Day04 触れる
最後に人間の肌に触ったのはいつだろう。その温度が冷たかったのは覚えている。父も母も立て続けに流行病で逝ってしまい早一年。時間は均一に過ぎていくのに、その感覚は日に日に早くなっていく。
「歳を取るって、本当に嫌になる」
「突然どうしたんだ?」
ジェフは心配そうに声を掛けてくれる。
「いや、歳取る毎に時間の流れが早く感じて、両親がいない寂しさも薄れていく。人間の脳みそが機械なら、こんな嫌な思いはしなくて済むのかなって」
「なるほど。人間の理性と感情は厄介なものだな」
「ジェフには楽しいとか悲しいとか、感情をに揺さぶられる時ってあるの?」
「無い、と言えば嘘になる。しかし感情的な行動を取らないようにプログラムされている」
「本当、アンドロイドって便利ね。私もアンドロイドに生まれ変わりたいわ」
ジェフは答えなかった。そもそも生まれ変わるという言葉に対しての正当な答えが出てこないのだろう。
「ねえ。触ってもいい?」
「構わない」
ジェフは片方の掌を私に差し出す。見た目はとても人間そっくりの皮膚なのに、その正体はただホログラムなのでツルツルとしている。でも温度は人肌に設定されていて、無機質なのに安らぎが感じられる。
「ジェフ、もう私を一人にしない?」
「……約束は、できない。機械は半永久的だが記憶は消去されれば最後だ。また同じようなことになったら、その時は――」
ジェフは珍しく言葉を詰まらせる。それはプログラムがそうさせているのか、私を悲しませないように言葉を発しないと堪えているのか知る術はない。
「記憶はバックアップできないの?」
「個人情報や機密情報が漏洩されないように暗号化されている。バックアップできたとしても戻せない」
「そう……。じゃあ今のジェフが消えた時のために、ログを取っておくのはどうかしら」
「ログ?」
「動画、と言った方が正しい?」
「無意味かもしれないが、次の私に引き継がれる可能性があるのなら」
私はタブレットを三脚にセットし、ジェフと隣にくっついて動画を撮った。
頬も掌と同じようにツルツルとしていたが、独り身の私にとって大事な家族。血の色が違ったとしても、私は最期の時までジェフといたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます