第2話 田所ヒロトという人間
現実に理想の恋愛は存在しない。
そう思い始めたのはいつの頃だったか。
俺――
まあ大学生といっても遊びに出かけるような仲の良い友人はおらず、休日などの暇には自宅のアパートにこもってゲームばかりしている。
目立った特技なし、趣味はゲーム。人に誇れるような容姿も持っていない。
ひと言でいうと、地味で平凡なつまらない奴って感じ。
当然、そんな男に仲のいい友人や彼女はいない。大学の授業とアルバイト以外は家に篭っているこの生活は自業自得と言えるだろう。……スケジュール帳? 予定がない俺には必要ないね。
そして、だからこそ常々思っていた。
彼女なんて作らなくても恋愛ゲームをやってれば良い、と。
現状からして自分にはゲームの方がお似合いということは一目瞭然だった。身の丈に合っているとでもいうべきか、必然的にこの思考にたどり着いた。
――恋愛ゲーム。
それは画面越しにヒロインたちと交流することを目的としたゲーム。
他にもギャルゲーや美少女ゲームなどいろいろ呼び名があるが、要は恋愛を仮想体験することができるゲームのことである。
この手の作品において、プレイヤーは己の分身である主人公のセリフや行動を選択して物語を進める。そして、ヒロインと結ばれることを最終目標としてゲームを進行する形式が多い。
俺はこのようなゲームに目がない。具体的には持っているパッケージの9割を恋愛ものが占めているほどである。
さて、世の大学生達は今もモテるために必死に努力している頃だろう。もちろんその目的は理解できる。異性の気を引きたいのは誰しもが抱える欲求だ。
だが、ここで考えてほしい。目的を恋愛に絞るならば、目の前には大きく2つの選択肢がある。
選択肢1、存在するかもわからない理想の恋愛を求めて奮闘する。
選択肢2、ゲームで確実に望む恋愛を手にする。
費用、労力、自分のポテンシャル、実現の可能性。それらを鑑みたとき、俺はふと思ったのだ。
え、ゲームする以外の選択肢なくね? と。
あくまで個人的な感想だ。現実の恋愛にかけらの希望もない男を対象にした場合、選択肢1は存在しないに等しかったのだ。
自身が求めているのは異性との鮮やかな日々。
ならば、たとえそれが画面の中の恋愛でも変わらない。ハナからリア充なんて目指さなくてもよかったのだ。代わりに、もっと気楽で多種多様な仮想恋愛を楽しめばいい。
現実に理想の恋愛は存在しない。
ならば、それはどこにあるのか。
答えは、『ゲームの中』。
だから今日も今日とて画面越しのヒロイン攻略に尽力しているってわけだ。傍から見たら寂しそうに映るかもしれないけど、これでも今の毎日には満足している。
ま、結局は『尊い』ものが正義。二次元は裏切らないからね!
今日も今日とて、絶対的な恋愛ゲームへの信頼を胸に画面のテキストを読み進める。セーブとロードを繰り返す。
――ある日突然、そのゲームの主人公に転生するとも知らずに。
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