第2話 異世界時代を振り返って

 学校最寄駅の近くにあるファストフード店にて、セットのハンバーガーを食べ終わった冬香がポテトをくわえながら、さぁ! といった姿勢で聞いてくる。


「じゃあさっきの件について聞かせてよ。異世界で結婚したら浮気になるかって話だよね?」


「そんな前傾姿勢で聞いてくるような話でもないって。」


「朝から様子がおかしいとは思ってたんだよー、なんか昨日までと違って落ち着いてるっていうかさ。こう、まとってる雰囲気が違うんだわ。まさかの異世界帰りだとは。」


「そんなの分かるのって冬香くらいだわ……。」


「そんな事ないってー。私の事はいいから、早くかのんの話を聞かせてよ。異世界に召喚されて王子様とラブロマンス、からのゴールイン!?」


「そんな楽しい感じでもなかったんだけどね、まあ私もちょっと状況整理したいし話聞いて貰おうかな。」


 あくまでも夢の話だと思って聞いてね、と前置きして私は召喚されてからの事を話し始めた。


「こっちの世界では昨日の話になるけど、晩ご飯のあとテスト勉強してそれが終わったらお風呂に入って、寝たのは夜11時半くらいだったかな。それで起きたら私の部屋じゃなかったの。なんか立派な神殿みたいなところで、足元で魔法陣が光っててね。すぐそばに私以外にもう3人、ひとりは女の子だったんだけど、同じように混乱して周りをキョロキョロしてる人達がいて『ああこの人達も同じ状況なんだ』ってちょっとだけ安心したんだ。それで魔法陣の光が消えたら周りがよく見えるようになってきて、王様とかお姫様とか大臣とか要するに国の偉い人たちが喜んでて、私達に話しかけてきたの。この国は魔族に攻められていて国に伝承された秘術で救世主を召喚しました、どうか我々を助けてくださいってそんなことを言ってたっぽい。」


「よくある異世界モノの冒頭だねぇ。なんか強いスキルとかが与えられて、ステータスオープン! みたいな感じ?」


「スキルとかステータスとか、そういうのはなかったね。そもそも言葉が聞いた事ないもので、何言ってるかさっぱりわからなかったんだよね。だからさっきの救世主どうのっていうのは言葉がわかるようになったあと、改めて召喚された時に何を言っていたか教えてもらったの。最初はお互い身振り手振りで意思疎通。一緒に召喚された3人は日本人だったからそこは言葉が通じたからね、4人でこの人たちは何言ってるんだろって相談しながら。」


「うわ、言葉が通じないのは大変だね。異世界言語理解スキルとか、それに変わるアイテムみたいなのってなかったの?」


「なかったね。異世界っていってもゲームみたいなレベルとかスキルがあるわけじゃなくて。だから言葉は最初に必死で覚えたよ。2、3ヶ月もすればなんとか日常会話ができるようにはなったんだけど……それこそ魔王だの魔法だの日本の常識にない概念はなかなか理解できなくて、結局召喚された目的が分かるまでには半年くらいかかっちゃったかな。」


「それって3ヶ月でゼロから話せるようになって、半年でペラペラってことだよね? すごくない?」


「ホントに必死だったんだよ。全然知らない場所に4人で放り込まれてなんか衣食住は提供してもらえてるけど相手の目的もわかんないし、もしもこのまま無一文で外に放れ出されたらどうしようって不安は常にあったしね。だから魔王を倒して欲しいって言われた時は逆に少し安心したんだ。ああ、だから丁寧な対応をして貰えてたんだって。」


「なるほどね、いきなりハードモードだったわけか。それで目的もわかったところでいざ魔王討伐の旅へって感じ? でも強いスキルは無いって言ってたよね?」


「そうだね、私達が召喚されたのってそれぞれがあの国にとって都合の良い『才能』を持ってたからなんだ。魔王を討ち取るために必要な『才能』の持ち主をこっちの世界から召喚するって言うのが、私達を呼び出した儀式だったらしくて。」


「『才能』ってスキルとは違うの?」


「厳密にいうと違うかな。例えばゲームでよくあるファイヤーの魔法を例に取ると、スキルを取得すればその場でファイヤーの魔法を使えるようになるってイメージだと思うんだけど才能の場合はあくまでも努力すればファイヤーの魔法が使えるようになる素質があるって感じ。逆にその才能がない人はどれだけ努力をしてもファイヤーは使えるようにならないの。だから私たちは『才能』って言い方をしてたんだ。」


「なるほどね、それで魔王討伐に必要な才能っていうのはなんだったの?」


「まずは『勇者』だね、これも勇者って職業があるわけじゃなくて、一番勇者っぽいから私達が勝手にそう呼んでただけなんど。具体的には『聖剣を扱う才能』かな。召喚された国には代々伝わる国宝の聖剣があって、それこそ斬撃を飛ばしたり持ち主は信じられないくらい身体が強化されたりってすごい剣なんだけど、この才能がない人が使うとそれがどんなにすごい剣豪だったとしてもただの頑丈な剣なんだって。で、勇者は聖剣を扱う才能があったからすごい力を剣から引き出せるように毎日訓練するようになったんだ。」


「勇者! 王道だね!」


「次は『聖騎士』かな。彼の才能は『聖なる盾を扱う才能』。さっきの聖剣と対になる盾もあってこっちはどんな攻撃や魔術も防ぐ防御力と持ち主を癒す力を持ってるって感じで、勇者と一緒にお城の騎士達と訓練してたよ。」


「勇者と聖騎士ときたら、女子は回復職かな?」


「鋭いね。『聖女』って呼んでたんだけど、彼女の才能は『回復術特化』。向こうの世界の回復術ってそこそこ才能がある人が使っても軽い傷や打撲が治ったり、痛みがひくぐらいのものらしいんだけど、彼女の回復術はその何倍も凄くて。怪我は骨折ぐらい簡単に治しちゃうしお腹とか刺されて普通なら死んじゃうような傷でも彼女なら何とかしちゃう事が多かったな。病気も治せるし虫歯まで治した時は思わず笑っちゃった。才能自体の強さで言ったらあの子がダントツだったと思うよ。勇者も聖騎士も強かったけどそれは武器の強さに依存してた。聖女の強さは彼女自身のものだったから。」


 それでいて、鼻にかける事なく最後まで私達と対等に接してくれた彼女は間違いなく親友であった。


「最後は私の才能だね。自分で言うのはちょっと照れるんだけど、みんなからは『魔女』って呼ばれてた。『どんな魔術も呪術も覚えることができる』って才能。」


「えっ! すごいじゃん! RPGでいう賢者って感じだけどそこは魔女なんだね。」


「勇者は『賢者』でいいんじゃないかって言ったこともあるんだけどね。回復術は使えなかったから怪我や病気なんかを治せなかったのと、魔術だけじゃなくて呪術も使えるってところから『魔女』の方がイメージに合うって事で。」


「なるほど、呪術のイメージに引っ張られてる感じだね。でも魔術と呪術って何が違うの?」


「魔術は外に作用する、呪術は内に作用するってのが基本かな。ファイヤー! とか火を出すのが魔術で、スリープ! とか言って寝かせるのが呪術。でもこの才能は他の3人に比べると微妙な感じだったかな。」


「なんで? 十分すごいじゃん。」


「簡単に言うと、私の才能だけは替えが効くんだよね。魔術と呪術の両方が使える人は確かにいないんだけど、それぞれのエキスパートは王国に居たんだ。その2人が私の師匠になってくれたんだけど魔術も呪術もそれぞれのレベルは師匠たちとトントンだったし。最悪私が死んでも彼らが代わりに戦ってくれればなんとかなったんじゃないかな?

 だから私が召喚された理由って魔女としての戦力より、他の3人のバランス取りだったんじゃないかなって思ってた。」


「バランス?」


「端的に言えば嫁要員。」


 ブフォッ! 冬香は飲みかけたジュースを吹き出した。私は慌てずにトレーを拭きつつ話を続ける。


「大体お年頃の男女がずっと一緒にいたら好いた惚れたがあるのは仕方ないじゃない? ただでさえ4人しかいない同郷だし、王国側の配慮で訓練以外の座学や食事なんかは一緒の機会も多かったしね。」


「それで嫁要員ってなんだよ!?」


「だから、必然的に4人の中で恋愛関係が出来上がりがちなのよ。それで勇者と聖騎士と聖女しかいなかったら、男のどっちかがあぶれちゃうじゃない? あぶれた方が聖女を好きだろうとなかろうと、2人がイチャイチャしてたらやりづらいと思わない?」


 実はこれは実体験である。いつの間にかくっついていた勇者と聖女、表立ってイチャつくようなことはしていなかったがふとした時に醸し出される甘いオーラ。1人だったら気不味くなるしかなかったが、私と聖騎士が時には気を遣い時には冷やかしとなんだかんだ上手くやっていくことができたのだ。


「あー、それでもう1人とくっつく要員として召喚されたって事?さすがにそれは邪推し過ぎじゃないかなぁ。」


「実際のところはわかんないけどね、結果として勇者と聖女がくっついて、私は聖騎士と結婚したって事だよ。」


「そう! そこ! ぶっちゃけ異世界召喚の細かい設定はわりとどうでも良くてだね! 私としてはかのんを射止めたその聖騎士殿の話を聞きたい!

 一応、こっちの世界に彼氏がいたわけじゃん? なのに異世界で恋人作って結婚までしちゃって、かのんって浮気とかするタイプじゃ無いと思ってたんだけどどういう心境の変化があったわけ?」


「う〜ん、勇者と聖女はわりと早い段階から付き合ってたからなんだかんだ聖騎士と行動する機会は多かったのね。でも恋人っていうよりは戦友! って感じが強くてそれは向こうもそうだったと思う。

 いざ戦場にでるようになって。訓練で才能を引き出した私たちってやっぱり戦力として一級で最前線で戦う事が多かったんだけど、そうなると防御の要は聖騎士なんだよね。聖なる盾って自分だけじゃなくて、周りにいる仲間まで結界みたいなので守ってくれるの。」


「守ってくれる彼にキュン?」


「実際戦場じゃそんなこと考えるヒマはなかったけど……でもそうだね、やっぱり自分のために命を掛けて護ってくれる人なんてそういないじゃ無い。そういう意味ではちょっとずつ意識しちゃってたのかなぁって思う、いま振り返ると。」


「くぅー、青春してるね!」


「冬香が思うような甘い感じじゃないからね? ホント戦場では大変だったし、そこは正直あんまり思い出したく無い部分かな。」


 魔王とか勇者とか、そんなファンタジーな言葉で濁している私も意図的に説明を省いているがあれは悪の魔王が人間を滅ぼすっていう勧善懲悪モノではなく、人族対魔族の戦争だった。戦場で戦うのはゴブリンやオークではなく、ヒトの姿をした魔族。そんな戦争の最前線で戦った私たちは当然、多くのヒトをこの手で殺めた。勿論その行為に対する忌避感は大きく、一番メンタルをやられて鬱っぽくなってしまった私を精神的に一番支えてくれたのが他ならぬ聖騎士で、彼に依存してがっつりメンヘラ女子だった時期の黒歴史もある。

 そんなドロドロな部分まるっと端折ってさっさと魔王討伐後の話に移る。


「まぁ魔王はなんだかんだで討伐できてね。でも元の世界には戻れなかったんだ。」


「え?」


「魔王を倒して、王国に戻って。王様やお姫様に元の世界に戻してくれって頼んだけど、召喚する儀式は秘術として国に伝わっているものの送還するほうは知らないって。伝承では役目を果たした勇者達は還っていったとあるから、あちらとしては私達が勝手に自分の世界に帰ると思ってたって。そんな方法知ってたら、初めから魔王なんかと戦うわけないのにね。」


「何それ酷い!」


「私達も同じように怒ったよ。でも詰め寄ったところであちらも本当に知らなかったからどうしようもなかったんだよね。だから私達はでは勝手に帰らせて頂きますっていって旅に出ることにしたの。どこかに元の世界に帰る方法がないか探す旅にね。」


「ほぉー、第2部突入ってわけか。」


「王国側とかなり剣呑な感じで別れて半ば強引に旅に出たんだけど、魔王は倒しても魔物……いわゆるゴブリンとかオークみたいなファンタジーなやつを想像してくれれば良いんだけど、そういうのはフッと消えちゃうわけじゃなくてね。相変わらず人々に害があったから、そういうのを倒しながら旅を続けたんだ。」


 魔王率いる魔族と、ヒトに害をなす魔物は全く別物であり、なんなら魔族だって魔物の被害に遭っている。私達がもたらした勝利はあくまで王国を戦争で勝利に導いただけのことであった。


「そんな旅をしながらも元の世界に帰る方法を探してたんだけど、正直そんなもの見つからないんだろうなってみんな感じてたと思う。少なくとも私は半ば諦めてたな。この4人で楽しく旅を続けてどこかの村にでも腰を落ち着けて静かに暮らしていくのも悪く無いかなって思い始めてた。それでも勇者と聖騎士は粘り強くもっと探そうって言い続けたけどね。」


さて、ここからはダイジェスト……というかもう端折ってゴールでいいかな。


「それで、何年か旅したんだけど結局帰る方法は見つからなくてね。最後は郊外の小さな街に落ち着くことになったんだ。そこで勇者と聖女がやっと結婚しようって話になって、そうしたら聖女があなた達はいつになったらくっつくのって私と聖騎士に聞いてきて。せっかくなら合同で式をあげようって。」


「え、何その超展開!?」


「そうなんだけど、その頃には私ももう聖騎士の事が好きだったし向こうもそうなんだと思ってた。ただ、なんとなくきっかけがなくて恋人になるタイミングがなかったというか。だからいいタイミングだし私達も結婚する? って聞いたら聖騎士が顔真っ赤にして『しばらく待ってくれ』って言って。振られちゃったかなって思ったら数日後に指輪くれてね、きちんとプロポーズしてくれたの。」


「それで結婚かぁー! なんか思ってたより壮大な話だったわ。確かにそれだと浮気って感じじゃ無いねぇ、そもそも帰って来れなかったわけだし。……ってあれ? 帰って来れなかったんだよね? なんでかのん今ここにいるの?」


「だから、夢の話って言ったでしょ。そこで目が覚めたんだよ。」


「待って待って、ここまで壮大なストーリー聞かされて夢オチは酷いじゃない。」


「夢だもん、そんなもんだよ。」


「いーや、納得しない! 大体ところどころ端折って話してるのはわかってるんだからね。それで結末がスッキリすればいいけど、その結末はないんじゃない?!」


 ズイッ! とポテトを突きつけてくる冬香。私はそのポテトを頂きながら、最後まで話す事にした。


「はぁ、ここで終わった方がファンタジーで良かったと思うよ? 最後は楽しい話じゃないし。」


「まさか4人の中で愛憎の縺れ、第3部昼ドラ編!?」


「みんな死んじゃった。」


 えっ、と思わず固まる冬香。


「最初は勇者で、次が聖騎士、その次が聖女で最後が多分……私。みんな同じ病でね。最初は咳とちょっと熱がでて、軽い風邪かなって感じなんだよね。当人は特に辛いとか苦しいわけでもないんだけど、熱がでてから1ヶ月くらいかな。ある朝そのまま目を覚さないの。眠るように息を引き取るというか。」


「伝染病?」


「ある意味そうなのかな。みんなかかった時期が違ってさ。勇者の後、5年くらいしてから聖騎士がかかって、聖女はそこから12、3年くらいかな。私はさらに5年って感じ。聖女の回復魔法は風邪や流行病なんてすぐになんて治しちゃうから、彼女に治せない病って何か理由があるんだろうと思って聖女と私で徹底的に調べたんだよね。それでちょっと前に話した王国に伝わる伝承の役目を果たしたら還って行ったってやつ。その原典っぽいのを見つけてね。たぶん召喚者が使命を果たしたから寿命が尽きたってことなのかなって落ち着いて。だったら仕方ないね、その時まで精一杯いきようって話して2人はのんびり余生を過ごしましたとさ。」


「なるほど、召喚者だけがかかる病で世界から排除されるってことか……まぁ筋は通ってるかな。合格で。」


「プッ、何よその合格判定って。」


 どうしても重くなった空気を軽いジョークで盛り上げてくれる冬香につられて私も思わず吹き出す。


「夢オチよりは納得感があったよってこと。じゃあかのんも最後は死んじゃったって事?」


「たぶんねー、例の病にかかって『とうとう来たか』って思って身辺整理してて……までは覚えてるんだけど、私の感覚としては昨夜は魔導書の整理をしててうっかり1冊読み始めちゃって読み進めていくうちに寝落ちして、朝起きたらこの世界に戻ってきてましたって感じ。」


「じゃあ苦しい思いはしてないんだね、良かった!」


「そんなわけで、夢の話はおしまい! なんだけど私の感覚的にはむこうで30年くらい過ごしてたから、時差ボケすごくてさ。」


「それは時差ボケじゃないでしょ!むしろ異世界ボケ? てか30年って長いな!

 でもかのんの話を総合すると、向こうの世界でその病にかかって死んじゃうのが元の世界に戻る方法だったって事なのかな?」


「え?」


「え、じゃないでしょ。現に今こうしてここにいるんだから、還ってくる方法っていうのはあっちで死ぬ事だったんじゃ無いの?」


「ああ、なるほどそういう事か……考えもしなかったよ。魔王との戦いは生き残るのに必死だったからね。無事に生き延びたって思いはあったけどそのあと死ねば還れるなんて誰も思いつかなかったかな。」


「まぁ精一杯生きてて、死んだら元の世界に帰れるかも! とはなかなか思いつかないかもねー。」


 いや、確かに私は思いつかなかったけど聖女はどうだろう。晩年の彼女は本当に穏やかだった。確信はないものの勇者と聖騎士の安らかな死に向き合い、例の原典の記述を合わせてもしかして……ぐらいには勘づいていた可能性はある。


「ということは、みんなも戻ってきてるってことかね?」


「みんなって?」


「鈍い! かのんと一緒に召喚された他の3人のこと! かのんが戻ってきたなら他の3人も戻ってきている可能性は高いんじゃない?」


 そういう事か。探せばまたみんなに会えるのかな? 会いたいな。


「まあ壮大な夢でしたってオチもあるわけで。というか普通に考えたらまず夢なんだろうけど。さてかのんさん、ここで夢かどうかを判定する方法があります。」


「何それ。」


「異世界から帰ってきたらチート能力で現実無双ってこれもよくあるパターンよ。あっちで魔法を使えるようになってきたんでしょ? ここでちょっと使ってみてよ。」


「えっ? 使えるの?」


「それを今から試そうよって言ってるの。簡単な魔法を使ってみてそれができたら異世界召喚。できなかったら夢オチってことで。」


 期待に満ちた眼でこちらを見る冬香。


「向こうで身に付けた能力はこちらでは使えないと思うんだけど。身体だって向こうではもうオバチャンだったけど召喚された時に若返ってるし。」


「かのんって魔法使いの才能があったから召喚されて、向こうで訓練して使えるようになったんでしょ? 才能があって手順を知ってるなら、この世界でも魔法が使える可能性はあるんじゃないかな?」


「言われてみれば一理あるね。じゃあダメもとでやってみようか。」


「はよはよ!」


 何にしようかな。あまり派手なのを使うと周りのお客さんに見られちゃうし、手元で水を操るくらいでいいかな。


「じゃあこのコップに入った水を魔力で操って動かします。」


「お願いします!」


 コップを掴み、その手に魔力を纏わせる。そのまま水に伝えて…この水を魔力ごと自分の体の延長のように動かせば、よし!


「行きます!」


 ………。


 水は全く動かなかった。


「まぁ、そりゃそうだよねぇ。」


 冬香がちょっとがっかりしたように苦笑した。

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