Day09 肯定

 今やほとんどの人間は自宅にいながら仕事をする、いわゆるリモートワークが主流である。現地作業は一部の職種と階級を除いてアンドロイドの眼球光彩を通して状況を把握する。私もアプリケーション開発会社に勤めているものの、ほとんど会社に出勤しないから本当に社員として働いているのか分からなくなる時がある。

「――だから、あなたの成果物では補足説明を入れても顧客を納得させるだけの材料が足りないって言ってるの。お願いだから会社のアーカイブアンドロイドを使ってちょうだい」

「嫌です! アーカイブに頼ってばかりじゃ新しい発想は生まれない。リーダーはアンドロイドを肯定する側の人間だから分からないでしょうけど、昨今のアプリはどれも似たようなもので溢れかえってるのをご存じでないのですか?」

「分かっていないのはあなたの方。アーカイブアンドロイドは全世界で配信されているアプリケーションソフトの分析もやってくれるの。市場調査が足りないって言ってるの」

 時間の流れに逆らうように、一向に進まないチームミーティングはとても退屈する。若者は最新かつ画期的なアプリケーションを求めるが、実際は利便性に特化した類似商品を生産する馬鹿な子供。特に私のチームはおもちゃが欲しいと駄々をこねる子供と何ら変わらない。

 コーヒーブレイクがてら、キッチンに置いてあるメーカーのスイッチを入れる。

「なんだか大変だな」

「あ、聞こえてたの?」

「いつもより声のボリュームが大きかったからな。だいぶ頭を悩ませているようだが」

「つまらない仕事の話よ。本当なら独立してフリーランスにやっていく方が性に合ってる」

「なぜそうしない?」

「いろいろと面倒だからよ。保険だったり行政手続きだったり。それにあなたとの時間があるのは、会社勤めのおかげよ。フリーランスは時間なんてあってないようなものだから」

「そうか。――ところで今日の晩ご飯だが……」

「ピザがいいわ」

「愚痴吐きか?」

「だめ?」

「構わない。あなたの機嫌が良くなるならなおさらだ」

 ジェフは私の意見にほとんど肯定する。でも考えなしのイエスマンではないから好き。だからジェフに甘えてしまう。こんな私を、ジェフはどう思っているんだろうか、たまに分からなくなる。

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