁が漂ってるのは気のせいか? しばらくすると、耐熱皿っぽいのに料理を盛りつけて、ホウトウが戻ってきた。ホウトウは俺の目の前にゴトッと皿を置いて、蓋を取った。
「計算に計算を重ねて作り上げた『土のラザニア』ですぞ。色んな土を何層にも重ねたわしの芸術ですじゃ、さぁ、お召し上がりください」
「いや、土じゃねぇか!」
土じゃねぇかよ! 違うんだよ、食べたいのは土じゃなくてイモとか、野菜とかだよ。家のそこらかしこに置いてあるじゃないかよ、なんでそれ使わないんだ!
「ホウトウ、土じゃなくて、食材を使って欲しんだけど……」
「左様ですか、申し訳ありません、これしか、わしは作れんでのぉ」
「お前もか! ったく……ねぇ、ローランドは何か作れないの?」
俺はローランドに希望を託す、こうなったら意地でもこいつらに作ってもらって朝ご飯を食べてやる! しばらくローランドは口を開くことなく、恥ずかしそうにしている。
「……自分は、料理を1つしか知りません……」
ローランドがゴーレム語を使ってない!? あ、そうかホウトウからゴーレム語を使わないよう言ってもらったんだっけ? まぁ、なんでもいいや。
「その料理、作ってくれない? 俺、腹ペコなんだ……」
「……承知」
そういってローランドは険しい表情をしながら家の外に出て行った。凄い気合を入れてそうだけど、どんな料理が来るんだろうか―――
―――「『土握り』です」
「いや、これ泥団子だろうが!」
見たことあるよ、この形!! 子供の頃よく作ってたもん! それっぽく藁みたいなのに乗せてるけどさ! ってかよくあったな、この藁みたいなやつ!
「あぁ、ダメだ。もういい、自分で作るわ……」
「いや、まだレイチェルさんが作ってないですよ?」
なんで1人1品作ることになってんだよ。それにレイチェルは絶対作ってくれないだろう。
「レイチェルさん、料理は作れますよね?」
「はぁ? なんでこいつに作らないといけないわけ。ミスズの願いでも嫌だね」
レイチェルは相変わらず俺にそっけない態度をとり続けている。やっぱりね、まぁ、いいよ。鼻から期待してないから。
「いいよ、自分で作れるから。この流れだとレイチェルも多分料理出来なさそうだから」
「はっ? 今なんつった?」
レイチェルの表情が一気に変わった。ん? 俺、もしかしてなにかおかしいこといった?
「今の言葉は聞き捨てならないね、ムカつく」
そういってレイチェルは家の外に出た。俺に料理作ってくれるのかな? みんなキョトンとしてるし、でもどうせ土の何かでしょ? 5分程すると皿を持ってレイチェルが戻ってきた。そして俺の目の前に勢いよく皿を置いた。
「ほら、『土ストローネ』だよ」
「また土料理じゃんか!」
なんだよ、土ストローネって、ミネストローネみたいにいうなよ。土のスープを誰が食うか! 俺が嫌そうな表情をしていると、レイチェルはスプーンを握って、俺の口を無理やりこじ開けた。
「な、なにすんだよレイチェル! やめろよ」
「文句言わずに食いやがれ、ほら!」
パクッ……
「こんな土料理、まず……くない」
なに、うまぁ!!!!! 芳醇な香りが鼻を吹き抜け、野菜のうま味が存分に引き出されてる。土と野菜が絶妙な時間で煮込まれて、ここまで上手くなってるのか!
「……フン!」
どうやらレイチェルは料理上手みたいだ―――
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