②
「その子、嫌がってるじゃないですか!!」
腕を組み、胸を堂々と張って仁王立ちする黒髪セミロングの女の子。
黒のスカートに白のオフショルダー。生足を思う存分、ひけらかしてる。
眉間にはシワができて、目つきも厳しめで鋭い。
よくよく見れば、そんな女の子の背に隠れるように、もう一人いた。
赤味のある茶髪。クリっとしてる瞳はうるうると、挙動不審になっているのが伺える。
一目見た判断では、あたかも気弱で小動物みたいな女の子がいた。
黒髪の子の方がおおよそ10cmくらい茶髪の子よりも背が高い。
私も背は高い方だけれど、黒髪の子はそんな私と大差ない。私の方がほんの少し高い程度。
多分、茶髪の子が平均くらい?いや、平均よりも少しだけ低いくらい。
黒髪の子は茶髪の子を庇うように立って。
茶髪の子は黒髪の子に素直に守られるんだけど、心配はすごくしている。
あぁ、この子たちはとっても仲が良いんだな。
羨ましいなぁ。
と、場違いにもそんな感想を彼女たちに抱いてしまった。
出来るなら、私は今からにでも彼女たちと仲良くなるために行動したい。そっちに行きたい。
けれど、忘れちゃいけない。
今この場には、そんなこともなりふり構っていられないほどに性欲が爆発しそうな女が一人いることを。
「なにか?うちらに用?」
「だから!その子、嫌がってるじゃないですか!!!」
「は?今はたまたまそう見えるだけでしょ。どうせこの後ホテルに行けば、この子だってきっと良い笑顔になってるし」
「ホ、ホテル!?……な、なおさらダメです!あなたたち、見た感じ未成年じゃないですか!!」
「ん?その理屈で責める感じ??じゃあご愁傷さまぁ。うちは大人なんで。普通にホテル行けます〜。それじゃ、もういい?さよなら〜」
「あっ!ま、待ってください!!」
発情しきった女が、再び私の腕を引きながら歩きだす。
ほんとうは、黒髪の子が私を助けてくれるのではないか、と期待したけれど。
実際問題。現実はそんなに甘くは無いし。思い通りに行くことは数少ない。
「そっちの!あ、あなた!!」
腕を引かれながら、もう今日はこのままホテル行きか、と諦めかけていた私の背に、そう呼びかける声がかかった。
「あなたは!?あなたは本当に大人なんですか!??」
「ち、ちがう!私はまだ高校生で―――」
「はぁい。もう無視するよぉ。着いてきてくださいねー」
女が突然走り出した。
ヒールを履いてるのに、よくもまぁ私を引っ張りながらこうも走れるなと感心してしまう。
「待って!!待ってください!!!」
最後まで、黒髪の子の何とか私を助けてあげようとする懸命な声が私の背を刺した。
だけど、繰り返すが現実はそんなに甘くはない。思い通りに行くことも少ない。人生とはままならないもの。
私は肩越しに黒髪の子の姿をもう一度見て、次があるかも分からないのに、次に会った時のために外見だけでも覚えておこうと思ってその姿を脳裏に焼き付けた。
◆ ◆ ◆
in ラブホ
「はぁ。さっきの子たち、急にしゃしゃり出てきてムカついたよねぇ。私もムラムラを我慢するのに必死だったんだから〜」
「……………」
「どうしてずっと黙ってるの?」
女がジリジリと、ベッドの上に座らされた私に近づいてくる。息遣いも、さっきよりもずっと荒い。興奮状態の極みである。
「あんた、それ以上近寄ってきたら……」
「??? 近寄ってきたら?」
「…………あんたのこと嫌いになるから」
自身のバッグを抱きながら、頑固防御体制に入る私。
だけど、私の抵抗の言葉を聞いた彼女は、そう、それはまるで瞳にハートマークを映したかのような、漫画ならキュゥン♡って擬音語が描かれてるような。そんな表情をしていた。
要約すれば、「嫌いになる」という私の言葉を聞いて、この女はあろうことか、恍惚とした表情をしてウットリと私を見てきたのだ。
「もう♡可愛すぎるでしょ♡♡」
「………今日のあんた、なんかいつもと違くない?」
いつもの彼女は、私に甘えてきてばっかりで。私の一挙一動に百面相になって。私の機嫌をとって媚びを売ってばかりで。そういう行為の時だって、決まって私がタチ側で、彼女はネコでしか情事を行ってこなかったのに。
今日の彼女は、なんだか、怖い。
下手したら、今夜は私を食べてきそうな勢い。
「そうかな?今日のうち、そんなに違う?」
「だって、いつものあんたなら私にここまで強い物言いなんて出来ないでしょ」
「あ〜、なるほどね。だけどね、それを言うなら、いつもと違うのはそっちだと思うなぁ、うち」
「は?どーゆーこと??」
「わからないの?だってさ、
今日のレンちゃん、とーっても虐めたくなっちゃう反応ばかりするんだもん♡♡
レンちゃんが悪いんだからね?レンちゃんがそんな態度ばっかりとるから、今日はうちが気持ちよくして、あ・げ・る♡」
現実なんて甘くない。
ホテル街のあるホテルで。
今まで受けでなんてシてこなかった女と、今まで攻めなんてシてこなかった女の凄惨な一夜が今から始まろうとしている。
そしてその一夜が、
私こと
この女、
新たな性癖の扉を開ける忘れられない二人だけの思い出になるのは、翌朝になってからのことだった。
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