心の重さ、鍬の軽さ

 フロイドと一緒に農作業をしていた男たちも、同じように顔や服が泥まみれになっていた。フロイドは少し照れたように話し始めた。


「いやぁ、実はな、この前、森に行ったときに、農作業道具を武器代わりに持っていったんだが、ほとんど壊れちまってな。それで今、手で耕してるんだ」

「なるほどね。それで、道具は買わないの?」

「高ぇんだよ。全員分揃えるとなると、相当な金額になるし、俺たちにはそんな金はねぇんだ」

 その言葉に俺は頷く。ライガーを倒すのに、素手じゃ無理だろう。何か武器が必要だってのはわかる。でも、村の連中が剣や槍を常備しているわけでもないし、仕方がないか。


「まぁ、しょうがないな。ないならそれで生活していくしかない」

 他の男たちも、半ば諦めた表情だ。そうか、なら俺がなんとかしてやるか。


「フロイドさん、どのくらいの道具が必要なの?」

「えぇ? そうだな20……いや、30あれば、それ聞いてどうするんだ?」

「ちょっと待ってて」

 俺は目を閉じ、道具を創造し始めた。まずは大きさを決めて、それから素材を調整する。土の性質を変えられるなら、鉄にも変えられるはずだ……。アナログな道具なら、創造するのは簡単だ。


 こうして、最初の鍬が姿を現した。持ち手から鍬の先端まで、すべて鉄製だ。しかし、重すぎないように軽くしてある。ふと、視線を感じて顔を上げると、フロイドが鍬を見つめている。


「これはなんだ?  持ち手まで鉄じゃねぇか。こんなんじゃ重くて使い物になんねぇぞ?」


 フロイドが驚いたように言うが、俺は気にせず、次々に鍬を創り出していく。鋭く光を放ちながら、鍬が地面に並ぶ。村の男たちは、その光景に目を見開き、声を上げた。


「おぉ! さすが、ガイ様だ! ……しかし、この鍬は使えるのか?」

「あぁ、重たくて振り下ろすのも大変だぞ、こりゃ」

「みんな! こいつぁ、すげぇぞ!」

 フロイドは片手で鍬を持ち、すでに畑を耕し始めた。折れている腕でさえ、その動きに遅れを取らない。


「軽くて使いやすい、しかも鉄製だから壊れる心配もねぇ! こいつは最高だ! 手でやるより遥かに楽だぜ!」

 そりゃ、鍬だからな。手でやるより楽だろうよ。


「なんだって!? それじゃ、折り放題じゃねぇか!」

 折り放題じゃねぇよ。俺の創造魔法を何だと思ってんだこの男たちは。いくらでも作ってやるわけじゃねぇからな! いや、そんなことよりも、この鍬たちを使って―――。


―――「フロイドさん、この鍬、全部村で使っていいよ。その代わりと言ってはなんだけど……」

 俺は多くを語らず、静かにフロイドを見つめた。「ん?」っと俺を見てきょとんした表情を浮かべるフロイド。しばらく静寂が続いたが、やっと俺の伝えたいことを察してくれたのか、大きな口で豪快に笑った。


「がははっ! ったく、ガイ様は商売上手だなぁ、よ~し、みんな、ガイ様にありったけの食料と必要な物を持ってきてくれ!」

「ありがとう、フロイドさん」

「なぁに、いいってことよ」

 男たちはフロイドの指示に従って、村から食料や暮らしに必要な物を次々と運んできてくれた。これだけあればしばらくは、ゆっくりと暮らせるだろうな。そんな時、フロイドの息子、アレスが興奮した様子で駆け寄ってきた。


「ねぇ、ガイ様! また、モンスターが襲ってきても、助けてくれるんだよね?」

「えっ?」

「だってガイ様は強いんでしょ? 父ちゃんがいつも言ってるよ! ガイ様ならどんなモンスターも倒せるって!」

 アレスの大きな瞳が、純粋な期待でキラキラと輝いている。アレスの正直すぎる言葉と瞳は、俺の心をギュッと締め付ける。さっきまで、この村を襲っていたライガーと一緒だったからな、そんなことを無邪気なアレスに伝えられるわけないよな。


 俺は引きつった笑みを浮かべながら答えた。


「そ、そうだね……うん、できるだけ助けるよ」

 自分でも動揺しているのがわかる、受け答えがはっきりできていないことにアレスは何かを感じ取ったのか、首を傾げる。


「ガイ様……なんか元気ないよ?」

 俺とアレスの会話を聞いていたのか、俺の様子がおかしいことを察したフロイドが心配して話しかけきた。


「ガイ様、大丈夫か? 何かあったのか?」

 この2人に心配をかけないよう、なんとか笑顔を作り、軽く手を横に振った。


「いや、なんでもないよ。これだけあれば大丈夫だから、また何かあれば村に立ち寄るよ」

「そうか……あぁ、そうだな、長老にも伝えとくよ。気をつけてな」

「うん、ありがとうフロイドさん、じゃあなアレス」

「また来てねガイ様!」

 そういって俺は持って帰るための大きな台車の創造を開始した―――

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