第5話 放課後デート
授業が終わればそのまま放課後だ。朝の約束通り桜井くんが私のクラスまでやってくる。
「冬香ごめんね。今日の放課後は彼と約束してて。」
「いってらっしゃい。じゃあ今日は私は心の準備をしておくね。」
冗談ぽく笑ってウインクする冬香。同い年のクセにドキッとするほど色っぽい仕草に、また赤くなる私。待て待てこちとら中身アラフィフだぞ人生経験3倍だぞ。だけど私にはこんな色気を醸し出す事はできる気がしない。私に色気が無いのは認めるがそれをさしおいても大した小悪魔やでぇこの娘は……。
「じゃあ帰ったらメッセージ送るね。」
なんとか冬香に手を振り、桜井くんのところへ向かう。
「桜井くん、お待たせ。」
「お、おう。じゃあ行こうぜ。」
連れ立って学校を出る。テストどうだった? ぼちぼちですな。そんな会話をしつつゲームセンターに向かう。
「そういえば廿日市さ、粉雪さんとなにかあったの?」
「なんで?」
「なんか昼休みに手を取り見つめ合ってたらしいじゃん。」
「ちょ、なんで桜井くんが知ってるの!?」
「いや、さっき教室の前で廿日市のクラスメイトに聞いたんだよ。お前の彼女、昼休みに百合ップルしてたぞって。」
「うそ!? 何それ!?」
「マジなの?」
「いやいや百合ップルとか私と冬香はそういうのじゃないから!」
「でもさっき教室で顔赤くしてたじゃん。」
「それはあの子が小悪魔だから……。」
「小悪魔ってなんだそりゃ。でも確かに粉雪さんって美人だよな、実際かなりモテるし。粉雪さんのこと好きな男子って実は多いんだぜ。俺も何人か知ってるし。」
「あぁー、やっぱりそうなんだ。」
冬香は美人だし基本的に人当たりもいいし小悪魔だしついでに胸も大きいので男子に人気が出るのはわかる。
「まあでも冬香と付き合いたいなら私を倒した上で交換日記から始めて貰わないと。」
「交換日記とかいつの時代だよ。というかなんで廿日市を倒さないといけないんだ。」
「そりゃあ親友ですし? 変な虫がつかないようにしっかりガードしないと!」
「そういうのはお父さんの役目だから!」
そうこうしているうちにゲームセンターに到着する。2人でどのゲームで遊ぼうかなんて話しながら店内をブラブラする。
「あ! このぬいぐるみカワイイ!」「俺、クレーンゲームは苦手なんだよな。」
そんな食い気味に拒否しなくても、別に取って欲しいとは思ってないよ。ただ「ほんとだカワイイな! お前の方がかわいいけどな(照れ」とか「取ってやろうか? チャリーン」「がんばってー……残念だったね、次は私がお金出すからあっちのゲームしよう」とか、そういったやり取りを楽しもうと思えないのはどうかと思うよ?
「なあクレーンゲームよりあっちの音ゲーやろうぜ。」
「うん。いいよ。」
「俺音ゲー得意なんだ!」
意気揚々と100円を入れて迷いなく1人プレイを選択する桜井くん。カッコいいところ見せたい気持ちは伝わってきたけどそういうところだぞ。
よく知らない曲を選んで得意のテクを披露する桜井くん。ふむ、画面の上からバーが下がってきてタイミングよくタッチパネル上の鍵盤を叩くのか。長いバーの時は鍵盤を押しっぱなしにするのね、押しっぱなしで左右に振れることもあると。初めてみるゲームだけどすごい速さでどんどん落ちてくるバーをミスなく対応しているところを見るに相当やり込んでいるんだろう。ほどなくして曲が終わる。
「よし! パーフェクト! なあ廿日市、どうだった?」
「スゴイネ。」
「だろ? もう一曲やるから見ててくれよ!」
そういって別の曲をプレイし始める。さっきよりも難しい曲のようでちょいちょいミスをしている。
「なんとかクリアーできたな。」
「お疲れさま。ねぇ、私もこれやってみたいんだけど2人で遊べないの?」
「え、遊べるけど200円かかるんだよな……。」
「じゃあ私が出すよ。……この【対戦モード】でいいの?」
「おう。じゃあ廿日市は隣の台に立ってくれ。同じ曲をプレイして得点が高い方が勝ちってルールなんだ。」
「りょーかい。どの曲にしようかなー……あ、この曲知ってるからこれにするね。若葉マークついてて初心者向けっぽいし。」
「一定回数ミスするとゲームオーバーで、2人ともゲームオーバーになるとそこで曲が終わっちゃうからな。じゃあ始まるぞ。」
ゲームが始まる。初心者向けの曲だけあってバーはゆっくり下りてくるしその数も少ない。最初は鍵盤を叩くタイミングがよく分からずミスを連発してしまったものの、そのうちやり方がわかってきて無事にクリアーすることができた。
「さすがに簡単だったな。」
「とりあえずクリアーできたしコツは掴んだと思う。次は桜井くんが好きな曲を選んでいいよ。」
「ホントか? じゃあこの曲で。」
そういって彼が選んだのはおそらく最高難易度の曲。初心者相手に容赦無いなと思うが、これから試すことを考えるとちょうど良いかな。曲が始まる。1曲目と違ってバーが下りてくるスピードはかなり速くその数も段違いだ。鍵盤を叩くタイミングは1曲目で覚えたので、私は『身体強化』を発動する。この速さに即興で対応するのが動体視力の強化具合を確認するのにちょうど良さそうだと思ったからだ。ハイスピードで下りてくるバーを強化された動体視力で認識し、キーを叩いていく。
「思ったより上手くできたかな。」
結果は良好……というか、普通に対応できてしまった。さすがに初心者の私がクリアーすると桜井くんに怪しまれる気がしたので適当なところでわざと間違えてゲームオーバーになっておいたが、肝心の動体視力はたぶんバーの速さがさらに2倍になっても対応できる気がする。このゲームではこれ以上は測れないかな。
「桜井くんはクリアーできたんだ? すごいね! 楽しかったね!」
「へへ、まぁな!」
「次はどうする?」
その後、いくつかゲームを楽しんで……主に桜井くんが得意なゲームをするのを横から見ていただけだが……私達はゲームセンターを後にした。駅で彼と別れると電車に乗り適当に『超感覚』と『気配察知』の練習をしつつ家路に着く。
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その夜。
桜井翔一は今日のデートを振り返る。
同じテニス部の女子部員である廿日市かのん。1年生の頃はさほど話す機会が無かったものの2年に進級し共に新入生の指導役となった事から交流が増え、徐々に気になり始めた。と、同時に彼女は男子からの人気が非常に高い事を思い出して焦りを覚える。彼女は教室では粉雪冬香と一緒にいる事が多いが学年トップレベルの2人が常に並んでいることで、男子の中で校内の誰がイイかなんて話をすれば「美人系の粉雪派」か「可愛い系の廿日市派」かは毎度あがる話題の1つであった。このまま誰かに先を越されるぐらいならと意を決して告白したのが2週間ほど前。了解を得られた時は嬉しかったし、それと同時に同級生に対する強い優越感を得る事もできた。
そんな彼女との初デート。あわよくば進めるところまで進みたいという自分の下心を知ってか知らずか、近づこうとすると彼女はさりげなく距離をとり結局手を繋ぐ事さえできなかった。とはいえゲームセンターではいいところは見せられたはず。明日からは部活も再開するしなにより2週間もすれば夏休みだ、会う機会が増えれば距離も縮まるさ。高校2年の夏休み、俺はオトコになる!
そんな妄想めいた決意をした彼のスマホが震え廿日市かのんからのメッセージを受信する。そこには今日は楽しかったねの一言と共に、明日の放課後に話したいことがあるから時間が欲しいとの旨が記載されていた。部活中や部活後ではダメなのかと返したところ、部活前が良いとのこと。とりあえず了承のメッセージを返す。
…なんだかイヤな予感がした。
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粉雪冬香は廿日市かのんからのメッセージを確認するとベッドに身を投げた。
「週明け、か。」
かのんからのメッセージでは自分に『嘘を見破る呪術』をかけるのは明日の金曜日ではなく、週明けの放課後にして欲しいとの事であった。
「…やっぱり確定なのかな。」
彼女の夢であって欲しいとは思っていたし、仮に夢でなかったとしても異能力は失っていて欲しかった。だが、かのんは実際に呪術を行使できたと言った。
「報告しないといけないよね。…どうしよう。」
厳密に言えば今の冬香には報告義務は無い。だが黙っていることはマイナスにしかならないし、何かの弾みでバレてしまった時に何故判明した時点で報告しなかったのかという追求は逃れられないだろう。
「とりあえず様子見しかないかぁ…。」
問題の先送りでしか無いことは分かっているが、まだかのんが急に厨二病を発症した可能性だって残っている。かのんは冬香に嘘は吐いていない。だが本人にとって真実ならそれが事実と異なっていても嘘を吐いたことにならないため、冬香はそれを察知することができない。
「とはいえ、異世界だ呪術だの話が全部妄想だしらそれはそれであの子が心配なんだけど。」
それでも、彼女の異能が察知され『管理対象』、さらに『駆除対象』となりえるリスクを考えば。深刻な厨二病の方が何倍もマシかもしれないなとそんな事を思うのであった。
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