最近、ゲームがやめられないのでリハビリやつ

るつぺる

ディアブロもFF16もおもしれえ

 砂と埃に包まれた大地。特殊な防護服なしには生きれない時代。そこに春は訪れるのか。諦めの季節が幾年にもわたって続いたように思える荒れ果てた地。たったの十年だ。かつては水の惑星ほしと親しまれてきた豊穣がたったの十年で塵と埃に支配され、我々人類は抗うように生きる道を探してきた。残された資源は僅か。滅びゆく彼の地を今日も歩く。

「ゼファー、準備はいい?」

「ああ」

「じゃあ入ります」

 砂に汚染されたその家は朽ちかけていた。大きさからいって並の、一世帯が生活していたと思われる一軒家。周囲に他にも住宅が群生していた痕跡は見られたがかたちを遺しているのはこの家屋のみだ。それは今を生きる我々にとって貴重だった。僕の仕事は文明の記憶を摘み取ることだった。この悪食の砂が気まぐれで残したかつての星の痕跡をできるだけ多くデータ化する仕事だ。人類は生存を懸けて星の移住を目論んだ。砂に食われるが先か、はたまた逃げ切るのが先か。どちらにせよ乏しい資源を用いて残された人々を他惑星へと移住させるなどとは夢物語に等しかった。それでも僕たち研究者が心を折ってしまえば助かる人もゼロになってしまう。これらの保存されたデータの数々から今残された資源と技術で出来るだけ多くの人を救う道を算出しなくてはならない。相棒のケイトは天才だった。水を葡萄酒に変えられるのはかつて神のみが成せる奇跡とされたが彼女にはそれを為す膨大な知識が備わっていた。何ごともなければ国の代表くらいにはなっていただろう。けれど滅びの星ではまさに救世主だった。彼女の指示に従って僕らはありとあらゆる過去の痕跡を記録するようになった。

「きっとあたたかい家庭だったのね」

 家屋のかたちが残っている場合、室内の被害は少ない。それが貴重だった。砂の侵食を免れそのままのかたちを保っている。ケイトは写真立てを眺めて呟いた。仲睦まじく肩を寄せ合った家族の写真。まだ幼い子供も見受けられた。

「こっちはダメだな。砂が入り込んでる。時間の問題だ」

「ちょっと待って」

 ケイトは侵食された部屋の隅にある不自然な柱から砂をはらった。憂鬱が立ち込める。

「酷いもんだ」

「逃げ遅れたのね。まだ子供。さっきの子かしら」

「神様ってのは随分冷静なんだな」

「揶揄ってる。それとも皮肉。私だって辛いと思うわ。だけど残された者は泣いていられない。特に私たちはね」

「ああ、つまらないことを言った。悪かったな」

「神様はやめて。私はただ役目を果たすだけ」

「ママ」

 空耳を疑った。僕でもない。ケイトでもない声。砂の中から出てきた子供の遺体。まさかなと。

「ママ、ママ」

「ゼファー、呼吸器、急いでッ」

「わかってるッ」

 子供は生きていた。信じられない。こんなことは未だかつてなかった。砂に食われれば僕らはなす術もなく、この防護服なしに息することさえ許されない。なのにこの少年は生きていた。応急処置を行い、すぐさま探査用のバギーまで運んだ。

「出して、早く治療しないと」

「記録はどうする」

「そんな場合じゃないでしょ」

「そうだな」

 自治区のシェルターまでは少なくとも二時間。僕はアクセルを踏み続けた。


「ローザ、あの子の様子はどう」

「落ち着いてる。でも奇跡ね。かなりの量、砂を吸ってた。できる限り洗浄したけどまだ取りきれてない。でも、これってもしかして私たちにとっては大きな進歩じゃない。移住しなくても生きる道があるかもしれない」

「確実なことは言えない。だけどあの子の意識が戻ったら色々と聞きたいことはあるわね」

 ローザは医者で僕ら研究班にとっては頼もしい協力者だった。けれど惑星移住については好ましく思っておらず、今回砂の侵食を生き延びたかもしれない少年が現れたことでその瞳を人一倍輝かせていた。まだ何もわからない。それでも人は光ある道を期待して縋りつかずにはいられない。たった一本の蝋燭が照らす僅かな灯りであっても。砂はそんなふうに全てを奪い去ってしまったのだ。星の命に比べれば蟻の一歩にも満たない時間を生きる我々が星の死を見届けようとしている。


「キミはどう思う」

「さっぱりよ。私がもてる知識と経験を総動員しても説明がつかない。砂、私たちがそう呼んでいるものの正体だって殆どのことは解明できていないのだから。ただ彼らには人類に対する敵意と繁殖本能があって、つまりある種の生命体として活動しているということ。あの子がなんらかの対抗を持っているなら私は彼を調べたい」

「腹でも開くか」

「ゼファー、私は誰かの犠牲をもってして世界を救いたいだなんて思ったことはない」

「すまない。少し焦ってるのかもしれない俺も、本当はこんなふうに言いたいわ け 砂をすこし 吸い す」

「ゼファー、どうしたのッ ゼファーしっかりして ローザッ」


 気がつくと部屋は真っ暗だった。様子がおかしい。シェルター内を維持するための電力はケイトが発明した砂の侵食能力を逆手に利用した自家発電システムで補ていた。なのに照明が全て落ちている。かといって誰かが騒いでいる様子もない。意識を失っている間に何が起きたのか。

「ケーーイト、何があった。どこにいる。いるなら返事をしてくれッ」

 嫌な予感がした。ザラつく床。砂だ。ケイトやローザの名を叫んでもシェルター内で虚しく反響するだけだった。

「ママ」

「おまえ。意識、戻ったのか」

 救出した少年の声が返ってくる。

「ママ」

「なあ皆んなはどうした。何があったここで」

「ママ」

「何とか言えッ」

 直後耳をつんざくような高音が鳴り響いた。音に呼応して再び照明が戻る。僕はまるで脳を直接刺されるような痛みと眩暈をおぼえ再び意識を失いそうになる。ママ、そう繰り返す少年だと思っていた声の主。明かりと共に露わになった姿形に僕は絶句した。もはやそれは人に非ず。きっとコレのせいでシェルター内の人たちは残らず死んだと思わせる醜悪な怪物。僕らはとんでもないものを懐に招き入れていた。再び高音が響く。不思議と笑みが溢れた。神などいない。全ては無駄だった。十年が泡のように一瞬で消え去ろうとしている。だが、これで、終わりなんだ。

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最近、ゲームがやめられないのでリハビリやつ るつぺる @pefnk

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