森と村を繋ぐ道
ようやく落ち着きを取り戻した俺は、ライガーの背中を降りて、再び道の創造を始めた。風を感じていた興奮がまだ心に残っているからか、すっかり疲れと眠気が吹き飛び、作業は順調に進んだ。少しずつ地面が創造したとおりのレンガ調のタイルに変わっていくのを目の当たりにしながら、昼前にはもうあとわずかというところまで作業は進んだ。
「よし、あとは10分ぐらいでできそうだな……」
もう少しで終わるという時、俺はふと不安がよぎる。それはライガーの事について……、今は俺に懐いてくれてはいるが、元は村を襲っていた凶悪なモンスター。村を救ったとはいえ、俺が村の元凶となるライガーと一緒にいるのを見て心地いい人はいないだろう。
「……やっぱり、嫌だよな」
村の人が見れば、変な噂を流されるかもしれない。二度と村には入れないかも、それどころか王国に密告されて、この森共々、破壊される可能性だって0じゃない。せっかく、ゆっくり暮らせると思っていたのにまた1からってのはそれは凄くめんどくさい。そうなると―――
―――コイツとは別れるしかない、とはいえ森の中にいればまたいずれ会うだろうし、俺が森にいることは知っているだろうから、会おうと思えば何時でも会える。サツマイモ食べに来るだろうからな。俺は作業を止めて、振り向いてライガーに近づいた。
「なぁ、これ持ってさ、仲間の所に戻りな」
俺は懐にしまっていたサツマイモを取り出してライガーに渡す。目を輝かせてサツマイモを口に咥え、変わらず尻尾を振り続ける姿に俺は心が締め付けられそうになる。
「よく聞けよ……お前は村に行ったらダメなんだ、村を襲おうとしたお前を村に連れて行けない。わかるか?」
俺は優しくライガーの背をそっと撫でた。まるでずっと撫でてほしかったと言わんばかり俺に体を委ねてくる。
「また、お前の力を借りる時がくる、その時まで待っててくれるか?」
「ワンッ!」
俺の言いたいことが伝わったのかな? ライガーはサツマイモを咥えたまま、背を向けて颯爽と森の中に消えていった。俺はライガーの姿が見えなくなるまで、目で追いかけた。
「また会えるよ、俺は森の中にいるんだし」
まるで自分に言い聞かせるように、俺はボソッと呟いた。一緒にいたらライガー達が危険な目に遭うかもしれない。かといって村の人達の気持ちを踏みにじるわけにもいかないし。俺だけの問題に留めておけば大丈夫だ。作業も残りわずか、さくっと終わらせて村に向かうとするか。
作業を再開し、少しずつ村との距離が縮まっていく。そして道が完成した瞬間、俺はとてつもない達成感に包まれ、その場に倒れこんだ。
「できた……できたぞぉ」
これで村に行きやすくなったな。必要なものがあれば買いに行けるし、だいぶ利便性は良くなっただろ。俺は体の土を払いながら立ち上がり、森を出た。
「さてと、村に向かうか、そうだなぁ、まずは食料調達か」
さすがにずっとサツマイモは飽きるしな、新しい食べ物でも買ってみるとして他にも必要なものはあらかた仕入れておこう。5分程歩けば、村の姿が少しずつ目に飛び込んでくる。森の中とは違って、太陽の光が地面を明るく照らし、俺の体に光が雨のように降り注いでいる。風も心地よく吹き抜けて森の中にいる時とは大違いだ。
ククリ村の看板が見えてきた。家に戻ってサツマイモの様子も確認したいし、なるべく早く、やるべきことを終えて戻るか。
「ん? おぉ! ガイ様じゃねぇか」
フロイドが畑を耕していた。腕にはまだ簡易ギプスをつけているが、元気そうで何よりだ。俺に気づくと作業を止めて、大きな声で村中に俺が来たことを伝えた。
「お久しぶりです、ガイ様!」
「あれ以降、モンスターに畑を荒らされることは無くなりました、ガイ様のおかげです。本当にありがとうございます!」
ズキッ……
さっきまでライガーと一緒にいたから、なんか村の人を騙しているような気がして素直に笑えない。引きつったような笑い方で何とかその場を誤魔化し、俺は村に足を踏み入れた。
村はいたって平和だ。子供ははしゃいで外で遊んでいるし、どこのお店も活気があってみんな幸せそうに暮らしている。この調子ならしばらくは大丈夫だろう。
「ガイ様、ところで今日は何の用だい?」
「うん、必要な物の買い出しと食料を……って、フロイドさんその手どうしたの?」
フロイドの手は泥にまみれていた、手だけじゃない、よく見ると服や顔まで泥で汚れている。一体何があったんだ―――
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