第8話

 何をすれば良いかは分かってる。

 けれど、飛鳥ちゃんと約束した『私と目白が仲良くなる』は、正直に言ってかなりハードルが高かったりする。


 まぁでも。それでもそれを果たせなければ私にだけ通話で敬語を辞めてくれたり、砕けた口調で飛鳥ちゃんが私に接してくれるという報酬も得られない。


 私はスマホでトークアプリの、一番上にピンで刺した飛鳥ちゃんとのトーク履歴を開く。

 そこには通話時間1:27:54と表示されていた。自然と口角が上がり、ニマニマしてしまう。

 あの後も「まだ通話切りたくない」とおねだりしたら、飛鳥ちゃんは快く受け入れてくれた。


 特別な感情を抱いている相手と一時間以上も通話出来たことで喜びが溢れてくる。

 昨夜は表面上だけでも目白と仲良く見せとけば良いかぐらいに考えていた。

 けれど、少しだけ頑張ってみようかな、と思えている。今は。なぜなら、私にも少し昨日の通話で心にゆとりが出来たから。


 努力はしてみるべきだと、もう一人の私が言ってくるのだ。


 私は寂しい玄関でローファーを履く。

 今日は「いってきます」を言うことさえ忘れたまま家を出発した。


◇ ◇ ◇


「ぁ、あの。姫路ちゃん、ちょっといいかな?」


 教室について、自席の机の脇に鞄を置いて椅子に座ろうとしていた私は、そんなか細い声で呼ばれる。

 目白めじろ あや

 が、まさか朝に自ら話しかけに来てくれるとは、私としても好都合だったから大人しく着いていく。


 ちなみに、私以外にも人が大勢いる教室前では気弱な小動物を演じていた目白のことは、あえてもう触れないことにした。


 屋上階の鍵の閉まった扉の前。

 確かに誰も来ることの無さそうな静かな場所で私たちは向かい合う。

 いったい彼女はどんなことを話すために私をこんな人気の無い場所に呼んだのか。

 見当はついていた。

 きっと、昨日''飛鳥ちゃんと二人で帰った''ことについてだと思う。


 私はそのことを聞かれた時のための回答を予め頭の中で考える。

 けれど、目白という女から発せられた言葉は私よ予想の斜め上をいくものだった。




「お前、ボクと付き合わない?」

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