詩 「タエト」

@aono-haiji

第1話  詩  「タエト」


Azumi 野の空が帰るところ

苔むした隧道ずいどうの奥に

捨てられた小さな編み靴

落ちてゆく人の声が聞こえてたのは

小半刻こはんとき

そこにあったのね

空のふるさと

いいよ

だれにも言わないから

わたしは もう 帰るところないから

ずっと 底のそこまで 連れてって


あなたがタエト…………

美しいのね

お着物が金色……………

おかしいよね

ここには光はないのに

なぜ あなたが見えるの?

コバルト60を宿してるから?

あは……は

笑ってなんかいないよ

わたしは 神の使い

最後の一人を

見つけて

愛して

消しにきたの


どんどん つぎつぎ どんどん

   

地上に近いところでは

何かが起きているね


でも わたしを

あなたのしとねでやすませて


あなたがひとりになったとき

きっと あなたは

新しい空をもうとするから

それを見たいの

あなたが好きだから

一度でいいから 見たいの

そのわきから生まれてくる

あざやかなコバルトブルー


タエト

あなたは お空を生みながら

いつも優しく歌ってた

ちいさな ちいさないのちを 愛してた

いのちに涙を教えたのは

あなただったの?

いのちはいつも ひとりぼっちだから

ありがとうの想いを 残すために


ごめんなさい

わたしたちが いけなかったのね


わたしは あなたを休ませてあげたいと思ってる

だから あなたと結ばれたいの


告白するわ

あなたが 最後の一人なの

愛して

わたしを

愛して


タエト

トビいろのひとみ


あの美しい空は きっと 残るから






※ 「タエト」の名前は井伏鱒二さんの『朽助のいる谷間』からお借りしました

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