異世界転移〜貰ったスキルは暖家建築(アットホーム)でした〜

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第1話 「わーはっは! 勝負あったな担任よ!」

「わーはっは! 勝負あったな担任よ!」

 

 勝ち誇った中世的な声が広い体育館に響いた。


「ふっふふ。甘いわね。あなたの考えなんてお見通しよ。そんなこともあろうかと一つ替えを確保してたのよ!」


 それに対抗するのはジャージ姿の妙齢の女性。僕の担任だ。長い黒髪を一つに纏め、見事なたわわがある美人。

 こうして僕と彼女が応酬しているのは、海よりも深いワケがある。

 それは、なんと!

 僕が体育をやりたくないからだ。


 そこで僕は考えた。全国模試満点の黄金の頭脳で考えた結果、ある妙案を思いついた。

 体操服を忘れる、クラスメイトをアメで釣り予備を借りさせる、以上!

 完璧だぁ、実に完璧! だったはずだが。


「この僕の行動が読まれた、だと?」


 あまりの驚きに手の平を目元に当てて嘆く。


「まーたやってるぜあいつ」


 なにやら呆れたような声が聞こえた。茶髪に染めているがそこまで派手ではない頭。身長は高く手足も長い好青年的なイケメンだ。その身長を分けてくれ。

 彼は僕のクラスメイトの登坂海(とうさかかい)だ。


「・・・・・・かっこいい」

「正気か、正気ですか、正気でしたね。今のこいつにカッコよさのカの字もないぞ」


 そして熱っぽい声と視線を僕に向けているのは、僕の幼馴染の佐々木理奈(ささきりな)。

 色素が抜けたような白髪に、心配になるほどか細い手足。きりっとした目つきに、表情筋がお亡くなりになったかのような無表情の美少女。さっきまで休憩時間の暇をつぶしていたのか、バスケットボールを抱えている。

 誰もが好みを殴り捨て見とれるような美少女なのだが、欠点は依存系ヤンデレが見え隠れする所だ。


  基本的に僕の家に入り浸っており、常に僕に引っ付いて暑苦しい。もはや僕の両親すらも溺愛しているレベルだ。僕の誕生日の日に、理奈の好きな食べ物フルコースが出た時は、わが両親ながら助走をつけて張り倒してやりたかった。

 いやいやいや。そんなことより、この危機をどう回避するのかが先だ。僕の灰色の脳細胞がうねりを上げ、あることを思いつく。


「だ、だがkっこkっここの僕にはまだ秘策が」


 少しどもってしまったが、僕は胸を張り勝利宣言をする。


「ちなみにケガしてます、なんて通用しないからね。あなたが廊下を往復ランニングしてるのは他の先生から聞いてますから」

「しまった。誰にも見られていないことは確認したはず」


 僕の趣味の一つ、廊下走り。嬉しくなるとハイになってやっちゃうんだ。

 何回か担任に叱られたのでやる前に確認するようにしているが。

 ああ、確かに確認した。教員と生徒の全員の行動パターンを計算し、安全な時間帯を選んだ。それなのになぜ。

 ふと担任の口元がぴくぴくと引き攣っているのが見えた。


「・・・・・・あ」

「後で職員室に来なさい」


 どうやら僕は彼女にはめられたらしい。これはアカン。


「はい。すみませんでした」


 きれいな直角45度。マナー講座の先生も感嘆するほどの最敬礼を僕はした。

 そんな僕を見た理奈は、


「かっこいい」

「盲目にもほどがある。眼科に行くことを進めるぜ」


 どうやら好感度が上がったらしい。

 うむ、確かに海の言う通りの気がする。ここはジャンピング土下座をするべきだったな。失敗してしまった。


「わかった、分かりましたよ。今回は僕の負けです。おとなしく授業を受けますよ」


 公衆の面々で裸で踊り狂うほど嫌だが致し方あるまい。


「はぁ。分かればよろしい。あなたは、頭は良いのにどうしてこうなのかしらね」


 可哀そうな人を見るかのような視線。

 僕は言い返そうと頭を稼働させたが、その前に理奈が助け舟を出してくれた。


「先生。悠斗の行動はすべて理知的で合理的です。凡人には分からないだけですよ」

「どうやら俺が進めるべきは眼科じゃなくて脳外科だったらしい」

「残念。あなたは凡人だったみたいね」

「これほど凡人と言われて嬉しかったことはないぜ」


 理奈と海が夫婦漫才を始めている。理奈さんや、担任を丸め込んでくれると助かるんだが。

 海がびしっと人差し指を僕に向ける。


「こいつは確かに天才だけど、あれだぞ。ピカソを理解できるか、みたいな方向性だぞ」


 どうやら僕=ピカソらしい。うむマーベラスだな。実にいい。

 だがしかしだ、そう言い争っていると理奈がやばいぞ。かなりやばい。傍から見れば無表情に見えるが、かなり怒ってらっしゃる。これは一つ海をたしなめないといけないな。


「まあまあケンカするな。これ以上ヒートアップしたら・・・・・・潰すぞ」


 僕の鋭い眼光を見た海は少したじろいだ。効いているようだ。では決定的な一言を添えよう。


「理奈が」

「なにか言った?」


 銃声のような音と共に、さっきまでバスケットボールだったものが飛び散る。だったものが、だ。


「ナ、ナンデモアリマセン」


 僕は唇を引きつらせながら弁明した。

 理由は不明だが、理奈は生まれながらに人間に備わっているリミッターをどこかに無くしている。小学生の時に握力計をぶっ壊し、その場が阿鼻叫喚になったことを今でも覚えている。

 今でこそ力の制御の訓練をし、極度に怒らせた時にしか暴走しないが、幼いころは大変だった。

 まあ、これ以上思い出しても意味ないし、気分が悪くなるだけだ。


 キーンコーンカーンコーン。


 丁度よくチャイムなり僕の思考は強制的に切り替わる。


「ほらほら、おしゃべりしてないで早く整列しなさい」


 担任が全体に聞こえるような大きな声で僕たち生徒に呼び掛けた。シュートの練習をしていたり、思い思いに談笑していた生徒たちは「はーい」、と皆一様に集まった。うむ僕のクラスの民度はかなりいいな。

 さて、・・・・・・地獄の始まりだ。










 おーらいおーらい、元気な声が響き足音と共に地面が揺れる。

 僕たちは今バスケの試合をしている。


「はぁはぁはぁ」


 あーああああーあ、つらい。

 肺が悲鳴を上げ、足も悲鳴を上げ、ついでに口も悲鳴を上げている。


「相変わらずバテるの早いな」

「はぁはぁ。だから、体育は、はぁはぁはぁ、嫌いなんだよ。」


 果敢に攻める味方チームをゴール下で見ながら、荒い息遣いで海に返答する。

 無論、僕の幼馴染である理奈は気づかうように声を掛けてくれ


「そのボイスを録音していい? 言い値で買う」


 どうやら期待した僕が間違っていたようだ。


「何に使うんだよ」

「・・・・・・なにに? それは当然ナニに」


 うむ、なににとは何にだろうか? この僕の知識でも分からないとは。

 首をかしげている僕の代わりに海が返答してくれた。


「至極全うそうに真顔で言うなよ。俺がおかしいと勘違いしちゃうだろ」

「うんおかしい」

「人の数だけ常識があるですかそうですか。お前のおかげで一つ大きな学びがあったぜ」

「えっへん」

「皮肉ってんの!」


 うーむ、また夫婦漫才を始めてしまった。今僕たちのチームは攻勢しているためめ余裕はあるが・・・・・・あ。


「ゴールは俺が守ってるから、お前らは攻めてこい」

「いや。悠斗と離れたくない」

「いや行け。さっきから担任がすごい目つきで睨んできてる」


 流し目に僕は担任を見る。人を殺せそうな目線をしている。

 運動神経皆無な僕は例外として、運動神経抜群の二人がゴール付近でくっちゃべっていたら、そりゃまあ怒るだろうな。


「しゃーないな。面倒だけど行くか」


 海がその場で屈伸をし、敵ゴールに走っていた。


「悠斗は離れてほしいの?」


 静かに問う理奈。僕がYESと答えたら、敵チームを蹂躙しに行くだろうが。すがる様な瞳。僕はいつもこれに弱い。


「はっはっは。僕の代わりにブロックしてくれるならいいぞ。普通に疲れるからな」

「分かった。ありがとう」

「・・・・・・」


 何とも言えない空気が流れる。いやそう感じているのは僕だけなのだろう。理奈は心地良さそうに目元を緩めている。

 依存させるような言動しちゃだめだよな。分かっている、分かってるんだが。

 そうこう僕が考えていると、攻防の流れが変わり敵チームが僕たちに向かって走ってきている。


「お、来たぞ」


 フリーの状態で放たれたボールは、その慣性に従いゴールに入る筈だったが。


「ほい。はい」


 掛け声一つ、ゴールに入る寸前に理奈がジャンプし片手で止める。そして、滞空したまま上半身をひねりボールをすごい勢いで投げた。

 若干時差の後、ここまで明確に聞こえる轟音。遠目で見るとどうやらボールは敵チームのゴールに入っているようだ。

 補足しておくと理奈の身長は150センチ程度。自分の身長の約二倍程度跳躍していることになる。マ○オかな○リオだな。


「お前人間やめてるだろ」

「酷い」


 心外そうに抗議する。

 場の空気は静まり返っている。が、少したった後歓声が響き、通常の空気に戻った。

 どうやらわがクラスメイト達は感覚がマヒしてしまったらしい。

 まったく、僕言うのもなんだが理奈に毒されているな。自然に緩んだ口元を理奈に見つからないように手で隠す。


 ああ、なるほどそういうことか。

 僕と理奈、確かに散々な幼少期だったがどうやら僕たちは家族以外の居場所を見つけれたらしい。


 しかしああ、なんというか。僕は失念していた。

 運命は僕たちに残酷だということに。


 つーつーつつつーつつ


ノイズが聞こえた。 

 

「なあ、あれなんだ」


開かれた窓から色を塗りつぶすような光が見えた。


「なんだあの光は! どんどん近づいてきてるぞ!」


焦った声が聞こえた。


「うわぁああああああああああああ」


悲鳴が聞こえた。


 僕は咄嗟に

「理奈!」


 理奈の手を取りーーーーーそして意識が途絶えた。


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