第2話「ユニークスキル。その心の有り様を具現化する」

 チュンチュンチュン。

 鳥のさえずりが聞こえ僕は目を覚ました。

 ぼんやり霧がかかったような思考が徐々に晴れていく。


「理奈!」


 自分でも驚くぐらい大きな声が出た。

 だがその心配は、近くの見るとすぐ杞憂になった。


「ん、むにゃむにゃ」


 実に心地よさそうな寝顔をしている。頬をつねってやりたい。


「・・・・・・ほ」


 僕の思考に反し、口から出たのは安堵のため息。

 第一優先が杞憂に終わった今、僕は状況を少しでも確認するために辺りを見渡した。


「なんだここは。どこかの森か?」


 生い茂った草と乱立する木の葉っぱが清流な風に揺られ、見るも美しく自然の演奏をしている。

 呼吸をする度、脳細胞一つ一つが歓喜するほどうまい空気に僕は驚いた。

 どういう状況だ。さっぱりだ。

 呆気に取られた僕だったが、気を取り直し理奈の肩を揺する。


「おい起きろ。起きろってば」

「むにゃむ、ん?」


 イヤイヤしていた理奈だったが、しばらくするとゆっくりと瞼を開けた。

 上体起こし右に左に最後に僕を見た。


「おはよう。・・・・・・寝起きを襲われている? いいよ悠斗なら」

「いいって何がだよ。寝ぼけてないで目を覚ませ」


 我慢ならなくなった僕は理奈の額に軽くチョップをした。

 逆効果だったのか、だらしなく口を緩めうっとりと目を細めた。

 んぐ、いいだろう。そっちがその気なら僕だって負けてられない。

 リズミカルに叩き理奈を楽器にすること数十秒。意識を取り戻した理奈は徐々に無表情になっていく。


「ここ、どこ?」

「分からん。どこかの森か?」

「何が起こってる?」


 僕は目を閉じ回想をする。


「確か体育の授業を受けてて、理奈がゴリラゴリラして、そこから変な光が・・・・・・」

「ひどい。しくしく」


 棒読みで目元を人差し指でこする理奈。構っている余裕はないため、放置し思考を深める。

 脳内にいくつもの数式が浮かび消えていく。そして思いつく限りの全ての数式を計算した後、僕は頭を抱えた。


「本当に何が何だか分からん。物理的に不可能なことが起きた」

「物理的に不可能? もしかして」

「何か心当たりがあるか? 今は少しでも情報が欲しい」


 理奈が持っていて、僕に無い知識などそうないだろうが、理奈を信じ言葉を待った。

 そんな僕を見た理奈は少し嬉しそうに人差し指を僕に指した。


「異世界転生。もしくは異世界転移。その類の事象が起こった?」


 異世界。一笑に付すほどの、突拍子もない発言が聞こえた。

 だがーーーーーーそれも普段であればの話だ。


「あっはっはは、って笑いたいところだがな。実際に不可能なことが起こったんだ。ありえない話じゃない」

「もしここが異世界なのだとしたら、私の知識が役に立ちそう」

「理奈の趣味か」


 そう。理奈はガチガチのインドア派。休日は僕の家に入り浸り、ゲーム片手に漫画やらアニメやらを見ている。

 たまに僕にはよく分からない話を語る時があった。その度に辟易していたが、まさかこんな形で役に立ちそうなんてな。


「試したことがある。この世界がテンプレ通りならきっと役に立つ」


 僕は流し目を向け理奈の言葉を待つ。肯定の意を受け取った理奈が続ける。


「ウィンドウ」


 そう呟いた瞬間、理奈の正面に何かが浮かび上がる。


「なんだこの立体映像は? 文字が書いてあるが」

「これはウィンドウ。どうやらパラメーターとスキルが書かれているみたい」


 パラメータと書かれた文字をタッチすると、映像が切り替わった。

 体力、筋力、魔力、速度、物防、魔防、幸運と書かれている。


「身体能力系の数値が三桁だな。特に力の数値が大きい」


 力の数値は他の身体能力系の数字より二倍近くあり、320と書かれている。

この数値の相対評価は分からんが、理奈の力を知ってる僕からすれば、かなり高いのだと推測できる。

 僕も理奈に続いてウィンドウと唱え、パラメータをタッチする。


「身体能力系の数値は軒並み悪そうだな」

「普段の悠斗を知ってる私からしたら当然」


 三桁など届きようもなく、数十程度しかない。

 だがその中でも目を引く数値が一つあった。


「魔力が高い。320か、理奈の力の数値と同じだな」

「もしかしたら知力と関係あるのかも。だとすれば納得」


 理奈がうんうんと頷く。正直実感はないが、なんにせよ数値が高いのに越したことはないだろう。


「そしてこれ。やっぱり」

「ユニークスキル? 通常のスキルとは違うのか」


 理奈がスキルの欄をタップする。一番上にでかでかとユニークスキルと書いてあり、その下にスキルとある。スキルは下線部が複数引かれているだけで空欄だが。


「多分。私たちは異世界からの訪問者。一部の作品を除いて、独自の能力を与えられる」

「チート、無双。なるほどの理奈がよく話していたな」


 理奈がその類の話をする時は聞き流しモードになっていたが、単語は聞き覚えがある。

 結構なことじゃないか。これが物語であれば、カタルシスを得ることが出来ないだろうが、今僕たちが直面しているは現実。存分に与えられた力を振るいたい。


「ユニークスキル。その心の有り様を具現化する」


 ユニークスキルをタップすると、切り替わった映像に小さくそう書かれていた。


「心の有り様ねぇ。であればこの僕のユニークスキルとやらは、さぞ強いスキル何だろうな」

「いつもの調子に戻った?」


 無表情な顔で僕を覗き込むように見る理奈。


「はっははははは! 僕はいつだって僕だ。どんな状況にも左右されないさ」

「ふふ」


 無表情が一瞬崩れ、小さく微笑む理奈。

 なぜだか分からないが、僕は小さく息を飲み込んだ。


「私のユニークスキル、万物従属(ディペンテンス)?」

「・・・・・・つぅ」


 ディペンテンス、おそらく綴りはdependence。その意味は信頼、信用と意味のほか依存症という意味を含む。


「趣味の悪いネーミングだ」

「そう? いい名前だよ?」


 微かに嬉しさを声や表情に滲ませる。何を思って歓喜しているのか皆目見当つかないが、一人怒るのはバカみたいだな。


「能力。特定の対象と距離が近いほど全パラメーターがアップする」

「特定の対象か。誰をもしくは何を指すのかがネックだな」

「考える必要はない。ユニークスキルが心を具現化するのであれば、答えは決まり切ってる」

「分からんな」

「・・・・・・本当に?」


 少しいじけたようなニュアンスで僕に問いかける理奈。


「まあ少しは、ミジンコ一匹分ぐらいなら、分かる、かな」


 まああれだ、理奈にとって僕は家族みたいなものだろうからな。特定の対象とやらには充分なり得る。ただそれだけだ。


「つまり私のユニークスキルには制限ない」


 そう結論付けると、今度は僕の番だとばかりに目線を向ける。


「さて、では僕のユニークスキルを確認するとするか。まあ僕のスキルはさそぶっ壊れているだろうがね。なになに・・・・・・」


 僕は少し心躍らせながら、ユニークスキルを見た。


「暖家建築(アットホーム)? なんじゃそりゃ!」

「ぶほぉ」


 珍しく理奈が無表情で噴き出す。おのれ他人事だと思いよって。


「い、いやしかしまだ望みはある。名前はあれでも能力が強いかもしれん」


 そう、そうだ。名前などただの飾り。必要なのは能力だけだ!


「能力。一日に一度、その場に小型のハウスを出現させる。ハウスは領域として展開され、許可したもの以外は入ることができない。効果持続時間10時間」

「ハズレスキル?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「ふ、ふ、ふ、ふざけるなぁ!」


 慟哭が大地を揺らした。

 理奈は趣味の悪い名前だが、有能そうな能力を貰っている。それに比べて僕は・・・僕わぁ!


「あ、そんな大きな声を出したら」


 僕の声に釣られたのか、ある物体が現れた。

 それは丸型で半透明の体を持ち、プルプルと震えていた。図体はかなり大きく、高さは成人男性の平均身長程度だ。


「なんなんだだこの怪物は!」


 異形としか言えないその姿を見て、僕は冷静さを失い叫んだ。

 その僕の問とは言えない絶叫に理奈は静かに答えた。


「魔物」

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異世界転移〜貰ったスキルは暖家建築(アットホーム)でした〜 @aaaaifjjedjdcdi

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