ある日突然クラスから孤立した私を、中学からの友達だけが受け入れてくれた

下等練入

第1話

「ねぇ! ねぇってば! なんで無視するのっ!」

 

 受け取り手が消えてしまった私の声が虚しく教室の雑音に飲まれていく。

 おかしい、なんか避けられてる気がする。

 私が気が付いたのは今朝登校してからだ。

 ここ数日。というか入学してから数か月、私が挨拶すれば大抵は返ってきたしそうなるように努力してきた。

 ただ今日は誰も挨拶を返してくれないどころか、目すら合わせてくれない。

 昨日無視されるようなことをしちゃった、みたいな記憶はないし……。

 それに昨日まではちゃんと返ってきたし、放課後LINEを送ってもいつも通りだった。

 え、私なにかやらかした?


「あのさ、佐々木ささきさん。私なにかやっちゃったかな? なんか朝からみんなに無視されてるんだけど」


 ペアワークを命じられた際に隣の席の佐々木さんに尋ねてみる。

 さすがにペアワークでなら無視しないだろうという打算がなかったと言えば嘘になる。

 それでも最近よく佐々木さんから話しかけてくれるようになったし、彼女だからという一縷いちるの望みに賭けたという気持ちも少なからずはあった。

 ただ期待したような答えは返ってこない。

 彼女はただ俯いたまま「ごめんなさい……、私どうしたら……」と言うだけで、ほかの人と同じく私とは目すら合わせてくれなかった。


 ◇


 午前の授業が終わっても私の存在はクラスから消えたままだった。

 その空気感に堪えられず逃げるように教室から出ると、足は自然と中庭に向かっていた。

 中庭に着くや否や、ため息とともに押さえていた言葉があふれ出す。

 

 「どうしたらいいんだろう?」


 ただここなら意図的に無視されることはないし、私を視界に入れてもまるで見ちゃいけないもを見たかのように急に視線を逸らされることもない。

 それだけで気が楽だった。

 それでも無視された理由も、それをやめてもらう方法も思い浮かばない。

 

「はーっ」


 私今日何回ため息つけば気が済むんだろう。

 午後も、明日も、その次の日もずっとこの状態が続くのかと途方に暮れていると、急に冷たい感触が頬に触れた。


「ひゃっ!」


 さっきから鬱々うつうつとした声しか出てなかった口からは想像できないような高い声が漏れ出す。

 

「どうしたの未来みらい? そんな辛気臭い顔して」


 ひやりとした感覚がおそった頬の方を振り向くと、中学時代からの友人である紅葉もみじがいた。


「なんだ紅葉か! びっくりさせないでよ」

「ごめん、ごめん。なに悩んでるの?」

「え、悩んでるように見える?」

「見えるというか、なんかそんな気がした」

「紅葉には隠し事は出来ないね。実はさ――」


 私が話している間、彼女は無視することなく真剣な様子で話を聞いてくれた。

 適当なタイミングで相槌あいづちまで入れてくれて、たった数時間しか無視されてないはずなのに話を聞いてもらえていると思うだけで涙が溢れてしまう。

 紅葉が友達でいてくれてほんとによかった。


「辛かったよね、無視されて。私はそんなことしないから大丈夫だよ」


 私が言葉を詰まらせ始めると、彼女はそっと私の背中を撫でてくれる。

 

「なんでそんなことになったのかわからないし……、どうしたらいいのかなって」

「確かにね、原因がわからないとねー。ただ安心して、私はたとえどんな未来でもずっと一緒に居るからね」


 抱きしめながら背中をさすってくれていたせいで彼女の顔を見ることは出来なかった。

 ただ彼女の優しい声が全身を包んでくれた気がした。


「……ありがとう、紅葉」

 

 ◇


「変態」

 

 彼女と別れて廊下を歩いているとささやくような声が聞こえた。

 振り返ると、さっきすれ違った人たちがこっちを見ながらクスクスと笑っている。

 

 「は? ねえそれ私のこと?」

 

 すれ違った人たちは私が言い返してくると思っていたなかったらしい。

 すこしうろたえたあと、すぐに悪びれる様子もなく答えた。


「そうだけど? なに?」

「人のこと変態とか言うのありえなくない?」


 私がそう言うと彼女たちは何がおかしいのか声を上げて笑い始めた。


「笑ってるだけじゃわからないんだけど」


 私が詰め寄っても、彼女たちはまだ余裕そうに笑っている。

 

「自覚ないの? やば、ホンモノじゃん」

「いいから変態って言うくらいなら証拠見せてよ」


 そう言うと彼女たちは「ダルッ」と漏らしながらスマホの画面を見せてきた。

 そこには1枚の画像が写っている。

 それは、私が首輪を付けながらうるんだ目でレンズを見つめている写真だった。


「え、これって」


 確か数日前、紅葉に絵を描きたいからモデルになってほしいと頼まれて撮ったときのものだ。

 撮った時は恥ずかしかったが、紅葉にかわいいと言われ意外と嬉しかったのを覚えている。

 それをなんで、紅葉以外の人間が……。

 

「ようやく自覚できた変態さん?」


 彼女たちは私にさげすむような目を向けながら尋ねてきた。

 

「なんで、あんたらがこれをっ!」

「なんでって、グルチャに出回ってるし。自分で流したんじゃないの?」


 彼女たちは相変わらずこちらを馬鹿にするようにお互いの顔を見合わせながら笑い続ける。

 

「いや、違う。私じゃない……」

「じゃあ誰が?」

「知らない……、けど心当たりなら……。ねえこの写真もらってもいい?」


 この写真を持っているのは紅葉しかいないはずだし、漏れたのなら彼女から以外ありえない。

 ただ私の頭の中では必死に彼女が意図的に漏らしたのを否定しようと考えが巡っていた。

 大丈夫、これを紅葉に見せればきっとなにか言ってくれるよね。

 もしかしたら、乗っ取りとかにあったのかもしれないし。

 

「……別にいいけど」


 多分まだ中庭にいるはず。

 何度か人にぶつかりそうになりながら廊下を駆ける。

 大丈夫だよね、紅葉。

 信じてるよ。

 息を上げながら中庭に着くが、彼女はあの写真が漏れていると知らないのか呑気に座っていた。

 

「紅葉!」

「あ、未来!」


 私に気が付くとさっきと変わらない笑顔で大きく手を振ってきた。

 ただ今はそんな彼女を見ても手を振り返す気分ではない。


「ねぇ」

「ん? なに?」


 肩で息をしながらやっとのことで話しかけても、彼女はいつも通りに返してくる。

 

「この写真ほかの人が持ってたんだけど、なにか心当たりある?」


 先ほどの写真を見せると、彼女は少しだけ口角を上げた。

 

「あーバレちゃった?」

 

 悪びれもせず彼女は言った。

 え、やっぱり紅葉がやったの?

 何かの間違いだって言ってよ。

 彼女の顔を見た時、背中が粟立つのを感じながら私はまくし立てる。


「バレちゃったってどういうこと! まさか紅葉が広めたの?」


 ただいくら私の声に怒気を含ませても、彼女は今日の夕飯の予定でも話すかのように淡々と話し続ける。

 

「そのままの意味だよ」

「そのままの意味ってどういうこと?」

 

 そう言うと彼女はさもおかしそうにクスクスと笑った。


「未来って意外と察しが悪いよね。まあそういうところも大好きだけど」

「ならなに、本当に紅葉が私の写真流したって言うの?」

「そうだよ」


 嘘でしょ……。

 できることなら今すぐこの場から逃げ出して、今日をやり直したかった。

 ただそんなこと出来ないことぐらいわかってる。

 言葉の代わりに嗚咽が出るのをなんとか抑えると彼女に尋ねる。

 

「なんでそんなことをっ」

「なんでって、未来に余計なのが寄ってこないようにだよ。なんか最近未来と仲良くなれるとか思ってる身の程知らずのやつもいるみたいだしね」

「そんな人なんか、いな――」


 そう言われて、なぜか真っ先に頭の中に浮かんだのは隣の席の佐々木さんだった。

 まさか彼女なの?

 そんな隣の席で話すようになったからって、それだけの理由で……。


「心当たりがいたみたいだね」


 わかんないよ。

 なんで佐々木さんと話すようになっただけで、あんな写真流されないといけないの?

 彼女に対しなにもいうことが出来ずただその場に立ち尽くしていると、彼女は続けた。

 

 「けどそんな人必要ないから。未来には私だけがいればいいでしょ」


 嘘っ。

 なんで……。


「え、なに言ってるの?」

 

 心の奥底から何かがガラガラと崩れる音が聞こえる。

 目の前にいる紅葉はいつもの私が知ってる紅葉じゃないみたいで、彼女の行動も発言もなに一つ理解ができなかった。

 そんな私を、彼女はさっき慰めてくれた時のように抱きしめながら言った。


「安心して私はたとえどんな未来でもずっと一緒に居るからね」


――――――――――――――――――――――――――――――


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