Day08 こもれび

 仕事が全くない晴れた休日はジェフと公園に出掛ける。一人で散歩するよりもジェフといた方が発見が多いので楽しい。今日は特に天気も良くて木陰に入る風が心地良い。

「休日だし天気良いし、いつもより人が多いわね」

「ああ。だがここは都会から離れていて緑が多い。気分を変えるにはもってこいの環境だ」

 花壇に植えられた自然植物を見物しながら、しばらく公園内を歩く。遊具が置かれた遊び場は子供たちの威勢ある駆け足で砂埃が立つほど楽しそうで、丁度木陰になるよう配置されたベンチに座っているのはきっと我が子を見守る親御さんたちだろう。こうして見ていると、人間とアンドロイドの区別は分からない。

 公園内は大まかに分けて二つのエリアに分類される。先ほどの遊具広場と噴水広場の歩道は無限大の記号を模した形になっているため、エリアの境界がはっきりしている。私とジェフは噴水広場のベンチに腰掛け、水筒に入れたグリーンティーで火照った身体を冷やす。

「今日は本当に暑いわ。サウナに入っているかのようね」

「そうだな。私も熱暴走しないよう、調整している」

「アンドロイドは人間に比べて熱には相当弱いものね」

「微々たる差だ。人間もこの暑さなら熱中症になる確率は高くなる。本来なら、経口補水液を推奨する」

「嫌よ。不味いから」

「私はあなたを心配して言っている」

「あら。気が利くことを言うのね」

 私はジェフの向き先が私に向いていることに驚きを隠せない。刹那にジェフの顔を見ると、木葉の間から差し込む木漏れ日がジェフの眼球光彩を照らす。アンドロイドの光彩は人間の作りと違う。カメラの役割を果たすと同時に、眼球光彩の奥は対人関係に応じた屈折を放つ。ジェフは本当に私を心配しているのだと、その屈折が私の思考に訴えていた。

「――ごめんなさい。帰ったらちゃんと飲むわ」

「ああ」

 木陰と噴水と風が心地良く、疲れもあって眠気を誘う。私は自分の頭の重さに負けてジェフの肩に置く。

「大丈夫か?」

「ええ。大丈夫。何だか安心しちゃって……」

 意識が朦朧とする中、ジェフの大きな手が私の左側を自分の方に寄せる。人間らしい行動が錯覚させる安心感。ああ、私の有機物的生命が、アンドロイドと同じ半永久機関だったら、時間なんて忘れられるのに。

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