三人の最強ヒロインと初期値ゼロの俺~剣と魔法の学園ゲームを攻略する件~

シロチドリ

第1話 目覚め

『おーい、起きてるかー?』


 扉越しに聞こえるのは少年の声。共に、ドンドンとノックする音が響く。


「んぁ? 誰だよこんな朝っぱらから……」


 窓から差し込む朝日に照らされながら俺――田所たどころヒロトは重たい瞼を開けた。


「……今何時だ?」


 あくびをしながら、7畳ほどの薄暗い部屋の隅に置かれたベッドで上体を起こす。


『早くしないと遅刻するぞー』

「……遅刻?」


 さっきから絶え間なくドアを叩く謎の人物。ここでようやく自身の眠りを妨げた犯人がドアの向こうにいることに気が付いた。


(部屋を間違えられたのか?)


 人違いであることは明白だった。全く心当たりがないのがその証拠だ。正直無視してこのまま寝ていたいところだが、


『おーい! 聞いてるかー?』


 残念ながら放っておける声量ではない。このままだと近所迷惑になってしまう。なぜなら俺が住んでいるのは大学近くのマンションの一室。大きな音は結構周囲のお宅にも伝わるのだ。

 

「……というか、用があるならインターホンを使ってくれよ」


 なぜか直接ドア越しに呼びかける声に少し不信感を抱きながら布団を跳ね除ける。面倒だが、直接出てからやめさせた方がてっとり早いだろう。目を擦りながら、仕方なく玄関へと向かった。


「……あぁ頭痛い」


 立ち上がると同時に頭がずきずきと痛んだ。なんだか視界もぼやけているようだ。まだ布団をかぶっていたい。少なくとも昼過ぎまではベッドを出たくない。


「そういえば、昨日はずっとゲームしてたんだっけ?」


 ふと、昨夜の自身の様子を思い出した。調子がすぐれない原因は遅くまで新作のゲームに熱中していたからだろう。寝た時の記憶がないから、ベットにはたどり着いたものの寝落ちするように就寝したに違いない。

 

 のろのろと重い身体を引きずりながらようやくドアの前に到着する。


 『おーい、早く出て来いよー』

 「……まだ言ってるな」

 

 相変わらず呼びかけをやめない人物に顔を顰めつつも、鍵を開けてドアノブに手をかける。大きな音を出されると頭痛がさらに悪化する。早くやめさせねば。


 そして、ゆっくりとドアを開けた。隙間から顔だけ覗かせる体勢をとる。


「あの、部屋間違えて――」

「おお、やっと出てきたな!」


 と、こちらの声は陽気な挨拶に見事にかき消された。

 

 扉の前に立っていたのはどこかの学校の制服を纏った青年だった。茶色の短髪に活発そうな面持ち。想像していたのとは正反対の爽やかな印象だ。

 

「おっす、今日はやけに遅かったじゃんか!」

「……誰」


 しかし、まったく見知らぬ子だ。見た目的には自分より少し年下、高校1、2年生くらいにみえるが、自身に年下の知り合いなど1人もいない。なぜこんなに親しげな様子で話しかけてくるのだろうか。


「おいおい、何寝ぼけてるんだよ。幼馴染の『ルーカス・トライド』に決まってるだろ。10年以上見てきたこのイカした面を忘れたのか?」

「……るーかす?」


 その時、寝起きではっきりしない意識に何かが引っかかる気配がした。


(明らかに日本人じゃない。……でも、どこかで聞いたことあるような?)


 突然、目の前の少年の見た目に強烈な既視感を覚えた。なぜか初めて会った気がしない。寝不足が原因で記憶でも飛んだのか?


 眠気から脳の処理速度が著しく低下している俺を見ながら、ルーカスと名乗る少年は続けた。


「ほら、さっさと行くぞ。突っ立ってないで早く着替えてこいよ」

「行くってどこに?」

「いや、そんなの決まってるだろ。何寝ぼけてるんだ?」


 思わず首を傾げてしまった。学校もバイトも今日は休みである。出かける予定はもちろんない。


 と、少年はおもむろに親指で後ろを指し示した。


(ん、向こうに何かがあるのか?)


 促されるままに彼の背後に目を向ける。

 少年の背後には窓が並んでいた。無意識に窓から差し込む陽光に目を細めたが、光量に慣れてくると徐々に視界はクリアになっていく。


 少年に遮られた向こう側を確認するため、ドアからさらに半身を乗り出した。やがて、窓ガラスを隔てた先に広がる景色の全貌が露わになる。

 

「――王立グランベル魔法学園。今日は記念すべき登校初日だぜ」

「……は?」


 思わず息が漏れる。目に飛び込んできたのは近所のマンション群などではなかった。一面に広がる中世ヨーロッパ風の町並みと、その奥で存在感を放つお城のような巨大な建造物である。


「はああああああぁ!?」


 ――なんとそれは、昨日プレイしていたゲーム、『エレメントマギア』の舞台そのものだったのだ。

 

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