第6話 王立グランベル魔法学園
学生寮を出てから数分後、俺とルーカスはついに王立グランベル魔法学園の正門へと辿り着いた。
「……で、でかい」
「だよな。流石は王国一を名乗る学園なだけあるぜ」
正面には広大な規模を誇る校舎が待ち構えていた。歴史を感じられる石造りの壁面。規則的に並んだ巨大な柱と窓。圧巻の建造美。それはまるで中世のお城のようである。
(ついに来た、夢にまで見た本物だ!)
思わず息を呑み、感動をあらわにした。
すぐそばには学園の正門を跨ぐ数多の生徒たちがいる。その表情は三者三様。生徒によって抱く思いは異なるのが見て取れる。
期待から目を輝かせる生徒。不安を抱き強張った面持ちの生徒。やる気十分で堂々とした生徒。
そんな中、興奮してほくそ笑むゲームオタクが一人。田所ヒロト十八歳、もう彼らよりも三歳も年上である。
グランベル魔法学園とは、王国最大の魔法学校にしてストーリーの中心となる地だ。各国から魔法使いの卵たちがこぞって集っているため、生徒数もかなり多い。
校舎も期待を裏切らない作り込みだ。プレイ中は一番長居することになるこの学園。もちろんその分思い入れが大きい。視界に入るのは見覚えのある場所ばかりだった。
(せっかく来たんだし、まずはしっかりこの世界を堪能しておかないとね)
ゲーム世界を実際に体験するなんて、そうそうできることではない。高揚する気持ちを胸に周りの景色を目に焼き付ける。
目に入る生徒も校舎も見紛うことなき本物だ。ゲームの中でも現実。変わった感覚だけど、少なくともこれが夢や幻の類だとは思わない。寮を出てから時間が経つにつれて、それはさらに実感している。
まさかゲームの主人公になるなんて思いもしなかった。ストーリーが始まったばかりの今はその辺のモブキャラと大差はないけど、俺にはゲームの知識がある。これからいくらでも、望む学園生活を送れるはず。
ゲームの中にしか見出せなかった価値ある体験が手の届くところにあるのだ。ここでなら心の底から人生を楽しめる。退屈なあの日常とはおさらばできる。
これから始まる物語は必ずや自分を裏切らないだろう、と。
そう思い浮かべつつ、校舎を眺めながら移動していく。
「お、見えてきたぞ、ニコラ。あの建物に皆んな集まってるみたいだな」
「入学式があるのはあそこみたいだね」
と、正面に大きなドーム状の建物が姿を表した。
外縁部には剣や魔法の杖、竜などの装飾が施されている。校舎とは違い、少し見栄えを重視した建造物である。
「新入生はこちらでーす! 大講堂内でクラス分けを確認してください!」
大講堂と呼ばれる建物の入り口には教員らしき男性が立っている。案内に従って生徒達は次々と入り口をくぐっていた。
ルーカスは建物を確認すると、すかさずこちらの肩に手を置いた。
「早く行こうぜ! クラスもわかるみたいだし!」
「そんなに慌てなくても大丈夫だって。まだ時間に余裕あるから」
目を輝かせる幼なじみ。でも俺は彼とは裏腹に冷静だった。
(……なんせクラスわけの結果も知ってるからね)
前世の記憶は健在。シナリオに関することなら死角はないのだ。
ルーカスは親友である二コラと同じクラスになれるかどうか、期待とか不安を感じてるんだろう。
クラス分けは入学の日の一大イベント。高校の時なんかは、知り合いが同じクラスにいることを心から願ったものだ。俺ってば人見知りで新しい友達作るハードル高いからね。
だから、ルーカスがクラス分けに注視する気持ちはよくわかる。
だが、そんな予想とは裏腹に。
「このクラス分けで一年間同じクラスで過ごす女子が決まるのか、ワクワクするぜ! ……あ、ついでにニコラも同じクラスだといいな」
彼の眼には同級生の女子のことしか目に入っていなかった。気を使って損した……というか、俺のこと『ついでに』って酷くないか?
少し呆れながら、入学式の行われる建物内へと足を踏み入れた。
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