Day16 レプリカ

 時々、審美眼を養うために美術鑑賞をする。近くの美術館で好きな画家の特別展が開催されているという情報を知ったので、休日にジェフと出掛けることにした。

「そういえばジェフは、本物と偽物を見分ける機能ってあるの?」

「古物商ほどの機能は無いが、詐欺被害防止のための識別機能なら装備されている」

「なるほど。そこまで考えられて作られてるのね」

 美術館内は多くの人で混雑していた。人気のある画家だから仕方がないけれど、さすがに人酔いを起こしそうで少し常設展を回ることにした。

 常設展は特別展より人が少なく回りやすい。絵画だけでなく、彫刻、金属、造形……様々な美術品が展示されている。

「一番惹かれるのは絵画だけど、彫刻の細かい彫りの違いや金属の緻密な模様も、努力の賜物だわ」

「ああ。しかしこの彫刻がレプリカだ」

 目の前に飾られているハデスの石像を指しながら、ジェフはレプリカである証拠を説明する。私は本物を見たことがないのでその違いが分からない。ここまで興味が無いと言葉が素通りする。

「……うぶですか? 大丈夫ですか?」

 私は立ったまま寝ているかのように意識が飛んでいた。日頃の疲れだろうか。

「話、聞いていましたか?」

「……え? ああ、うん。そんな違いがあるのね」

「興味無いようですので、そろそろ特別展に行きましょう」

 ジェフは少し怒っているような口振りに聞こえた。アンドロイドの審美眼を持つことは、私には到底叶わない。きっと本物そっくりのレプリカでも、気に入ったものがあれば手元に置いてしまうだろう。

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