一人称でも三人称でも好きに書け

「初心者は書きやすい一人称がオススメ」


うんうん。


「Web小説で人気を出すために読者が感情移入しやすい一人称がオススメ」


わかる気もする。


「故にWeb小説は三人称で書いてはいけない」


いやいやいやいやいやいやいやいや。


そんな訳ないだろう。


結論から言うと「好きに書け」なんだけど、この辺悩んでいる人のために人称の視点についての見解をまとめておきます。


まず一人称。一人称は確かに書きやすい。「私は~と思った」というところで統一しておけばとりあえず問題はない。しかしデメリットも存在して「視点主が知覚できないものは描写できない」ということ。


つまり「一方その頃」みたいな別の時間や場所の描写はできないし、視点主の想像以上の出来事も描写できない。だから視点主についてかなり練る必要があるし、「何を描写して何を描写しないか」という取捨選択も大事になる。


よくある「俺の名前は〇〇。普通の高校生だ」という書き出しが微妙になるのは、まず主人公がいちいち名前を知覚するかという点にある。朝起きて毎回「私の名前は〇〇です」と思う人ってどのくらいいるだろう。


あと個人的に自分を「普通」と思ってる奴、ろくな奴がいないと思う。「なんの取り柄もない」とか「皆より出来が悪い」とかはあると思うけど「ごくごく普通」と言われると「へー君を基準に世界は成り立ってるとか随分ご立派ですね!」とか思っちゃう。そういうご立派なキャラならいいんだけど、おそらく「普通」と言っちゃうのはうっすらとした劣等感から来るものだろうし、そこの深堀りは小説書く人としてサボってはいけないところだと思う。「普通ってどこを基準にしている?」みたいな。例えばアメリカの生活の普通と南極の生活の普通、それに宇宙人の普通とか異世界人の普通とか、いろいろある。さて、「ごくごく普通」って何だろうね?


そして三人称。個人的に初心者こそ三人称で書いて欲しいなとは思う。小説って世界を俯瞰する必要があって、一人称で書いてても「このキャラはこう思ってるけどあっちはそう思ってない」みたいなところがあるから、最初は世界を作ることを目標に特にこだわりがないなら三人称で書いたほうが楽に小説は書けると思う。できればキャラは2~3人で、その書き分けができてから一人称とかのほうがスムーズに事が進む、はず……。


当たり前だけど、「このジャンルは〇人称で書け!」という縛りは存在しない。だけど、上記の特徴のために〇人称で書くと効果のあるジャンルが存在するのは確か。


例えば一人称において「相手の心情を確実に把握出来ない」というのは恋愛小説において大いに有利だし、周囲が知覚できないホラー描写なんかはドキドキ度アップである。


逆に視点主しか知覚できないと全体像が把握出来ない群像劇やミステリー、敵側の事情も知っていた方が盛り上がる戦記なんかは三人称のほうが魅力的だ。


(三人称のカメラ視点の詳しい話をすると面倒なことになりそうなので、それはまた今度するね)


もちろん三人称でいろんなキャラの心情を書いた恋愛小説を書いてもいいし、探偵の一人称でミステリーを書いてもいい。それはその視点の有利なところを活用する、くらいでいいと思う。


つまりだな、「このジャンルは〇人称で書け!」「初心者は〇人称がいい!」というのは「~しなければならない」というものじゃあないよ!ということです。小説において「~べきであれ」はないから。もうね、それだけ。ただ、基本を押さえてないと失敗するよ、ということだけは確か。基本ってなんだ!?難しい!!


ちなみにこの文章書いてる人は、現在連載してる長編で「主人公以外の視点」で統一して書いてます。大体主人公は話の中に存在するけど、主人公の内面だけは絶対書かない。周囲はこう思ってる、を繰り返し書いて最終的に主人公の全体像を見ていく、みたいなのをやってます。そういうのも、無くはないと思うけど、多分Web小説ではダメな部類に入ると思う。いやー世知辛いねえ。


次回は……さっき「普通とは」みたいな話をしたから「普通という概念とキャラの作り方」みたいな話にしようかな。それじゃあのんびり書いていきましょう。


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