第5話 見覚えのある街
「ここがエレメントマギアの世界!」
学生寮の外へ出た自身の目に飛び込んできたのは中世ヨーロッパ風の建物の数々だった。
学生寮は学園敷地内ではなく街中に建設されているため、俺とルーカスは学園と寮の間を結ぶ街の大通り歩いている。つい先程、寮を出発したところだ。
「あっ。あの店、ゲームで見たことある。向こうの通りも見覚えあるぞ!」
町には大小種別様々な道具屋、武器屋、宿屋、料亭などが所狭しと並んでいる。中にはシナリオ内で何度もお世話になった店舗も確認できた。向こうの商店では回復薬とかよく買い占めたよな。
このゲームには後々戦闘パートが登場する。その際に消費アイテムの準備を怠るとゲームオーバーになりかねないため、ここらの店には必ず通うことになるのだ。
普通に難易度の高い敵とかストーリーに登場してたからね。またアイテムが必要になったら訪れるとしよう。
その後も見覚えのある街の外観を懐かしみながら足を進めていく。
エレメントマギアの舞台であるグランベル魔法学園は、王国の首都であるグランベル市内に位置している。街の別名は中央都市。王国の中央に存在しており、他のどの都市よりも人口が多いのだ。
それゆえに、数多の商業施設が点在する。流石は王国の首都というべきか国内の物流の拠点となっている……って、ゲームのテキストに書いてあった。納得の町の賑わいだ。
日本とまったく違う周囲の景色は非日常感に溢れている。出店や街を行き交う人々の喧騒。食べ物や薬品のような匂い。まるで海外旅行に来ているような気持ちになっていた。
(ゲームの静止画とは全然違うなぁ。通行人がいるだけでここまで変わるなんて)
当たり前のことだが、背景イラストに描かれている通行人は動かない。こうして生で街の雰囲気を感じるのはとても新鮮な感覚だった。
「やけに辺りを見てるけど、何か珍しい物でもあったのか?」
と、街の外観を眺めながら歩みを進めていたとき、ルーカスがこちらに視線を向けた。どうやらしきりに周辺に関心を示す俺に違和感を抱いたらしい。
「ちょっと街の景色を堪能してただけだよ」
「ふーん、昨日あれだけ街を歩き回ったのによく飽きないな」
「昨日? 今日が登校初日じゃないの?」
「一週間前から寮に入っただろ。王都を色々探検したじゃんか」
なるほど。物語が始まる前にそんなことがあったのか。どうやら主人公は1週間前からこの街に滞在していたらしい。本編にはない情報だ。
「もう街の表通りははほとんど歩き回ったよなー」
ルーカスは頭の後ろで両手を組みながら、何やら思い返すように呟きを落とした。
「裏路地にも結構色んな店があるみたいだし、今度はそういう隠れた名店探ししてみるのも悪くないな。もしかしたら大人のお店なんかも沢山あるかも……」
「……大人のお店って。まだルーカス十五歳だよね?」
大人のお店とは、もちろんやらしい意味でのお店だ。ルーカスはこう見えて、思春期をこじらせたように異性や大人の話題に目がないのだ。彼はそういうお年頃である。察してあげよう。
(でも、裏路地って行ける範囲が限られていたような)
一見何の変哲もない世間話。しかし一点だけ引っかかる点があった。記憶を探るため、顎に手を当てて唸る。
「やっぱりお前も大人の店に興味あるのか?」
「……いや違うよ。その前のところ」
「裏路地にも色んなお店がある、ってところか?」
「そう、そこ。……街中ってどこへでも移動できるのか」
ここでひとつ、新たな事実が判明する。
この街には移動不可範囲なんて存在しないのだ。
ゲームではこの大通りや幾つかの表通り以外の場所はそもそもマップに表記がない。この辺りの店しか利用できないようになっていたのだ。
まあ、普通に考えると現実世界に見えない壁は存在しないけどね。ここはエレメントマギアの世界だし、無意識のうちに考えがゲームの方に引っ張られていたんだろうな。
「街中を自由に移動できるとか当たり前じゃんか。裏路地に入っちゃいけない法律なんてないだろ」
「ま、まあ、ルーカスからしたら当たり前だよね」
しかし、町中を自由に歩き回ることができるだけでも、一度本作をプレイした人間とっては衝撃的なことなのだ。
この世界では行こうと思えばどこへでも行ける。
街全体が行動範囲ってことは、ゲームでは訪れたことのない店舗も沢山ありそうだ。夢が広がるなー。早く町中を探索したい!
ここはいちプレイヤーとして興奮を隠しきれない。好きなゲームの新たな一面を知れるチャンスである。
そして、そんなこんなで寮を出てから数分が経過した頃。
「お、学校の正門が見えてきたぞ」
ふとルーカスが進行方向に目線を向けた。
どうやら街を眺めているうちにあっという間に学校の間近まで到着したようだ。
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