夜の唄 ~lament~
男は、静かに眠っている。
私はテントの隙間から眼下の街を見下ろしていた。
ちらほらとまばらに広がる他は街の灯りは消え、
空の星たちが耀きを増し始めていた。
静寂も綺麗な月夜。
私は静かに唄い始める。
夜のしじまを壊さないように。男の眠りを妨げないように。
明日の今頃、私はいったい何をしているのだろう。
いつもなら静かな家で、独り歌を唄って過ごす。
死んだ夫を悼むため。
しかし今宵は、この男のために唄う。
彼は、敵の将軍。侵略のために、この街を軍が包囲している。
明日にはもう、争いは避けられないだろう。
いや、争いにすらならない。一方的な暴力が街を壊すだろう。
この男は何も知らない。
貧しくも逞しく生きる街の人々を。
多くの悲しみと慎ましい幸せがそこにあることを。
明日の今頃、私はいったい何をしているのだろう。
夫ために唄うことはまだできるのだろうか。
私の手の中で、男の血を浴びた短剣が月の光を受けて耀いている。
そう、私が唄うこの歌は、この男のための鎮魂歌。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます