第7話 そして国外追放へ
7.そして国外追放へ
そんなこんなで、しばらくの間。
着実に国内の問題を解決しつつ、中継機を破壊。
それをひたすら繰り返していた。
そしてメイナ技能を持つ人たちに、問題の対処法や退魔用アイテムの作り方、
事前に対策できることまで、時間を惜しんで伝えていったのだ。
しかし昨日。
”大至急来い”との伝達を受け、メイナ事務局室へ向かうと、
そこには鼻息も荒く興奮顔のグラナト王子と、
超がつくほど上機嫌なルシオラがいた。
「お前に見せたいものがある」
王子が指さしたのは、枯れかけている一輪の「神霊女王の蘭」。
って、これ、一度咲いてから枯れている?!
どうだ! すごいだろう、と言わんばかりの顔つきでこちらを見ていたが、
急に厳かな雰囲気をつくろうとしたらしく、声色を変え、
「ルシオラが、神霊女王の蘭を咲かせた。
などとのたまった。いや、それはない。あり得ない。
ルシオラは嬉しそうに、そして誇らしげにいう。
「ほら、初めてお会いした時、ワタクシが手に取ったお花、
あれが咲いていたのですっ」
私は身震いするほど衝撃を受けた。しまった! しくじった!
両手でルシオラに手を握られた時、彼女の手には確かにあの花があった。
つまり
絶句する私を気にもせず、王子は続ける。
「俺もルシオラも、あれ以来この部屋には来なかったが
侍従が昨日、"花が咲いて枯れたから交換する"と言い出したんだ」
ときどき見かける、ご高齢の侍従さんか。
枯れている姿を侍従に見せられ驚いた王子は、
神記に詳しい(実際はともかく)ルシオラを呼び出すと
それを見た彼女は、この位置の鉢って……と気が付き
「それっ、私が持った花だわ! 私が咲かせたのね!」と狂喜乱舞したそうだ。
多分あの後、誰もいないこの部屋で
花は静かに花開き、そして枯れていったのだろう。
ああ、なんてことだ。
ルシオラは顔を上げ目を閉じ、ウットリとつぶやく。
「実はこのところ、私の力が強まっているのを感じていました」
私はさらに言葉に詰まって何も言えなくなる。
王子は興奮気味に目を輝かせながら、
「
これは近隣諸国どころか、皇国にも負けない力を得たことになるぞ」
皇国、というところで、私を見下すように笑った。
……開花も使いの誕生も、とんでもない勘違いなのに。
ルシオラの力が強まっていた理由は……。
私のそばにいたからだ。
すごい勢いで吸いまくっていたのはわかっていた。
初めは手伝ってくれるなら、と
結局は、良いことも悪いこともしない人だし良いか、と放置したのだ。
そもそもなぜ、メイナが枯渇した城下で、私は問題なく作業できるのか。
”
ごくまれに”
”みずからメイナを生み出すことができる者”も存在する。
私はその、
皇国には私の他にも数人いて、みな何らかの重要な役割に就いている。
そして私のメイナはその中でも”特別”であり、
常に無尽蔵に湧き、その質も他のものとは次元が異なっている。
だから”神霊女王の蘭”が咲くし、
ちょっと吸引しただけでもしばらく威力が続くのだ。
確かにこの状況では、夢見がちなルシオラが勘違いするのも仕方ない。
申し訳ないとさえ思う。
でも、少し冷静に考えれば、高まったはずの力はすでに、
どんどん減っていってることが感じられるだろう。
それにもう一度花を触ってみたりすれば、
今度は咲かないことに気づく…………ん?
いやいやいや、それはマズイでしょ。
じゃあ、なんで咲いたんだって話になってしまう。
そして芋づる式に……
……仕方ない、このまま勘違いしておいてもらおう。
……ああ、もっと気をつけていれば良かった。
まだまだ未熟だな。帰国したら御祖母様に怒られそう。
気を取り直して、私は最後の望みをルシオラに託す。
”ごっこ遊び”ではなく、本物の使いになってくれるのかと。
「では使いとして、皆のために力をお使いくださいますね?」
「えっ?」
ルシオラの顔から笑顔が消える。
あの魔獣を思い出したのだろう。嫌というように横を向いてしまう。
話をすでに聞いていたらしい王子が、ルシオラをかばうように前にでる。
「メイナは選ばれた者のみの力だ。だから選ばれた者のみに使う」
つまり国民に降りかかっている数々の厄災のためには
一切使わないってことか。なにが選ばれた者のみだ。
「お前もそろそろ、ほっといていいぞ?
最近は問題も減ってきたんだろ?
また、ホントにやばい状況になってからでいいんだよ。
あんな下等なやつらにバンバン使って、もったいない」
私は我慢の限界に達した。
「メイナは万人が持ちえる、万人のための力です」
いつもニヤニヤと私を見ていた顔が、
すっと見たことないまでに険しいものになる。
「何をいってるのだ、お前は」
「私は国内の危機を手助けするため、こちらに参りました。
メイナの掟どおり、皆のためにこれからもこの技を使います」
メイナの掟、でルシオラを見遣る。彼女は目をそらした。
王子は見下ろしたまま、怒りに震えている。
反論されるのも否定されるのも、免疫がないのだ。
「……身分が低い奴は頭も悪いようだな。出ていけ、クズが」
こうして私たちは決裂したのだ。
************************
そうして今日。国外追放が言い渡されたのだ。
こういうときだけ仕事が早いね、王子。
私にあてがわれた部屋に入ると、
すでに女官数人が断りもなく部屋に侵入していた。
荷物をまとめているのを、じーっと監視している。
なんか盗むと思ってるのかな。かなり不快な気分だったけど、
小さなトランクにまとまった荷物を見て、彼女たちはうなづきあう。
「荷物は以上でよろしいですわね? では、すぐに退出願います」
はいはい、言われなくても出ていきます。
全て王子の思い通りということは、他の宰相や大臣も承知してるってことか。
私が働いたせいで、自分たちへのありがたみが皆無になっただけじゃなく
国民の不満がはっきりと表面化するようになってしまったもんね。
さっさと私を追い出して、また自分たちに頭を下げさせたいんだろうけど
そうはいかないんだから。
しかもこの二か月で、ほとんどの中継機を破壊したから
城に集まるメイナが激減してて、さらに焦ってるんだろうな。
全員が私以下の能力だと、国民にバレる前に、
パルブス国から出て行って欲しかったというのもあるだろう。
それでは皆さま。ごきげんよう。
そうそう、次回期日はこちらから指定させてもらいますね。
次に会う時には、あなたがたは全員被告人ですから。
そのまま、私はパルブス国を後にした。
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