秘密のサインは×印

百日紅

第1話

「ねぇ、ハァハァ、、もう触ってほしいよ」


 首に手を回して抱きついてくる女に嫌気がさす。

 胸を私の腕に押し付けてきて、正直うっとうしい。

 というか、、


「ここ外だよ?」

「だからぁ、ホテル行こ?」

「いやぁ、私お金持ってないから」

「いいよぉ。全部うちが出すからぁ。ねぇ、行こ?」

「めんどくさいなぁ。行かないよ」


 さっきから、そんなやり取りの繰り返し。

 都合の良い女、セフレ、そんな枠組みで彼女を利用してきたけれど……

 そろそろ潮時かもしれない。


「はぁ。誰か私が夢中になれる相手女の子っていないかなー」


 そうやって言ってみた独り言も、「えー!うちにしときなよー!いつでも抱けるよ?うちと付き合ってくれたら!!」なぁんて、もうすっかり私の中では興味が失せた女によって無きものにされる。


「別にあんたには言ってないから」

「えぇー?そんなこと言っちゃてさ。実はうちと体だけの関係じゃなくて、正式に付き合いたいけど素直じゃないから言えないだけでしょ?」

「は?キモイんだが」

「はいはい♡ツンデレなとこも好きだよぉ」


「……………もういい。今日はもう帰る」


 今日はこの女と朝から一日二人きりの買い物に付き合わされて、色々と疲れた。

 まぁ、お昼ご飯も、夜ご飯も奢ってくれたことには素直に感謝してるし。私が欲しいと思うものを極力買ってみせてくれる彼女のことは本当に使女だと思うけれど。


 そしてでまた、このホテル街に来てしまったわけ。

 スマホの時計をチラリと見れば、『21:14』と表示された。


 彼女の息遣いがとても荒い。

 いつもだったら、「よくここまで我慢できたね。えらいね」なんて甘い言葉を彼女に囁きながらホテルに入るんだけど。


 正直もう今日はそういう気分じゃなくなった。

 なんというか、こう、もう遊びは懲り懲りなんだ。

 さっきも言ったけど、そろそろ私も本気の恋愛をしてみたい。本気で私が好きになれるような女の子を見つけたい。


 だから、本当にこの使える女を手放すのは惜しいけれど、、、


「もう連絡もしてこないで」


 私はそう言った。

 我ながら、――クズだなぁ、わたし――と思うことも多々ある。今だって、自覚が無いわけじゃない。

 けど、

 それなのに……………


「は?」

「ッ!!」


 女の、私の腕を掴む力が強くなった。

 はっきり言って、けっこう痛い。


「ほんとうに?ガチでうちと距離置くつもり?」

「さ、さっきからそう言ってんじゃん」

「いやいや。いやいやいやいや、から」

「な、なんで?」

「うちがどれだけ貢いだと思ってんの?それに今だってもう我慢の限界だし。――ほら、早くホテル行くよ」

「は、はなせよ!そもそも社会人のあんたが高校生連れてホテル行ったら犯罪だから!」

「そんなの………今さらな話でしょ?」


 っ!!

 グイグイと腕を引っ張られる。


 さっきまで。というか今まで、私の方が背も高いし、この女も私に甘えた声や表情しか出してこなかった。それに、そういう行為だって私がいつも主導権を握ってた。

 だから、てっきりこの女は私よりも弱い存在だと勝手に認識してたけど。


 今、改めて思った。

 いつもはフリをしてただけ。

 本当は、こんなに力も強かったんだ。


 そんなことを思ってる今もなお、私は彼女に抵抗も虚しく引っ張られ、ホテルへと近づいていく。


 なんか、なんかさ。

 いやだ。

 今日は本当に、もう嫌なんだよ。

 そういう気分じゃない。

 だから、もう帰りたいのに。


 振り解けない。

 大人の力って、こんなに強いの?

 それとも、、、


 それとも、この女のキレてる顔を初めて見たから気圧された?

 分からない。けど、今このままホテルに連れていかれるのはマズイ。

 どうしよ。

 大きい声だした方が良いの?でも、こんなホテル街で大きい声だしても、それこそ今さらすぎない?女ならともかく、男が寄ってきたら対処出来る自信が無い。


 だから、私は本当に小さく。

 そしてか細く。

 本来なら誰にも聞かれることなく、ホテル街の喧騒に呑まれてしまうような声で、呟いた。



「―――――――ぃやだ。ごめんなさい」



 そんな私の呟きを、拾ったのはきっと二人だけ。

 一人は、私の腕を引く女。

 立ち止まって、私の方を振り向いた時の表情は、また私が初めて見る表情だった。

 なんというか、こう、とてもSっ気のある。まるで大人の力に怯え始めた私を、なお痛めつけたいと考えてそうな、そんな恍惚とした表情だった。


 そして、もう一人。

 私の小さな声を聞いて、拾ってくれた女の子がいたんだ。


「あの!ちょっと待ってください!!」


 ホテル街に、そんな私の声よりもワンオクターブ高い声が響いた。


 私たちの足を止めた、その声の持ち主は。

 私たちを見て、腕を組み、胸を張るその凛々しくも可憐な女の子は。


「その子、嫌がってるじゃないですか!離してあげてください!!」


 後に知る。

 名前を金桐かなぎり 飛鳥あすかという女の子。

 高校二年生。私とタメの女の子。



 ちょっと先の未来で、私とドロドロな関係を築き上げる女の子が、仁王立ちで立っていた。




━━━━━━━━━━━━━━━


新作です。

えぇそうです。クズ百合です。

この作品を読んで、クズ百合が書きたくなった人が増えたら、私の勝ち。


とりあえず今はタグとかも散らかり放題だから。

クズ百合小説っていうのもあるし、星の数が50いけたらタグ整理します。


あと、クズ百合のタグをつけた小説を集める自主企画を作りますので、クズ百合に興味を持って書いた方がもしもいらしたら、ぜひ参加してみてください。



最後に一言。


「クズ百合のタグ付け小説、増えて!」

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